僕らの距離

宇梶 純生

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発覚

誤謬 2

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走り書きのメモが
数枚に及び
情報を刻んでゆく

定年退職後
役所の教育委員会へ
委託雇用されていた中山は

現在 清人が通う中学の教諭へ
連絡を取っていた

偶然にも親しい教諭達が集い
忘年会を開催していた事で
入手困難な内密的な情報まで
引き出せたのも

中山を慕う教諭達から得られる
信頼度なのだろう

白髪の頭へ手を翳す中山は
時折 苦虫を噛み潰したような
表情を見せ

電話口の教諭へ
説教じみた論考を唱え
受話器を置いた

メモ書きを読み返す中山は
久我に背を向けたまま
質問を投げる

「嶽宮清人とは
 どういう関係だ」

中山の背後で
正座する久我は
膝を正し応える

「友人の弟です」
「何故 調べている?」
「行方が わかりません
 学校へは 通っていますか?」

白髪頭を掻き上げる中山は
数分 首を左右に捻り
久我の方へ躰を向けた

「嶽宮に兄弟が居るのか?」

メモした紙に
兄弟が居る情報が無く
首筋を掻く中山は
久我の顔を眺める

「家庭環境が少し複雑で
 兄は神城姓を名乗っています」

中山はメモに記された
[神城]の文字へラインを引き
納得を示した

「悪いが 個人情報を
 漏らす訳には 行かない」
「…中山先生」
「だが 此処からは
 老人の独り言として
 踏まえろ」
「はい」

腕を組み 眼を閉じる中山は
精神を研ぎ澄まし
鋭い視線を久我に向ける

「その前に 久我の本音を
 確認したい
 何故なにゆえ此処に来た」

中山の眼を見据える久我は
両手の拳を握り締め応えた

「清人を 護りたい」

一瞬 口角が緩む中山は
教え子の成長を認識し
表情を硬める

「嶽宮は 現在 休学中だ」
「…休学?」
「留学かと確認したが
 そうでは無く
 嶽宮の入院と同時に 
 父親が休学手続きを提出し
 受理したままになっている」

「…入院…何時ですか」

苦悩な表情を浮かべる久我は
愚かな自分を攻め立て
情けなく項垂れ悔いる

「今年の三月
 卒業生から暴行を受けている」
「…暴行」
「そこでだ 久我」

中山は突如 提案を示した

「学校側は その事件について
 教育委員会へ報告を怠った」
「…揉み消したのか」
「揉み消すと言うより
 隠し葬った様に思える
 教育に携わる者として
 真実を知りたい」
「…真実」
「嶽宮に起きた真実を
 受け入れ 受け止める心が
 久我に有るか?」
「はい」

迷い無く信念を貫く久我に
相槌を打つ中山は
意を表し語る

「明日 教育委員会として
 虐め虐待の経緯がある生徒に対し
 報告を省いた病院側へ
 事情を聞きに行く

 久我も同行しろ」

襖の影で 中山と久我の話を
聞いていた中山の妻は
誠心誠意 生徒と向き合い
命懸けで闘っていた頃の
中山に戻ってゆく姿に
涙を潤ませていた
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