僕らの距離

宇梶 純生

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万感

吐露

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シャワーを浴び
着古したスエットへ
着替えた清人は

ベッドに横たわり
スマホを眺める関の脇へ
腰を下ろし

「…関さん」

背中を向けたまま
声を掛けた

「ん?」

「少しだけ
 ゲーセンへ行っても
 いいですか?」

「今?」

午後11時半を過ぎ
閉店して一時間以上が経つ
閉店後の業務処理をしても
副店長が残っている可能性はなく
電気系統も遮断している時刻

「駄目ですか?」

ベッドから起き上がる関は
玄関口まで清人を送り出し

「少しだけだぞ」

珍しく頼み事をする清人に
関係者出入口の鍵を預け
懐中電灯を手渡した

薄暗い階段を降りてゆく清人
微かに出入口が閉まる音が鳴り
関は煙草とスマホを持ち
従業員控室へ向かった

防犯モニターを作動させると
案の定 競馬機のカメラへ
懐中電灯が灯る清人の姿が映り込む

競馬機のパネルに顔を伏せ
椅子に座る清人

10分20分と時間だけが過ぎ
午前零時になり
関は 競馬機の傍まで行き
近くの椅子に腰掛けた

「何故 母親の服を着た?」

関の問い掛けに
頭を上げた清人

「…母の写真を見たからです」
「写真?」
「母を覚えていません
 だから 写真に写る母の服を着たら
 母に逢える気がしました」

戸惑う関は
不思議な話に付き合い
問い掛ける

「逢えたか?」

首を微かに傾け
口篭る清人は
話を続けた

「僕は 母の生き写しらしく

 …なので 父は母に
 逢えたと思います

 母の名を呼び
 僕を抱きました」

眉を顰める関は
途切れる事なく
問い掛ける

「いつも そうなのか?」

「父とのSEXは 
 二回だけです

 二回目は
 …あ…兄に見られてしまいました」

小さな溜息を洩らす清人に
違和感があり
関は首を捻る

「父親に抱かれ
 嫌では なかったのか?」

数秒間 関の眼を見る清人は
僅かばかり微笑み

「嬉しかった…です
 父に触れられた事も
 触れ方が兄と似ている事も」

微笑む瞳に涙が滲み

「僕は 両親の顔を知りません

 だから父の肌に触れた時
 やっと家族として
 認められた気が…」

常識的な感覚の歪みが
清人の生態系を縁取り
性行為にも摩擦が生じていた

「初体験は
 兄貴なんだろ?」

関から眼を逸らす清人は
医学的単語を呟く

「カテコールアミンを
 知っていますか?

 脳内に分泌される物質です」

今時の子供らしく
ネット検索で調べたのだろう

「酷く疲れた状態の時に
 勃起してしまう
 …疲れマラとも云います」

「…あぁ」

「落雷し停電した日
 歩いて帰宅した兄は
 酷く疲れ果てていて

 僕の腕を摩り睡魔に襲われ
 …でも ペニスだけが硬く
 僕の尻に何度も擦り付け

 夢と現実が区別出来ぬまま

 …下着をずらし
 僕の中に

 〝痛い〟と言ったけど
 〝すぐ終わる 我慢しろ〟と

 射精した兄は
 そのまま下着を履き
 高鼾をかいて眠りました

 下着に残る夢精として
 兄は覚えていないと
 思います」

「……停電?
 5年くらい前だろ
 清人お前幾つだ」

「小学五年の時です」

清人の話に 苛立つ関は
立腹を隠せず
声を荒らげた

「おかしいだろ!」

一瞬 歯を食いしばる清人は
関の顔を見据え

「おかしいですよ

 だから誰にも
 言えなかった」

顔を酷く歪め
競馬機に伏せる清人は
肩を震わせ咽び泣き崩れた
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