僕らの距離

宇梶 純生

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熟慮

蹂躙

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血液を洗い流し
傷口へタオルを押し当て
止血する清人

消毒液を傷口に掛けた穂苅は
滲む出る血液に
ガーゼを重ねてゆく

「…すいません」

テープでガーゼを固定し
毛布で清人を包む穂苅は
釈然としない顔で
問い掛ける

「知り合いか?」
「……はい」

「何故 逃がした」

考え込む清人は
傷ついた左肩の腕を握り
左右に首を振った

「…わかりません」

ベッドに腰掛ける清人の前へ
胡座を描き座り込む穂苅は
俯く清人の顔を見上げ
左腕を握る

酒井アイツは 清人を殺すと言っていた」

穂苅の顔を見る清人は
真剣な穂苅の眼差しに
嘆声を洩らした

「誰にも 言わないと
 約束して…くれますか」

清人の悲願に耳を傾ける穂苅は
清人の眼を見つめ
左右に首を振った

「篠崎は勘が鋭い
 隠し切れる保証は無い」

小さく頷く清人が同意を示し
頑なに言葉を封じる

「危ない橋を渡るには
 度胸と気合が必要だ
 代わりに興奮と刺激を得られる」

意味深に笑う穂苅は
清人の手を握る

「自白は しない
 それなら どうだ?」

負傷した左肩を庇い
左腕を握り痛みを散らす清人は
迷いながら 口を開いた

酒井あの人の弟が
 僕のせいで…自殺を…」

醜態を曝した酒井の憎悪が
逆恨みだと知った穂苅は
舌打ちを打つ

「今回は見逃してやる
 だが 同じ事が起きたら
 今度は 俺が酒井を殺す」

一瞬にして青醒める清人は
穂苅の手を握り返し
必死で首を振った

「昼飯代 浮くし
 清人の弁当 旨いし
 清人を死なせるのは
 勿体無いからな」

冗談で返す穂苅は
清人から手を離し
立ち上がり

「店に戻るんだろ?
 俺も仕事終わさねぇと
 俺の方が酒井より先に 
 篠崎に殺される」

含み笑みを見せ
穂苅が部屋を出て行った


エレベーターに乗り込む穂苅は
床に残る血痕を
靴裏で擦り落とし
事務所のドアを開けた

歪む顔を掌で覆う穂苅は
ソファー椅子へ据わる篠崎に
力無く頭を擡げ項垂れる

一部始終を強制的な自白に
追い込まれた穂苅は
清人の護衛を強いられると同時に

[酒井]の身辺調査を命じられた

清人の過去を暴く為に
出現した酒井の存在は
篠崎にとって喜ばしい収穫でもあった
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