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固陋
揣摩
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針金に引っ掛けた
小さな綻びから
糸屑が抜け落ちる様に
拡がりつつある穴
穂苅との同行を
義務付けられた清人に
自由行動は無く
買出しも仕込み時間も
削られ
和風スナックだけに
お通しを和食に変えた
スナック「小夜子」のメニューへ
和食料理が加わり
幸介の負担だけが
増えてゆく
食材を刻み終えた
材料が並ぶ
調理台の上
スープを煮込む幸介の横で
自宅で取った出汁を使い
和食料理を作り始める清人は
幸介に気が引けていた
綻び穴が 虫食い穴になり
煙草の火種で焼いた
焼き穴に 拡がる
互いに無口になる厨房内は
張り詰めた糸が
複雑に絡み合い
打開策が見つからず
謝罪を繰り返す清人へ
嫌気がさす幸介も
苦痛になり始めていた
綻ぶ糸を巻き取る幸介は
傷んた服を剥ぎ取り出す
料理する清人の左肩を
軽く叩く幸介は
痛がる清人を笑い
「僕にも 見せてよ
清人の傷口」
苦笑する清人は
困惑した表情で
料理を続け
「いいだろ!
僕にも見せろよ!」
声を荒げる幸介に
驚く清人は 幸介の顔を眺め
コンロの火力を弱める清人は
躊躇いながらシャツの牡丹を外し掛ける
「馬鹿か!」
不機嫌に清人の躰を突き飛ばし
顔を背ける幸介は
清人の意志を確認する
「料理を習う気 あるのか?」
「有ります」
真顔で応える清人へ
棚下から取り出した食材を手渡し
「明日の分
家で下拵えして来い
それなら 此処で
僕の料理 覚えられんだろ」
「はい」
巻き取った糸を紡ぐ幸介が
新たな小物を清人へ授けた
「幸介さん」
「あ?」
手渡された食材を
邪魔にならぬ様
棚下へ戻す清人は
戸惑いながら質問をする
「元気…ないですよね」
鼻で笑う幸介は
清人へ卑屈な笑顔を見せた
「忘れてください」
質問を撤回する清人は
幸介から眼を反らし
調理を再会する
「頼りたい時だけ
都合良く 頼って来た」
突如 話し出す幸介の言葉に
耳を傾ける清人
「相手が困った時
頼りにも されない僕は
それだけの人間なんだろう」
数週間前
クリスマスに贈るピアスを
嬉しそうに選んでいた幸介
揃いで付けると
片耳ピアスをふたつ購入し
定休日に出掛けた記憶が蘇る
「…逢えなかったんですか?」
小皿に注ぐスープを
味見する幸介は
小皿を清人へ差し出し
スープを注ぎ足す
「店が 無くなってた」
小皿に口を添える清人は
味気が薄いスープに
若干 首を捻り
「味覚馬鹿か」
清人をおちょくる幸介は
調味料を足していた
不服を晒し
唇を尖らす清人へ
調味料を振り掛ける幸介
「笑えよ」
「…笑えません」
「笑えって」
「嫌です」
「笑え!」
「無理です!」
「ふざけんな」
狭い厨房内で 掴み合いの喧嘩が始まり
一部始終をカウンターで
聞いていた小夜子ママは
煙草の煙りを天井へ吐き出し
頬に手を添え苦笑していた
小さな綻びから
糸屑が抜け落ちる様に
拡がりつつある穴
穂苅との同行を
義務付けられた清人に
自由行動は無く
買出しも仕込み時間も
削られ
和風スナックだけに
お通しを和食に変えた
スナック「小夜子」のメニューへ
和食料理が加わり
幸介の負担だけが
増えてゆく
食材を刻み終えた
材料が並ぶ
調理台の上
スープを煮込む幸介の横で
自宅で取った出汁を使い
和食料理を作り始める清人は
幸介に気が引けていた
綻び穴が 虫食い穴になり
煙草の火種で焼いた
焼き穴に 拡がる
互いに無口になる厨房内は
張り詰めた糸が
複雑に絡み合い
打開策が見つからず
謝罪を繰り返す清人へ
嫌気がさす幸介も
苦痛になり始めていた
綻ぶ糸を巻き取る幸介は
傷んた服を剥ぎ取り出す
料理する清人の左肩を
軽く叩く幸介は
痛がる清人を笑い
「僕にも 見せてよ
清人の傷口」
苦笑する清人は
困惑した表情で
料理を続け
「いいだろ!
僕にも見せろよ!」
声を荒げる幸介に
驚く清人は 幸介の顔を眺め
コンロの火力を弱める清人は
躊躇いながらシャツの牡丹を外し掛ける
「馬鹿か!」
不機嫌に清人の躰を突き飛ばし
顔を背ける幸介は
清人の意志を確認する
「料理を習う気 あるのか?」
「有ります」
真顔で応える清人へ
棚下から取り出した食材を手渡し
「明日の分
家で下拵えして来い
それなら 此処で
僕の料理 覚えられんだろ」
「はい」
巻き取った糸を紡ぐ幸介が
新たな小物を清人へ授けた
「幸介さん」
「あ?」
手渡された食材を
邪魔にならぬ様
棚下へ戻す清人は
戸惑いながら質問をする
「元気…ないですよね」
鼻で笑う幸介は
清人へ卑屈な笑顔を見せた
「忘れてください」
質問を撤回する清人は
幸介から眼を反らし
調理を再会する
「頼りたい時だけ
都合良く 頼って来た」
突如 話し出す幸介の言葉に
耳を傾ける清人
「相手が困った時
頼りにも されない僕は
それだけの人間なんだろう」
数週間前
クリスマスに贈るピアスを
嬉しそうに選んでいた幸介
揃いで付けると
片耳ピアスをふたつ購入し
定休日に出掛けた記憶が蘇る
「…逢えなかったんですか?」
小皿に注ぐスープを
味見する幸介は
小皿を清人へ差し出し
スープを注ぎ足す
「店が 無くなってた」
小皿に口を添える清人は
味気が薄いスープに
若干 首を捻り
「味覚馬鹿か」
清人をおちょくる幸介は
調味料を足していた
不服を晒し
唇を尖らす清人へ
調味料を振り掛ける幸介
「笑えよ」
「…笑えません」
「笑えって」
「嫌です」
「笑え!」
「無理です!」
「ふざけんな」
狭い厨房内で 掴み合いの喧嘩が始まり
一部始終をカウンターで
聞いていた小夜子ママは
煙草の煙りを天井へ吐き出し
頬に手を添え苦笑していた
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