逃亡者ゲーム

宇梶 純生

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……午後11時50分

長い二日目が
終わる


国道沿いの
レストランで
会話も なく
食事を 済ませ

当てもなく
走らせる車内

毛布を掛けて
助手席に座る聡美が
欠伸を
繰り返している


渡良瀬川の
長い陸橋を 越え
埼玉県へ
入り

ナビを
表示させると
画面の左隅に
ホテルのマークを
見つけ
ハンドルを 切った

川岸に建つ
ホテルの駐車場に
車を 停め

赤い絨毯を
敷き詰めた
ロビーに入り
残り少ない
空き室の
ボタンを 押す

俺は
無意識に
俯いて歩く
聡美の手を
握っていた

エレベーターの中
覆いかぶさり
聡美の唇を
奪うと

抵抗もせず
聡美が 目を伏せる

「……ごめん」

俯いて首を 振る
聡美の肩を 抱いて
エレベーターを
降りた


気まずい
雰囲気が
漂う
縦長い部屋

奥にあるベッドと
中央に設置した
ソファーセットの
境目を

格子状の板が
遮るだけの
簡単な間取り

備え付けの
冷蔵庫で
ビールを
購入していると

何も 語らず
浴室に向かう聡美が
壁際で 服を脱ぎ

ほんのわずか
視界に
素肌を曝し
浴室に消えた


微かに漏れる
シャワー音
曇り硝子に
聡美の影が
揺れ動く

ビールの栓を
開け
喉を 鳴らし
飲み込むと

聡美の鞄が
目に映り
浴室を 確認し
手を 伸ばした


膨らんだ
ショルダー
化粧ポーチと
財布と携帯電話

ハンカチの間に
幾つもの
チョコレートが
挟まっている

財布を取り出し
中を開け
カード類の束を
引き抜いた

ポイントカードや
スタンプカードに
診察券が 数枚
混ざっている

名前を
確認すると
案の定
見知らぬ名前が
明記されていた


【橋岡 千代】


やはり
【聡美】は
偽名だろう


騙されていた
訳では ない

仮に 本名が
違っていたと
しても

出会った時は
【聡美】と
呼ばれていたのだから


カードを
財布に戻し
ショルダーに
財布を しまおうと

何気なく
中を 覗き込む

化粧ポーチの下に
折れ曲がった
白い封筒の
角が 見えた

引き抜くと
封筒の表面に
繊細な文字が
書き記して
ある

ボールペンで
書かれた
宛名は
短い二文字


   【遺書】


達筆な字で
浮かび上がる
【遺書】の
二文字

シャワーの音が
止まった事も
気付かずに
固唾を 飲んで
眺めていると

浴室のドアが
開き
浴室の横に
備え付けられた
棚から

バスタオルを
手に取った聡美が
浴室の中で
水滴を拭い

薄いピンク色の
パジャマに
袖を通した


ソファーに
脚を組んで
座る聡美が

タオルで
濡れた髪を
拭きながら

俺が 飲み掛けた
ビールを飲み

「…見つけたのね」

テーブルに
置いた【遺書】に
視線を 落とした

「…自殺…するのか?」

重い質問を
問い掛けると
溜息を ついた聡美が
横を 向き

「…もう…やめるわ」

小声で 呟いた


携帯電話を
開く聡美が
メールを 読みながら
話し出す

「自殺サイト
知ってる?」

「……サイト…?」

「ニュースで
見た事くらい
あるでしょ?

集団自殺とか
二人組の自殺とか

一人じゃ怖くて
自殺出来ない
臆病者が
集まるサイトよ」

「………ん」

「私も その中の
一人なの

…でも
本当に 自殺サイトが
存在するなんて
昨日まで
知らなかったわ」

聡美の顔が
悪戯に笑った

「ネットカフェで
検索してね

【自殺】と書かれた
ホームページのリンクを
辿ったら

案外 簡単に
自殺サイトを
見つけられたわ

嘘くさい掲示板の
書き込みの中に

【今から自殺したい人】

そんな安易な書き込みに
目が 止まったの

……もう
わかるでしょ?」

煙草を くわえ
火を点けた聡美が
煙りを 吐き出し

「出会った時
一緒に居た男が
自殺サイトに
書き込みした人よ」

わざと
おどけて見せる
聡美が 笑いながら
続ける

「人生最後の日だから
楽しく遊ぼうって
アミューズメントに
連れてかれて

カラオケしたり
ゲームしたり

揚句の果ては
エッチしようと
言われる始末よ

馬鹿みたい
自殺する奴なんて
あんな者ね

自殺なんて
出来る訳ないじゃない」

聡美が くわえた
煙草を 取り上げ
灰皿に投げ捨てる


「…本気だったんだろ」


ゆっくりと
聡美の表情から
笑顔が 消えた


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