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写真
しおりを挟む最後の煙草に
火を点け
箱を捻り潰す
車から降り
背伸びをすると
公園の反対側に
駄菓子屋が
見えた
いくつか自販機も
置いてある
ドアを開け
「何か飲むか?」
眉を寄せた聡美が
呆れた顔で
「あんまり
出歩かないで
根本の知り合いに
見つかるわよ
紅茶買って来て」
無人の公園を
横切り
駄菓子屋の前に並ぶ
自動販売機で
珈琲と紅茶
そして
煙草を買うと
販売機の横に
公衆電話を
見つけた
硬貨を何枚か
投入し
妻の携帯電話番号を
押す
呼び出しコールは
聞こえるが
携帯に出る
気配が ない
仕方なく
妻の実家に
電話を掛けたが
やはり
結果は 同じ
……家族全員で
何処かに
避難したのだろうか
……それだけ
報道陣が
詰め寄せているのか?
受話器を置き
振り返ると
知らない人に
愛想よく
挨拶を され
軽く頭を下げ
慌てて車に
戻った
朗らかな笑顔で
挨拶をされ
[根本]の
評判が 解る
親孝行の
親切な
若者だったに
違いない
………顔に 似合わず
俺とは
随分 性格が
違うようだ
今までに
あんな優しい顔で
挨拶をされた事は
あっただろうか
車に乗り込むと
聡美が
根本の写真を
眺めている
「写真…見せてくれ」
受け取った
写真の根本を
見直すと
無表情の顔が
緊張感で
強張りながら
そして
照れ臭さを
堪える表情にも
見える
根本は
無表情な男では
なかったかも
知れない
証明写真でも
ない限り
無表情で
写真撮影
されるのは
俺くらいだろう
紅茶と一緒に
写真を聡美に
返すと
また写真を
眺め始めた
「この女性 誰だろう」
聡美の興味は
女性の方に
あるらしい
「手掛かり なかった?」
「……俺も 気になって
年賀状を調べたが
当てが 外れた
……多分
高校生時代の
憧れのマドンナ
そんな感じだろうな」
「……高校生時代の
お友達 訪ねてみる?」
ただの
好奇心なのか?
「…その女性を
探し出して
どうするんだ?」
珍しく
返答が ない
何も理由を
考えずに
探偵の真似事が
したかった
だけなのだろう
珈琲の栓を
開け
渇いた喉を
鳴らし
飲み干すと
微かに聞こえる
小さな声で
聡美が 囁いた
「根本が 大切に
持っていた写真でしょ?
根本の気持ち
彼女に 伝えて
あげたい
………だって
根本は もう
伝えられないんだもの」
……確かに
聡美の言う通りだ
……根本は
俺の代わりに
自殺し
…俺の名前で
亡くなったまま
誰も
根本の死を
知らずに
誰からも
惜しまれずに
………
ひとりで
消えてしまう
やり切れない思いが
込み上げる
それでも
根本は
自殺を…選んだ
………何故だ
五枚 取り分けた
年賀状を
聡美に手渡す
「高校時代の友人だ」
「……だから
年賀状が 分けて
あったのね」
「大学が兵庫だからな」
年賀状の文章を
一枚づつ
読み始める聡美が
何枚目かのハガキを
裏返し
また文章を
読み返す
「この人…女性だよ」
「何?」
「文章に
“また逢えるといいね”
これって 女性しか
書かないわよ
[宮内 利生]
【トシオ】じゃなくて
【リオ】かも…」
「……リオ」
「…わからないけど
確認する価値は
あると思うの」
「……結婚は?」
「そんなの
確認してみれば
解るじゃない!
やる前に
諦めるのは 嫌」
圧倒される
聡美の迫力に
唖然となる
根本の為とは
言うが
何か別の意味で
意固地に
なっているように
感じた
電話番号案内で
[宮内家]の
番号を調べ
電話を掛ける
『県立彌榮工業高校の
同窓会通知を
お送らせて
頂きたいのですが…
今は どちらに
お住まいでしょうか?』
緊張した聡美が
あえて
宮内の名前を
ふせる
『リオなら
同居していますよ』
『リオさん 今
いらっしゃっいますか?』
【宮内 利生】
午後8時頃 帰宅
帰宅時間に合わせて
もう一度
連絡をすると告げ
電話を切った
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