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最終章
空虚
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咥えた煙草を
ディスクの灰皿で
捻り潰す篠崎は
腕時計を確認する
「出るか」
篠崎の言葉を合図に
ハンガーから上着を外す穂苅は
篠崎の背中へ被せ
袖に腕を通し
上着を羽織る篠崎は
テーブル上の札束を
無造作に鷲掴みし
穂苅へと突き出すと
穂苅は用心深く
ボディバッグへ
押し込んだ
「まだ 間に合うか?」
篠崎の問い掛けに
冗談めかしく笑う穂苅
「24時間営業っすよ」
チラリと穂苅を横目に
歩き出す篠崎は
苦言を呈す
「年末もか」
引き攣る笑みで
焦りを隠せず
誤魔化す穂苅は
篠崎から眼を逸らした
事務所内で交わされる
日常会話の中
清人だけが
空虚に覆われ
存在していた
まるで見ず知らずの
無関係者のように
清人の横を通り過ぎる篠崎は
事務所のドアを開け
穂苅に連れられ
清人が事務所を出ると
エレベーターのボタンを押した
事務所の鍵を掛ける穂苅が
エレベーター前へ移動し
篠崎が乗り込むまで
扉の開閉を抑え
軋む機械音を唸らせ
エレベーターの扉が
閉じらてゆく
数秒間 唸り続ける機械音が
鈍い音を立て停止すると
バチンと破裂音を鳴らし
階段通路の照明が消え
清人は暗闇に取り残された
視界を奪われた清人は
ただ茫然と
闇の中に眼を凝らし
壁に手を添え
危なげな階段の段差を
踏み外さぬよう
降りてゆく
折り返しの踊場で
精魂尽きる程
神経を削る清人は
薄らと慣れる闇へ
倉庫ドアが浮かび上がり
微かな安堵感に溜息を漏らす
倉庫ドアに辿り着く清人は
ドアを背に据わり込み
重ねた腕に顔を伏せた
居場所を失くし
行場の無い孤独が
清人を襲う
階段下のコンクリートは
清人の熱を奪い
身体を凍らせ
まるで遭難した洞窟のように
恐怖を体感してゆく
誰も居ないビルの中
物音すら壁に吸収され
息を吐く事すらも
罪悪感に囚われる清人は
抱え込む頭を過る
脳裏の映像が無音映画仕掛けで
次々と切り替わってゆく
エレベーター扉が
篠崎の姿を封じ
関係者専用の鉄扉が
関の姿を封じ
小夜子ママと幸介の姿が
閉じゆく光へと背を向け歩き
穂苅が後を追い
闇に覆われた
声にならない悲鳴を発し
衝動的に立ち上がる清人は
2階から吹き抜けの
階段通路の手摺に体当たりし
手摺に脚を掛けた瞬間
エレベーター横の
嵌め込み式の汚れた窓が
発光体を映し暗闇を照らす
商店街のアーケードから
突き出すビルの窓
僅かばかり聴こえる
上昇する飛行音と
火薬が破裂する音
近隣住民が打ち上げた
ロケット花火
手摺から降りた清人は
発光した窓へと脚を向け
蜘蛛の巣と誇りに塗れた窓から
灰色の空を見上げる
再度 飛行音が高鳴り
赤い火花を散らし打ち上がり
破裂する火薬が
夜空を赤く染めた
ドクンと打ち鳴らす鼓動が
清人の胸を力強く叩き
久我に撃ち込まれた
拳の痛みが
清人の身体に滲み渡り
『清人』
久我の声が
幻聴ではなく
ハッキリと清人の耳を
貫いていた
ディスクの灰皿で
捻り潰す篠崎は
腕時計を確認する
「出るか」
篠崎の言葉を合図に
ハンガーから上着を外す穂苅は
篠崎の背中へ被せ
袖に腕を通し
上着を羽織る篠崎は
テーブル上の札束を
無造作に鷲掴みし
穂苅へと突き出すと
穂苅は用心深く
ボディバッグへ
押し込んだ
「まだ 間に合うか?」
篠崎の問い掛けに
冗談めかしく笑う穂苅
「24時間営業っすよ」
チラリと穂苅を横目に
歩き出す篠崎は
苦言を呈す
「年末もか」
引き攣る笑みで
焦りを隠せず
誤魔化す穂苅は
篠崎から眼を逸らした
事務所内で交わされる
日常会話の中
清人だけが
空虚に覆われ
存在していた
まるで見ず知らずの
無関係者のように
清人の横を通り過ぎる篠崎は
事務所のドアを開け
穂苅に連れられ
清人が事務所を出ると
エレベーターのボタンを押した
事務所の鍵を掛ける穂苅が
エレベーター前へ移動し
篠崎が乗り込むまで
扉の開閉を抑え
軋む機械音を唸らせ
エレベーターの扉が
閉じらてゆく
数秒間 唸り続ける機械音が
鈍い音を立て停止すると
バチンと破裂音を鳴らし
階段通路の照明が消え
清人は暗闇に取り残された
視界を奪われた清人は
ただ茫然と
闇の中に眼を凝らし
壁に手を添え
危なげな階段の段差を
踏み外さぬよう
降りてゆく
折り返しの踊場で
精魂尽きる程
神経を削る清人は
薄らと慣れる闇へ
倉庫ドアが浮かび上がり
微かな安堵感に溜息を漏らす
倉庫ドアに辿り着く清人は
ドアを背に据わり込み
重ねた腕に顔を伏せた
居場所を失くし
行場の無い孤独が
清人を襲う
階段下のコンクリートは
清人の熱を奪い
身体を凍らせ
まるで遭難した洞窟のように
恐怖を体感してゆく
誰も居ないビルの中
物音すら壁に吸収され
息を吐く事すらも
罪悪感に囚われる清人は
抱え込む頭を過る
脳裏の映像が無音映画仕掛けで
次々と切り替わってゆく
エレベーター扉が
篠崎の姿を封じ
関係者専用の鉄扉が
関の姿を封じ
小夜子ママと幸介の姿が
閉じゆく光へと背を向け歩き
穂苅が後を追い
闇に覆われた
声にならない悲鳴を発し
衝動的に立ち上がる清人は
2階から吹き抜けの
階段通路の手摺に体当たりし
手摺に脚を掛けた瞬間
エレベーター横の
嵌め込み式の汚れた窓が
発光体を映し暗闇を照らす
商店街のアーケードから
突き出すビルの窓
僅かばかり聴こえる
上昇する飛行音と
火薬が破裂する音
近隣住民が打ち上げた
ロケット花火
手摺から降りた清人は
発光した窓へと脚を向け
蜘蛛の巣と誇りに塗れた窓から
灰色の空を見上げる
再度 飛行音が高鳴り
赤い火花を散らし打ち上がり
破裂する火薬が
夜空を赤く染めた
ドクンと打ち鳴らす鼓動が
清人の胸を力強く叩き
久我に撃ち込まれた
拳の痛みが
清人の身体に滲み渡り
『清人』
久我の声が
幻聴ではなく
ハッキリと清人の耳を
貫いていた
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