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第1章 全ての始まりの記録

abyss:39 フード男の生い立ち①

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こいつにはティナのことを聞きたいがそれどころではなくなった。
俺に向かって18個の分散されたCUBEが飛びながら攻撃してくる。

CUBEがどういう原理で浮いてるのか、上下左右に移動できるのか全くわからない。
最初はドローン技術を疑ったがプロペラや噴射口ふんしゃぐちは見当たらない。
細い線の幾何学模様がうっすら確認できるだけだ。
「CUBE本体から引き離そう」
打開策を模索しながら進行方向にダッシュする。左右、上下に避けるのにCUBEにじかに触る、踏み台にしても問題はなかった。
ただ18個がヒュンヒュン飛んでくるのをアクロバチックに避け続けるのか体力がごっそり奪われていく。
直撃するCUBEはナイフの柄で受け流すか叩き落とす。
「そうするかぁ、賢いなぁ!!!」
フード男が乗っているCUBEごと俺を追いかけてくる。
(やはり一定以上離れるとコントロール出来なくなるのか?)
飛行攻撃で厄介なのはCUBE同士を衝突させて俺の体の一部を潰しに来ることだ。
激突で飛ばされるだけのダメージと違い左右から挟まれたら致命傷になりうる。
殴られているような重さと硬さ。

CUBEが動かなければ一個くらい時間をかけたら破壊できそうだ。
しかし数の多さで物理的に無理。
フード男が現れた通路は右に曲がってそこから左に曲がっている。
通路を右に曲がり俺の姿がフード男から見えなくなると、追いかけてきたCUBEの何個かが壁に激突した。
飛んでいたCUBEは攻撃してこずその場に浮遊だけするようになった。
「あいつから見えないとコントロール出来ない── のか?」
なんとなく打開策が見えなくもない。
曲がった先の次の曲がり角までは通路の距離は10mほどで短かった。
このまま突っ走り次の角、左通路まで駆け抜ける。
角を曲がると最初に歩いたのと同じくらい長い通路が続いている。

ここから先に行けば不利だ。
「ここで仕留める!!!」
まだ本拠地がある最深部に到達していない。まだ戦闘はある。
できるならこいつにハンドガンは使いたくなかったがそうも言っていられない。
ハンドガンに持ち替え重さで残弾数を確認。
1発ごとの重さによる残弾数の違いは母さんに120%当てられるまでテストされた。
(残り9、いや8発)
全弾使いたいが残りはこのマガジンしかない。
不利な俺が使える手を何重にシミュレーションする。
「どうしたぁゴミィ! 逃げてばかりかぁ~!!! 逃げていたら俺は倒せないぜぇ~!!!」
角に隠れていフード男の気配を探る。姿は見えないが声からすぐ近くまで来ている。

警戒することなく角からスィーとCUBEとその上に乗っているフード男が見えた。

パンパンパン!!!

しかし銃弾は浮遊しているCUBEが割り込んで邪魔をしたため受け止められた。
「お前の居場所、実は丸見えなんだよなぁ~ウヒャヒャ!!!」
敵のエリアなのだカメラで見られていること、カメラとリンクしていて見ることが出来ても不思議なことではなかった。
俺を油断させるため分離したCUBEが襲って来なかったのはわざとだ。

パン!

浮遊CUBEに防がれない距離まで詰め1発撃つがフード男はスイっと身体をらして避けた。
俺はフード男のCUBEの真下をくぐり抜けCUBEの反対側を掴んで同じCUBEの上に乗る。
足払いの蹴り技からの回し蹴り、フード男がジャンプして避けたところを超至近距離から発砲したがこれもかわされた。
母さん以外でこの距離で躱せるやつに初めて会った。

ゴン!

浮遊CUBEが真横から飛んできて俺に激突し壁まで飛ばされる。
壁を両足で受け身を取りフード男から離れるように距離をとった。

バン!バァン!

