僕らの距離

宇梶 純生

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狂奔

狂態

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恰幅の良い中年男性が
有限会社ソルトの事務所へ
訪れていた

篠崎の前へ座り
束ねた資料を捲る男性は
1枚のDVDを手に入れ
証拠品として差し出す

「防犯カメラで捉えた
 動画を入手しました
 犯行現場が一部始終 収まっています
 証拠品としては 充分だと」

清人が酒井に刺された場所を
虱潰しに探した男性は
私立探偵の高田たかだと仮名を名乗る

「ただ 問題が ひとつ」

元警察官の高田はマル暴を勤め
暴力団組織とも繋がりがある人物だ

篠崎とは 縁が深く
不祥事を起こし
職務を放棄したなどとして
懲戒免職処分を請けた高田に
私立探偵事務所を持たせ
独立開業に手を貸していた

「問題とは?」

篠崎の問い掛けに資料を開き
簡潔な説明を告げる

「加害者 酒井彰さかいあきらの父親が経営する
 不動産会社の顧問弁護士が
 檜山ひやま組の領域でして」
「檜山組が後ろ盾ケツ持ちか」
「顧問弁護士の永坂ながさかは 
 相当 卑劣な事案も
 闇に葬っている様です」
「依頼主の為なら
 被害者に法律を翳し
 地獄送りも厭わず…か」
「厄介な相手に成りますよ」

ソファーに凭れる篠崎は
数分間 腕を組み
高田の顔を眺め

「酒井からは
 幾ら獲れる?」

資料を捲る高田は
予測額が記載された項目を開き

「在学進学校内でも有能で
 大学進路希望と有れば
 傷害事件の隠蔽に
 二千万は堅いと」
「経済的に支払える額か」
「充分に」

高田の確信を見定め
瞑想に耽る篠崎は
脳裏で組立てた策略を示唆し
高田へ重大な任務を課した

あきらの真相を掴め」
「必ず」

深々と頭を下げた高田は
資料を纏め颯爽と事務所から
立ち去っていった


一千万の額を記載した小切手に
署名する篠崎は
檜山組組長へ直通する
電話番号を打ち込み
数回転送する呼び出し音に
耳を傾ける

酒井彰の傷害事件について
顧問弁護士と共に
買収を持ち掛ける篠崎は

成功報酬に五百万円を上乗せし
檜山組長との密談は成立した

顧問弁護士の永井を
篠崎側へ引渡す事で
二千万円は確実な徴収額となり

顧問弁護士の永井にも
成功報酬五百万円が支払れる
仕組みになる

傷害事件を隠蔽するには
仕方ない額だと
寛容な請求額を提示するだけで
五百万円が懐に舞い込む永井

また刑事告訴の傷害事件は
土地絡みの事案と違い
不動産会社と顧問弁護士との関係が
崩れる事も無く
永井弁護士にとっても
悪い話では無かった

篠崎が脳裏に描いた
勾股弦の定理は
永井弁護士の承諾を得た時点で
実行に移されていった
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