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エピローグ
約束
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高梨の遺体が
発見されたのは
死後三日目
高梨の不慮の死に
気づいた
俺の親父は
すぐさま捜索願を届けたが
虚しい訃報連絡しか
入らなかった
僅か十七歳の死
火葬場裏の鉄塔から
飛び降り自殺
何故 俺は
高梨の自殺を
阻止する事が
出来なかったのだろう
この後悔は
親父も同様の事
償いきれない
悔しみを抱え
俺達は
社宅でもある
高梨のアパートへ
遺品整理に向かった
玄関を開け
一歩 踏み入れた瞬間
「何だ…これ」
親父は掌で顔を覆い
深い溜息を漏らした
台所にも和室にも
見渡す限り
家具ひとつない
閑散とした部屋
浴室の脱衣場に
手絞りした皺だらけの作業服と
下着類が
ロープにぶら下げ
干されているが
浴室の中には
固形の石鹸が ひとつ
窓枠に置いてあるだけだった
冷蔵庫もなく
テレビすらない
高梨が この部屋で
暮らしていた形跡は
押し入れの中の布団と
空に近い箪笥に入った
機械油汚れが残る
ランニングシャツと靴下だけ
これが 俺と同じ
同級生の部屋だと
信じる事が 出来ず
俺達は 言葉を失った
閉じられた奥間の襖
襖に手を伸ばし
躊躇する親父が
喉を鳴らし唾を飲む
ゆっくりと開く襖の奥は
異様とも思える程
壁一面 無数の人形に
埋めつくされ
何冊もの絵本が
畳みに広がり
折紙やクレヨンなど
色取りの物が散乱していた
膝から崩れ落ちた親父は
赤いランドセルの箱に手を添え
しばらく 座り込み
独り言の様に
呟き始めた
「亡くした子を想う親も
……辛いが
この親の姿を見ていた高梨も
さぞかし辛かっただろうに……」
耐え切れず
親父は 襖を閉め
一服して来ると
アパートから
出て行った
俺は 何もない
四畳半の和室に 残り
剥き出し電球の紐を 振れると
カツンと 足元に
何かが 落ちる音が 聞こえた
見下ろすと
水色の方位磁針が
ゆっくり弧を描き
転がり止まる
亀裂の入った方位磁針
拾い上げ
掌に乗せると
地響きに似た重低音が鳴り
部屋の隅から
壁が漆黒の闇に塗り替えられ
部屋が 暗闇に包まれた
俺は 初めての金縛りに
硬直し動けないまま
暗闇へ 眼を凝らす
親父が閉めた襖の前に
膝を抱え 蹲る少女が現れ
掌から落ちた 方位磁針が
部屋の中央まで 転がると
少女が 顔を上げた
方位磁針は 畳みを丸く焦がし
チリチリと導火線の様に
円状の縁を燃え広げてゆく
そして 部屋の中央に
赤黒い穴が空いた
その穴から
更に赤黒く焼け爛れた手が
畳みの緣を掴み
ドロリとした黒い油を滴らせ
頭と上半身が這い出て来る
地獄の底からの訪問者は
焼け爛れた腕を伸ばし
襖前の少女を呼ぶ
コマ送りの様に
少女の姿が 穴へと近づき
訪問者に抱き抱えられながら
穴へと 吸い込まれて逝った
「おい!」
驚いた親父に
激しく揺さぶられ
気づいた時
俺は四畳半の和室に倒れ込んでいた
暗闇と共に
穴の形跡も消え
部屋の片隅に
水色の方位磁針が
ひっそりと
転がっていた
発見されたのは
死後三日目
高梨の不慮の死に
気づいた
俺の親父は
すぐさま捜索願を届けたが
虚しい訃報連絡しか
入らなかった
僅か十七歳の死
火葬場裏の鉄塔から
飛び降り自殺
何故 俺は
高梨の自殺を
阻止する事が
出来なかったのだろう
この後悔は
親父も同様の事
償いきれない
悔しみを抱え
俺達は
社宅でもある
高梨のアパートへ
遺品整理に向かった
玄関を開け
一歩 踏み入れた瞬間
「何だ…これ」
親父は掌で顔を覆い
深い溜息を漏らした
台所にも和室にも
見渡す限り
家具ひとつない
閑散とした部屋
浴室の脱衣場に
手絞りした皺だらけの作業服と
下着類が
ロープにぶら下げ
干されているが
浴室の中には
固形の石鹸が ひとつ
窓枠に置いてあるだけだった
冷蔵庫もなく
テレビすらない
高梨が この部屋で
暮らしていた形跡は
押し入れの中の布団と
空に近い箪笥に入った
機械油汚れが残る
ランニングシャツと靴下だけ
これが 俺と同じ
同級生の部屋だと
信じる事が 出来ず
俺達は 言葉を失った
閉じられた奥間の襖
襖に手を伸ばし
躊躇する親父が
喉を鳴らし唾を飲む
ゆっくりと開く襖の奥は
異様とも思える程
壁一面 無数の人形に
埋めつくされ
何冊もの絵本が
畳みに広がり
折紙やクレヨンなど
色取りの物が散乱していた
膝から崩れ落ちた親父は
赤いランドセルの箱に手を添え
しばらく 座り込み
独り言の様に
呟き始めた
「亡くした子を想う親も
……辛いが
この親の姿を見ていた高梨も
さぞかし辛かっただろうに……」
耐え切れず
親父は 襖を閉め
一服して来ると
アパートから
出て行った
俺は 何もない
四畳半の和室に 残り
剥き出し電球の紐を 振れると
カツンと 足元に
何かが 落ちる音が 聞こえた
見下ろすと
水色の方位磁針が
ゆっくり弧を描き
転がり止まる
亀裂の入った方位磁針
拾い上げ
掌に乗せると
地響きに似た重低音が鳴り
部屋の隅から
壁が漆黒の闇に塗り替えられ
部屋が 暗闇に包まれた
俺は 初めての金縛りに
硬直し動けないまま
暗闇へ 眼を凝らす
親父が閉めた襖の前に
膝を抱え 蹲る少女が現れ
掌から落ちた 方位磁針が
部屋の中央まで 転がると
少女が 顔を上げた
方位磁針は 畳みを丸く焦がし
チリチリと導火線の様に
円状の縁を燃え広げてゆく
そして 部屋の中央に
赤黒い穴が空いた
その穴から
更に赤黒く焼け爛れた手が
畳みの緣を掴み
ドロリとした黒い油を滴らせ
頭と上半身が這い出て来る
地獄の底からの訪問者は
焼け爛れた腕を伸ばし
襖前の少女を呼ぶ
コマ送りの様に
少女の姿が 穴へと近づき
訪問者に抱き抱えられながら
穴へと 吸い込まれて逝った
「おい!」
驚いた親父に
激しく揺さぶられ
気づいた時
俺は四畳半の和室に倒れ込んでいた
暗闇と共に
穴の形跡も消え
部屋の片隅に
水色の方位磁針が
ひっそりと
転がっていた
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