CUBEに乗った時に置き土産で置いてきた手榴弾てりゅうだんが爆発した。
俺自身が相打ち覚悟も含めてある程度のダメージ覚悟で手榴弾てりゅうだんを置いたが、浮遊CUBEに激突されたおかげで飛ばされ手榴弾のダメージを免れられた。
足元で爆発したんだお前は避けようがないだろ。
フード男の着ているチャラい服が防刃・防弾仕様になっているならダメージをどれほど与えられたか。
しかし予想外の結果だった。CUBEの上にフード男の姿が見えない。
「── いない!」
|木っ端微塵こっぱみじんに吹き飛ばされたなら肉片や血飛沫が残る。
CUBE本体は今の爆発で破壊され床にゴトン!と落ちた。
他の浮遊CUBEもワンテンポ遅れてゴトゴトゴトン!と落下する。
「やってくれたぁなああ雑魚の分際でよっぉおおおお!!!!」
俺の背後から叫び声がした。
(いつの間に!?)

ザシュ

ガードした両腕の服が切られ火傷を負ったような痛みが走る。
(振り向いてガードしていなかったら頸椎を切られた!)

ドガ!

腹部に強烈な打撃の痛み。
後ろに飛ばされつつ両足で踏みとどまる。これは蹴りを食らった。
銃は当たらない。爆発も避けられる。接近戦しかない。
銃をしまい、ナイフに持ち帰る。

ザザザザシュ!!!

フード男の早い斬撃に防刃・防弾服を切り裂いて全身を斬られていく。
傷は浅いが打撃も加わってかなり痛い。
フード男の攻撃に応戦しようとするが早すぎて姿を捉えることすらできない。

シュッと少し離れたところにフード男が姿を見せた。
「すぐ終わっちまったんじゃおもしろくねぇからな、俺の話を聞いてくれよ」
フード男は全身ジェスチャーで得意げに自分の生い立ちを語り始めた。
フードをまくり上げ舌を出して嬉しそうな顔をした。
フード男の素顔は俺と同い歳くらいだった。
「大爆発の日に両親とその他大勢と一緒に地下に連れ去られて人体実験にされたのよ。5歳前には実験で失敗した人間の殺処分と死体解体までやらされてよぉ。その中に俺の両親もいたっけかぁ。ダァ~カァラァ~人殺しなんて呼吸をするのと変わんなくなっちまったんだよぉ」

俺とほぼ同い年の彼の生い立ち、彼が育てられた環境は衝撃だった。
「黙ってどうした? こんな俺に何か温かい言葉ってやつをかけてくれよぉ! まだやり直せるかとか薄っぺらい言葉を言ってくれヨォ!」
何も言えない。言葉が出てこない。なんて後味あとあじの悪い話だ。
内戦している国の子供が誘拐されて兵士として育てられるのよりたちが悪い。
俺の育った環境と似てなくはないが全くの真逆だ。
人格、理性が歪む理由。育った環境があまりに非人道すぎだ。
フード男は手に持っていたナイフをしまう。
「たとえ親でも殺処分を嫌がれば徹底的に痛めつけられた! 子供の俺が生きる残るには命令に従うしかなかった!!! 愛されてぬくぬく育ったオメェは俺の生き方を否定できねぇ!!!」
彼に起きてしまった過去は否定できない。
論破できる気休めの言葉すら浮かばない。
だがそれは彼の都合であって俺のこれからの選択を無しにしていいわけじゃない。

「ティナは! ティナはどこだ!!!」
「ふっひゃっひゃっひゃあヒャヒャヒャヒャ!!!!やっと聞いてくれたよぉ!」
下卑げびた醜悪な顔をして一言つぶやいた。
「犯した」
「── いまなんて?」
「犯したって言ったんだよぉ! 耳が遠いのかなハルキクゥーーーーン!!!
人質が何もされないなんて漫画の世界の話だけだゾォ~!
いつも死にかけの実験女としかヤレないから元気な女は締まりが良くて最高だったわぁ~~~!」

最悪の結末だ。最悪なんてものじゃない。

一番避けたかった事だった…………。
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