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最終章
斟酌
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呼吸と共に揺れる
柔らかな髪
胸に抱える清人の腕を
持ち上げた久我は
力無く動く腕に
熟睡を確認し
清人の躰を
ゆっくりと布団へと
寝かしつけた
寝静まる清人の横顔は
幼さを残しながら
顎のラインが
大人びて映り
離れた時の長さを知る
空白期間を埋めるには
数時間で取り戻せる程
安易ではないが
蓄積する疲労に勝てず
清人に寄り添う久我も
深い眠りへ堕ちていた
新年を迎える
元日の朝
二日酔いの喉の渇きに
薄目を開けた久我の眼へ
陽の光が射し
窓辺で佇む清人のシルエットが
髪を靡かせ映り込む
目覚めた久我に気づき
窓硝子を閉める清人は
不安気な表情で
久我へ歩み寄り
「眠れたか」
寝惚け眼の久我の問い掛けに
膝を落とし座る清人は
小さく頷き応えた
不安を隠せぬ清人の頬へ
久我は腕を伸ばし掌を添える
「明けましておめでとう」
若干 戯ける久我の言葉にも
戸惑いを滲ませる清人は
口篭る声で 呟いた
「…食堂で…お父さんと…」
起き上がる久我は
酷い寝癖を掻き毟り
大欠伸すると
両手で顔面を擦り上げ
「新年の挨拶しに行くか
清人の事も 紹介しないとな」
食堂にて 鉢合わせしてしまった
初対面のふたり
未成年の少年を 護る覚悟と
保護する為の理由
親父の同意を得られるとは
考えていないが
同居の承諾を得るまでは
食い下がる訳には いかず
予測不能な正念場に
久我は 数回 咳払いをした
視線を逸らす清人の
複雑な心境が
手に取るように伝わる
待ち望んだ再会を果たし
まだ見ぬ清人の笑顔
清人を受け入れる準備もせず
連れ帰ってきた久我は
己の未熟さに飽きれ
意気込みが 抜け
情けなく肩を落とすと
不可解な笑みを浮かべた
壁に掛けた制服を指差し
漠然と清人へ薦める
「着てみろよ」
久我の些細な冗談にすら
否が応でも指示に従う清人は
表情を固め
ハンガーから外した
制服のブレザーへ
袖を通し見せた
スエットの上に羽織る
中学校の制服姿は
中学時代の久我を思い出す
袖口や襟首が黒ずみ
汗臭く汚れ臭いを放ち
喧嘩で破れたワイシャツ
白いワイシャツを着ず
パーカーやTシャツを着込み
校則違反を正当化していた
照臭く苦い過去
久我にとって
必死で掴んだ公立校から
市立への転校は挫折感に囚われ
ワイシャツの黒染みは
家族離散の象徴でもあり
売却された家屋は失望でもあった
破滅に向かう崩壊寸前の思春期
どす黒く濁った敵意を隠す為の
憎悪の制服を纏った
暴れ荒んだ久我の学生時代
制服姿の清人を眺め
無理強いを押付けている気がした
「どうする?」
不意に問われた清人は
深刻な表情の久我に怯まず
率直な意見を告げる
「挨拶しに行きます」
久我の思惑など知り得ぬ
清人の返事に我を取戻す久我は
囚われた過去を振り払い
「そうだな」
清人の肩から制服を脱がし
ハンガーへ掛け直すと
穏やかな笑顔を見せ
「 情に厚い〝親父〟だ
安心していい」
清人を宥める久我の優しい声に
緊張する清人の表情が
微かに緩みを与えていた
柔らかな髪
胸に抱える清人の腕を
持ち上げた久我は
力無く動く腕に
熟睡を確認し
清人の躰を
ゆっくりと布団へと
寝かしつけた
寝静まる清人の横顔は
幼さを残しながら
顎のラインが
大人びて映り
離れた時の長さを知る
空白期間を埋めるには
数時間で取り戻せる程
安易ではないが
蓄積する疲労に勝てず
清人に寄り添う久我も
深い眠りへ堕ちていた
新年を迎える
元日の朝
二日酔いの喉の渇きに
薄目を開けた久我の眼へ
陽の光が射し
窓辺で佇む清人のシルエットが
髪を靡かせ映り込む
目覚めた久我に気づき
窓硝子を閉める清人は
不安気な表情で
久我へ歩み寄り
「眠れたか」
寝惚け眼の久我の問い掛けに
膝を落とし座る清人は
小さく頷き応えた
不安を隠せぬ清人の頬へ
久我は腕を伸ばし掌を添える
「明けましておめでとう」
若干 戯ける久我の言葉にも
戸惑いを滲ませる清人は
口篭る声で 呟いた
「…食堂で…お父さんと…」
起き上がる久我は
酷い寝癖を掻き毟り
大欠伸すると
両手で顔面を擦り上げ
「新年の挨拶しに行くか
清人の事も 紹介しないとな」
食堂にて 鉢合わせしてしまった
初対面のふたり
未成年の少年を 護る覚悟と
保護する為の理由
親父の同意を得られるとは
考えていないが
同居の承諾を得るまでは
食い下がる訳には いかず
予測不能な正念場に
久我は 数回 咳払いをした
視線を逸らす清人の
複雑な心境が
手に取るように伝わる
待ち望んだ再会を果たし
まだ見ぬ清人の笑顔
清人を受け入れる準備もせず
連れ帰ってきた久我は
己の未熟さに飽きれ
意気込みが 抜け
情けなく肩を落とすと
不可解な笑みを浮かべた
壁に掛けた制服を指差し
漠然と清人へ薦める
「着てみろよ」
久我の些細な冗談にすら
否が応でも指示に従う清人は
表情を固め
ハンガーから外した
制服のブレザーへ
袖を通し見せた
スエットの上に羽織る
中学校の制服姿は
中学時代の久我を思い出す
袖口や襟首が黒ずみ
汗臭く汚れ臭いを放ち
喧嘩で破れたワイシャツ
白いワイシャツを着ず
パーカーやTシャツを着込み
校則違反を正当化していた
照臭く苦い過去
久我にとって
必死で掴んだ公立校から
市立への転校は挫折感に囚われ
ワイシャツの黒染みは
家族離散の象徴でもあり
売却された家屋は失望でもあった
破滅に向かう崩壊寸前の思春期
どす黒く濁った敵意を隠す為の
憎悪の制服を纏った
暴れ荒んだ久我の学生時代
制服姿の清人を眺め
無理強いを押付けている気がした
「どうする?」
不意に問われた清人は
深刻な表情の久我に怯まず
率直な意見を告げる
「挨拶しに行きます」
久我の思惑など知り得ぬ
清人の返事に我を取戻す久我は
囚われた過去を振り払い
「そうだな」
清人の肩から制服を脱がし
ハンガーへ掛け直すと
穏やかな笑顔を見せ
「 情に厚い〝親父〟だ
安心していい」
清人を宥める久我の優しい声に
緊張する清人の表情が
微かに緩みを与えていた
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