カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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プロローグ

Mの傍観記録②

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男子大学生に睨まれヤバそうな雰囲気に目を逸らしてしまった俺。

喧嘩が嫌だとかそういうのじゃなくて余計な争いは避けたほうがいいじゃん。
俺こう見えて空手は高校生までやっていたから身体つきも良いしそこそこ強いんだぜ。いざとなったらこんな男に負けるわけないじゃん。
チラッと男子大学生を見たら今度は別の人を睨んでいた。
こいつは頭がおかしいのか?

女子大生の目の前に立っている男子大学生と俺の横で顔をうつむいてしまっている女子大生と繋がった。
あー、この男は痴漢じゃん。
帽子を深くかぶって顔がわかりにくいようにしているのと周りを睨んで自分を見られないよう威嚇しているんだ。
よ、よーし次の駅でこの男を痴漢で捕まえてこの女子大生に良いところを見せよう。うまくいけば女子大生に感謝されて付き合えるかもしれないラッキー!

下心丸出しな気持ちで駅に到着するまでの数分間をドキドキしながら待った。
あああ、大丈夫かな怖いな。痴漢だって言えるかな、この男に逆上されて反撃されたらどうしよう。
ドキドキしながら駅に停車するのを待った。

駅に到着しドアが開き一斉に人がおり始めた。

女子大生も降り、女子大生の前にいた黒帽子の男もすぐ後ろから降り始めていた。
今だ!というタイミングで黒帽子男の手を掴もうとした瞬間

「この人 痴漢でーーーーーーーす!!!!!!!」

と女子大生が黒帽子じゃないヒョロガリのどこにでもいそうな男の手を掴み上げて叫んだ。

あれ?こっちの黒帽子の男じゃないの?
さっき黒帽子の男が俺を睨んでいたのはこいつも痴漢がだれか探していたのか?

俺の中にあった勇気がどこかに隠れてしまった。
よーし、ここはちょっと様子をみようじゃないか!あとは良いタイミングを見て登場だ。

バタバタ逃げようと暴れる痴漢を女子大生が逃がさないよう必死で掴んでいる。

逃げられないと悟った痴漢がカバンの中に手を突っ込んだ。
女子大生は痴漢がカバンに手を入れた瞬間に痴漢から手を離しさっと距離をとっていた。
痴漢はナイフを握り女子大生に向けていた。

一斉に周りが騒然とする。

痴漢して捕まりそうだからってナイフ出しちゃう!?
女子大生刺されちゃう!? 殺人か殺人未遂やろ!
ニュースや新聞に載るじゃん!
まてよ! 俺が助ければヒーローになれるじゃん!
女子大生から感謝されてテレビやニュースに出て人気者になって人生勝ち組伝説きたー!

いや、待て。落ち着け俺、早まるな。
ここで女子大生を助けて刺されて、仮に死んじゃったフラグを考えろ。
!?

異世界・転・生!!!

そう! 異世界転生するというフラグがたつかもしれない!
異世界転生か…………こんな世界、何も面白くないしそれはそれでありかも。

異世界転生チャンスに乗るか、あああああどうしよう!!!!
俺が数秒間くだらないことで悩んでいても現実の時間は同じように流れているわけで女子大生の状況はというと。
痴漢から数歩の距離をとった女子大生は逃げ出すかと思いきや肩にかけていたカバンを前に構えてナイフに刺されないように防衛をした。

とそこへ

「大馬鹿やろう!!!!!」

とデカい鋭い雄叫びに痴漢も女子大生も周囲の注意が一斉にそちらに向く。目視できた時には黒帽子の大学生がナイフを持った痴漢に距離を詰めナイフを素手で掴んだ。痴漢はまさかナイフを素手で掴まれるとは思わずギョッとしてナイフを手放してしまう。

どんだけ度胸がナイフを掴めるんだ!

黒帽子は持ち主を失ったナイフを自分の後ろの地面に落とすと間髪入れずに痴漢の左頬に素早い拳をブチかます。
ぶっ倒れた痴漢に駆け寄り振り上げた拳を顔面に叩き込もうとしたところ、痴漢されていた女子大生に全身で腕を掴まれて動きを止められた。
痴漢は後ろに吹っ飛んで顔面を抑えながら悶絶して転がっていた。
え、今一瞬何が起きたのか全然見えなかった。
ただの痴漢がナイフを持った殺人者に変わりそれをあっという間に制圧してしまった。
帽子の大学生は荒い息を上げながら動きを止めるが拳はブルブル震えていたが、女子大生が話しかけたらスッと冷静になった。
頭の切り替えが早すぎないか?

あ……… 俺の出番なし………… ただの何もできなかった傍観者の一人になった。
カッコいい所見せようと思ったのに…………

女子大生と黒帽子の大学生は痴漢を押さえ込みながらと駅員と一緒にその場を去っていく。

…………待ってくれよ! あの二人めっちゃいい雰囲気になっていない?

もし、俺が、痴漢がナイフ出す前に抑えこんでいたら…………
もし、俺が、ナイフに怖気づかずに空手で取り押さえていたら…………

いまごろ女子大生の隣にいたのは俺だったかもしれない。

…………だめだ、おれにはそんな度胸はない。これまでだってずっと大事なところで勇気がでないで何度もこうして見送ってきたんだった…………。

あいつ、すげぇな…………。

もし助けていたとしてナイフで刺されて死んでいたら異世界にいけたかもしれない。異世界転生が出来ずに死んでたらここで人生が終わっていたかもしれない。
の話なんていくらしても意味がない。

どうしようもできなかった虚しさを誤魔化そうと心の中で笑った。
チャンスを逃した俺の心中を察してくれよ。

今日は商業区で買い物の予定だったが、目の前で起きた事件の衝撃が大きすぎてそれどころじゃなくなってしまった。このあと高層区のカフェでサラリーマンと並んでぼーっと時間を過ごしてそのまま地元に帰った。しばらくこの都市に来る気が起きなかったから俺が大学生二人を見たのはこれっきりになった。
二人がその後どうなったのか…………


モブの俺には知るよしもなかった。


次話から本編が始まります!
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