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最終章
自戒
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腕時計の針が
時を刻まず
同刻を示す
刻一刻と秒針だけが
回り続けているだけの
長い時間
21時を過ぎ
秒針の針さえも狂い始め
隆行の鼓動すらも
停止しているような
感覚に陥る
しばらく経ち
扉の音と同時に
高鳴る鼓動が脈を打ち
クオーツ時計の秒針が
カツコツと振動を与えた
出迎えた隆行に
半開きのドア越しから
視線を送る関は
無言のまま背を向け
閉じ掛ける扉へ
焦り駆け寄る隆行は
一瞬にして全身に
冷や汗が滲んだ
恐怖を揺さぶる
エレベーターの鈍い音
薄暗く狭い通路
軋む鉄条の扉
冷えた空気が肌を掠め
踏み鳴らす砂利が
革靴の底を刺す
身震いする冷気に
身を縮める隆行は
ワイシャツに黒ベスト姿の関が
颯爽と歩く背を目の当たりにし
未だ我が身を守る
醜さを恥た
裏通りに並ぶ
閉店した店先には
正月飾りが備わり
一年の終わりを
ひっそりと醸し出す
幾つかのネオンが
ぼんやりと夜道を照らし
熱唱するカラオケの声が
どこからともなく漏れ
静寂な年末を演出していた
裏路地の飲み屋街を抜け
古い民家を横切り
大通りへ向かう道端に佇む
洋品店を曲がると
店舗の間にある狭い階段へと
関の姿が吸い込まれて行く
階段上から微かな暖色系の光が漏れ
カラコロと軽快なベルを鳴らし
電光看板の消えた喫茶店へ
関が入って行った
後を着いて入店した隆行は
無人の店内に固唾を飲む
店内の電気も
最小限に抑えられているせいか
喫茶店内の全貌さえ見渡せず
指示されるがまま
指定された席へ
隆行は腰を据えた
間を開けず
喫茶店を出て行く関を見送り
上辺だけの溜息をつき
アンティーク調の椅子から
僅かばかり腰を浮かせ
座り直す隆行は
改めて深い溜息を
静かに吐き出した
完全に停止した時間を
ただ待ち侘びる隆行には
時の行方さえも気にならず
時空に委ね
階段を昇り来る
二足の靴音に耳を澄ませる
軽快なベル音だけが
何事も無く 時を動かし
関の背後から
外気の冷気を纏い
白い息を吐く清人が
白い頬に 赤みを帯びた鼻を晒し
無人の喫茶店内へ視線を向け
そして
隆行の存在に身動ぎ
数秒間 硬直する清人は
関の腕を握り締め
微かに動く唇から
声を失っていた
関に動かされるまま
隆行の前席へと
清人を座らせ
清人と向かい合う隆行も
動揺を隠し切れず
硬直化する身体を震わせ
椅子から立ち上がり
関へ深々と頭を下げていた
だが 下げ続ける隆行の頭を
掠りもしない言葉が
すり抜けてゆく
「10分だ」
関の声が 浮遊する喫茶店内
凍り付く言葉を残し
靴音だけが遠ざかる
じっとりと湧き上がる冷や汗に
恐る恐る顔を上げる隆行の眼には
カラコロとベル音を鳴らし
店を出てゆく関の後ろ姿を
振り返り見ている
清人の姿だった
時を刻まず
同刻を示す
刻一刻と秒針だけが
回り続けているだけの
長い時間
21時を過ぎ
秒針の針さえも狂い始め
隆行の鼓動すらも
停止しているような
感覚に陥る
しばらく経ち
扉の音と同時に
高鳴る鼓動が脈を打ち
クオーツ時計の秒針が
カツコツと振動を与えた
出迎えた隆行に
半開きのドア越しから
視線を送る関は
無言のまま背を向け
閉じ掛ける扉へ
焦り駆け寄る隆行は
一瞬にして全身に
冷や汗が滲んだ
恐怖を揺さぶる
エレベーターの鈍い音
薄暗く狭い通路
軋む鉄条の扉
冷えた空気が肌を掠め
踏み鳴らす砂利が
革靴の底を刺す
身震いする冷気に
身を縮める隆行は
ワイシャツに黒ベスト姿の関が
颯爽と歩く背を目の当たりにし
未だ我が身を守る
醜さを恥た
裏通りに並ぶ
閉店した店先には
正月飾りが備わり
一年の終わりを
ひっそりと醸し出す
幾つかのネオンが
ぼんやりと夜道を照らし
熱唱するカラオケの声が
どこからともなく漏れ
静寂な年末を演出していた
裏路地の飲み屋街を抜け
古い民家を横切り
大通りへ向かう道端に佇む
洋品店を曲がると
店舗の間にある狭い階段へと
関の姿が吸い込まれて行く
階段上から微かな暖色系の光が漏れ
カラコロと軽快なベルを鳴らし
電光看板の消えた喫茶店へ
関が入って行った
後を着いて入店した隆行は
無人の店内に固唾を飲む
店内の電気も
最小限に抑えられているせいか
喫茶店内の全貌さえ見渡せず
指示されるがまま
指定された席へ
隆行は腰を据えた
間を開けず
喫茶店を出て行く関を見送り
上辺だけの溜息をつき
アンティーク調の椅子から
僅かばかり腰を浮かせ
座り直す隆行は
改めて深い溜息を
静かに吐き出した
完全に停止した時間を
ただ待ち侘びる隆行には
時の行方さえも気にならず
時空に委ね
階段を昇り来る
二足の靴音に耳を澄ませる
軽快なベル音だけが
何事も無く 時を動かし
関の背後から
外気の冷気を纏い
白い息を吐く清人が
白い頬に 赤みを帯びた鼻を晒し
無人の喫茶店内へ視線を向け
そして
隆行の存在に身動ぎ
数秒間 硬直する清人は
関の腕を握り締め
微かに動く唇から
声を失っていた
関に動かされるまま
隆行の前席へと
清人を座らせ
清人と向かい合う隆行も
動揺を隠し切れず
硬直化する身体を震わせ
椅子から立ち上がり
関へ深々と頭を下げていた
だが 下げ続ける隆行の頭を
掠りもしない言葉が
すり抜けてゆく
「10分だ」
関の声が 浮遊する喫茶店内
凍り付く言葉を残し
靴音だけが遠ざかる
じっとりと湧き上がる冷や汗に
恐る恐る顔を上げる隆行の眼には
カラコロとベル音を鳴らし
店を出てゆく関の後ろ姿を
振り返り見ている
清人の姿だった
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