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狂奔
怯懦 2
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項垂れる彰の手を握り
茫然自失で座り込む母親
弁護士と会話する父親が
無情な程 彰に背を向け
亀裂を描いた
「仏壇は有りますか?」
高田の声掛けに
反応を示す彰の頭が
微かに頷く
「線香をあげても いいかい?」
反応を示した彰へ問い掛けると
握る母親の手を外し
静かに立ち上がる彰は
高田を仏間へと案内する
六畳の和室には
ひっそりと仏壇が佇み
手向けた仏花と供物が彩り
写真立ての中で
幼い少年が笑っていた
蝋燭に火を灯す彰は
高田へ仏壇前を譲り
高田の背後で正座をする
線香を香炉へ立てた高田が
鈴を鳴らすと音が響き渡り
合掌する高田の背後で
彰が啜り泣いていた
高田は 遺影の写真を眺めたまま
彰に話し掛ける
「誠君の事を
教えてくれるかい」
弟の名前を告げられ
とめどなく溢れる涙を
腕で何度も拭う彰は
鼻を啜りながら
語り始めた
「誠は 先天性な発達障害で
3歳になるまで
言葉を話せませんでした
でも いつも笑顔で
僕の後を追い掛け回す程
明朗活発な子供だったと思います
だけれども
小学校へ通い出し
注意欠如多動性障害の為
着席が苦手で落ち着きが無く
平仮名すら書けない誠は
読み書き障害もあり
周りと違う事で浮いた存在に…」
彰の言葉が途切れ
振り返った高田は
俯き涙を零す彰を眺め
強く握り締める拳を確認する
「初めて彰に友達が出来た時は
毎日 本当に楽しそうな顔で
友達の為に迷路を描き…」
高田は彰の心情を探りつつ
言葉を挟んだ
「その友達とは
嶽宮清人か」
俯く彰の瞼が数回瞬き
当時の記憶を思い返し
憎しみの表情に変わってゆく
「…葬儀の時
誠のノートを
嶽宮に渡そうと…
けど嶽宮は葬儀に現れず
最後の別れすら拒みやがった」
弔問に訪れる黒喪服の中
誠のノートを握り締め
清人を待ち続けた少年
弟を失った悲しみと
清人に裏切られた悔しさが
複雑に絡みつき
弟想いの兄は
弟の哀しみを報いる為に
清人へ憎悪を懐き
残酷な復讐を遂げていた
「嶽宮だけは
絶対に赦さない」
感情を剥き出しに
高田を睨み付ける彰はいきり立ち
仏間の襖を力強く開け放つ
その瞬間
廊下に立ち尽くす母親が
倒れ込む様に彰の躰へ
撓垂れ掛かり泣き崩れる
「……違うわ…
…そうじゃない……」
必死に伝える母親へ
冷酷な眼差しを向ける高田は
泣き言を弾き飛ばした
「息子を犯罪者にする気か!」
高田の罵倒に母親は躰を強張らせ
震える唇を噛み
彰の心を拘束する邪悪な鎖へ
真実を訴えた
「自殺では体裁が悪く
嶽宮君が突き落としたと
弔問者達へ告げていたから
嶽宮君には葬儀に来るなと
通達を…
……ごめんなさい…彰…」
真実の矢が 彰の心を射抜き
粉砕する鎖の破片が
脚元へ零れる様に
彰の躰は膝から崩れ堕ちていた
茫然と母親を見る彰の眼から
一筋の涙が流れ
微かに動く唇が
心の声を刻む
「……嶽宮…」
高田は名刺を彰の目の前に翳し
仏壇へ名刺を置き
無言で仏間から立ち去っていた
茫然自失で座り込む母親
弁護士と会話する父親が
無情な程 彰に背を向け
亀裂を描いた
「仏壇は有りますか?」
高田の声掛けに
反応を示す彰の頭が
微かに頷く
「線香をあげても いいかい?」
反応を示した彰へ問い掛けると
握る母親の手を外し
静かに立ち上がる彰は
高田を仏間へと案内する
六畳の和室には
ひっそりと仏壇が佇み
手向けた仏花と供物が彩り
写真立ての中で
幼い少年が笑っていた
蝋燭に火を灯す彰は
高田へ仏壇前を譲り
高田の背後で正座をする
線香を香炉へ立てた高田が
鈴を鳴らすと音が響き渡り
合掌する高田の背後で
彰が啜り泣いていた
高田は 遺影の写真を眺めたまま
彰に話し掛ける
「誠君の事を
教えてくれるかい」
弟の名前を告げられ
とめどなく溢れる涙を
腕で何度も拭う彰は
鼻を啜りながら
語り始めた
「誠は 先天性な発達障害で
3歳になるまで
言葉を話せませんでした
でも いつも笑顔で
僕の後を追い掛け回す程
明朗活発な子供だったと思います
だけれども
小学校へ通い出し
注意欠如多動性障害の為
着席が苦手で落ち着きが無く
平仮名すら書けない誠は
読み書き障害もあり
周りと違う事で浮いた存在に…」
彰の言葉が途切れ
振り返った高田は
俯き涙を零す彰を眺め
強く握り締める拳を確認する
「初めて彰に友達が出来た時は
毎日 本当に楽しそうな顔で
友達の為に迷路を描き…」
高田は彰の心情を探りつつ
言葉を挟んだ
「その友達とは
嶽宮清人か」
俯く彰の瞼が数回瞬き
当時の記憶を思い返し
憎しみの表情に変わってゆく
「…葬儀の時
誠のノートを
嶽宮に渡そうと…
けど嶽宮は葬儀に現れず
最後の別れすら拒みやがった」
弔問に訪れる黒喪服の中
誠のノートを握り締め
清人を待ち続けた少年
弟を失った悲しみと
清人に裏切られた悔しさが
複雑に絡みつき
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弟の哀しみを報いる為に
清人へ憎悪を懐き
残酷な復讐を遂げていた
「嶽宮だけは
絶対に赦さない」
感情を剥き出しに
高田を睨み付ける彰はいきり立ち
仏間の襖を力強く開け放つ
その瞬間
廊下に立ち尽くす母親が
倒れ込む様に彰の躰へ
撓垂れ掛かり泣き崩れる
「……違うわ…
…そうじゃない……」
必死に伝える母親へ
冷酷な眼差しを向ける高田は
泣き言を弾き飛ばした
「息子を犯罪者にする気か!」
高田の罵倒に母親は躰を強張らせ
震える唇を噛み
彰の心を拘束する邪悪な鎖へ
真実を訴えた
「自殺では体裁が悪く
嶽宮君が突き落としたと
弔問者達へ告げていたから
嶽宮君には葬儀に来るなと
通達を…
……ごめんなさい…彰…」
真実の矢が 彰の心を射抜き
粉砕する鎖の破片が
脚元へ零れる様に
彰の躰は膝から崩れ堕ちていた
茫然と母親を見る彰の眼から
一筋の涙が流れ
微かに動く唇が
心の声を刻む
「……嶽宮…」
高田は名刺を彰の目の前に翳し
仏壇へ名刺を置き
無言で仏間から立ち去っていた
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