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叙情
度量 2
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クローゼットの前へ
正座し座る清人が
服を並べてゆく
食器をテーブルへ
運び終えた幸介は
ソファーに腰掛け
ビールの栓を開けた
「冷める」
真剣な横顔で
服を整理する清人は
動作を早め
「食ったら
店に行く」
幸介の言葉に
一瞬 手を止めた清人は
重なる服を掴み取り
クローゼットへ押し込んだ
「ママから電話があった
清人を連れて来いと」
テーブル前の床に座る清人は
銀の匙を握り皿へ差し入れ
野菜スープを掬い
溜めた返事を呟く
「…はい」
ビールグラスをテーブルへ
叩き付ける幸介は
硝子音を響かせ
「ママも清人も
陰気臭い
やめろよ」
匙を皿に置き
息を数回 飲み込む清人は
静かに頭を垂れてゆく
「言いたい事 言わずに
言葉を飲み込むのも
やめろって」
重厚なテーブルの端を蹴り
不愉快を露す幸介へ
顔を上げた清人が
口を開いた
「穂苅さんを 知っていますか」
「丸眼鏡の穂苅?」
「はい」
「清人 知ってんの?」
「…はい」
何度となく頷きながら
ソファーへ凭れ掛かる幸介は
関同様 穂苅も
篠崎の関係者で有る事を思い出し
清人との繋がりを結ぶ
「何か聞いてますか」
清人の問い掛けに
首を振る幸介は
両手を口の前で組み
親指の爪を齧り出す
「昨日 穂苅の姿 見てないな」
「……僕のせいです」
昨夜取った 小夜子ママの
意味不明な模索に
納得がいく幸介は
口角を上げ笑みを浮かべ
テーブルへ手を付き
前のめりに清人の顔を見下ろす
「店に 行こう
ママの話 聞きに
知りたいんだろ?」
幸介の顔を見上げる清人は
思い付いた悪戯に歓喜し
面白がる幸介の表情が
一瞬 酒井君と重なり
何故 初対面の時から
幸介に親近感湧くのか
理由が解った
清人に迷う時間を与えず
突き動かす行動力と
我が道を曲げぬ実行力
屈託のない笑顔で
悪戯を好み
腹の底から笑う
エレベーターが閉まる瞬間
勝ち誇り顔で清人に手を振る
幸介の姿は
手製の迷路に嵌り
脱力する清人を笑う
酒井君と似ていた
悪気のない悪意
だが その反面
偽善のない善意がある
小学三年のクラス替えで
同じクラスになった
清人と酒井
発達障害のある酒井は
落ち着きが無く
授業中 教室内を徘徊してしまい
其の都度 問題児批難を浴び
相談室へ隔離されてきた
清人も同様に
騒々しい教室に馴染めず
体調を崩しては
授業を中断し
保健室へ連れて行かれ
似た批難を浴びていた
似た者同士
初めての友達
歳の離れた幸介が
清人の居る場所まで
階段を降り
手を伸ばしている気がし
清人は幸介の手を握った
「はい」
清人の意思を確認した幸介は
野菜スープの皿を手に取り
清人の口元へ当て
「さっさと飲み干せ」
悪意に満ちた
悪魔と化していた
正座し座る清人が
服を並べてゆく
食器をテーブルへ
運び終えた幸介は
ソファーに腰掛け
ビールの栓を開けた
「冷める」
真剣な横顔で
服を整理する清人は
動作を早め
「食ったら
店に行く」
幸介の言葉に
一瞬 手を止めた清人は
重なる服を掴み取り
クローゼットへ押し込んだ
「ママから電話があった
清人を連れて来いと」
テーブル前の床に座る清人は
銀の匙を握り皿へ差し入れ
野菜スープを掬い
溜めた返事を呟く
「…はい」
ビールグラスをテーブルへ
叩き付ける幸介は
硝子音を響かせ
「ママも清人も
陰気臭い
やめろよ」
匙を皿に置き
息を数回 飲み込む清人は
静かに頭を垂れてゆく
「言いたい事 言わずに
言葉を飲み込むのも
やめろって」
重厚なテーブルの端を蹴り
不愉快を露す幸介へ
顔を上げた清人が
口を開いた
「穂苅さんを 知っていますか」
「丸眼鏡の穂苅?」
「はい」
「清人 知ってんの?」
「…はい」
何度となく頷きながら
ソファーへ凭れ掛かる幸介は
関同様 穂苅も
篠崎の関係者で有る事を思い出し
清人との繋がりを結ぶ
「何か聞いてますか」
清人の問い掛けに
首を振る幸介は
両手を口の前で組み
親指の爪を齧り出す
「昨日 穂苅の姿 見てないな」
「……僕のせいです」
昨夜取った 小夜子ママの
意味不明な模索に
納得がいく幸介は
口角を上げ笑みを浮かべ
テーブルへ手を付き
前のめりに清人の顔を見下ろす
「店に 行こう
ママの話 聞きに
知りたいんだろ?」
幸介の顔を見上げる清人は
思い付いた悪戯に歓喜し
面白がる幸介の表情が
一瞬 酒井君と重なり
何故 初対面の時から
幸介に親近感湧くのか
理由が解った
清人に迷う時間を与えず
突き動かす行動力と
我が道を曲げぬ実行力
屈託のない笑顔で
悪戯を好み
腹の底から笑う
エレベーターが閉まる瞬間
勝ち誇り顔で清人に手を振る
幸介の姿は
手製の迷路に嵌り
脱力する清人を笑う
酒井君と似ていた
悪気のない悪意
だが その反面
偽善のない善意がある
小学三年のクラス替えで
同じクラスになった
清人と酒井
発達障害のある酒井は
落ち着きが無く
授業中 教室内を徘徊してしまい
其の都度 問題児批難を浴び
相談室へ隔離されてきた
清人も同様に
騒々しい教室に馴染めず
体調を崩しては
授業を中断し
保健室へ連れて行かれ
似た批難を浴びていた
似た者同士
初めての友達
歳の離れた幸介が
清人の居る場所まで
階段を降り
手を伸ばしている気がし
清人は幸介の手を握った
「はい」
清人の意思を確認した幸介は
野菜スープの皿を手に取り
清人の口元へ当て
「さっさと飲み干せ」
悪意に満ちた
悪魔と化していた
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