カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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第1章 全ての始まりの記録

abyss:35 残酷な一言

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夜春の姿が闇夜に消えて完全に見えなくなってもこずえは一歩も動かなかった。

彼女が気分を変えて襲ってこないとも限らないからだ。
こずえもまた人間社会の中で人間の醜さと理不尽さを味わってきただけあって完全に信用していなかった。
いや、夜春ではなく自分自身を信用することが出来なかったのだ。
闇の中に神経を集中し凝視する。

いつまで経っても夜春が戻ってくることはなかった。
「───はぁっ」
安堵のため息をついた。
こずえは立ち上がりまだ生きていると言われた仲間のところ歩いていく。
2人は重症だが胸が上下して呼吸をしていた。
オネェが倒れたまま目だけ開けてこずえを見た。
「あらぁこずえおひさ~。負けちゃったのネェ~」
オネェは重症だが言葉は元気だった。
「あんなバケモノ、勝てる気がしませんですわ。いま助けますから待っていてください」
もう一人のレスラーも額からから血を流しながらむくりと上半身だけ起き上がる。
「すまん、三途の川を渡りかけていたが、かなづちだったから泳げんで戻されてしまったわい」
レスラーのテンプレのようなジョークは緊張の糸が解けた3人を笑わせるには十分だった。
「あなた頭を撃ち抜かれたんじゃないんですの?!」
「試合でよく頭突きしてたからここだけかなり頑丈がんじょうなんじゃわい。弾を食らった瞬間に仰け反って骨を削るだけでなんとかなったわい」
「あたしも防弾服のおかげでぇ肩の骨粉砕だけで済んだみたいなのよ~。
かなり痛いんだけどな!」
オネェは最後のセリフだけ低い地声でわざと言うとまた笑いが起きた。
そして3人はしばらく沈黙した。

「わたしたち処分されるわよねぇ」
オネェが現実を突きつける発言をした。
「…………」
誰も答えられない。
生殺与奪の全権を握っているのはボスとレグルスだからだ。
「あのどっちかならやりかねんわい」
プロレスラーは半ば諦めというか覚悟を決めているようだ。
「まー地獄のどん底から少しだけ抜け出せたし、実験改造中は苦痛だったが毎日腐っていない美味い飯が食えたり、屋根のある部屋で寝れたのはありがたかったぜ!」
それぞれの過去を思い出し僅かな幸福と感傷に浸る。

そこへ
<──お前たち>
頭に直接の会話、レグルスからだ。
こずえを通してどこまでの情報が見られていたのかわからないが任務に失敗したことだけは事実だった。
<ボスの代理で連絡をしています>
レグルスは話しかけるまでどの選択肢が最適解か計算し続けていた。
脳に埋め込んだ端末からたんぱく質を分解する酵素を出してこのまま殺すか、まだ何かの役に立つかもしれないからまだ生かしてみるか。
<失敗を確認>
レグルスからしたら殺しても殺さなくてもどちらでもよかった。
レグルスは夜春の情報は詳細にわかっていたが、戦闘員ギブンたちにはえて情報を与えず連れてこいという命令オーダーだけを伝えた。
夜春の戦闘能力が高すぎたという誤算はあったものの場所を教えたことで夜春は予定通りやってくる。
だからこの3人はいまは殺さない。信号さえ送ればいつでも殺せるから。
いつでもどこでも。

を伝えると人間はどのような反応するか興味が沸いた。
<ボスから言伝ことづてです。任務失敗は残念だが目的通り夜春を本拠地コフィンに連れていくことは成功だ。よって約束通りお前たちはもう自由に生きていい>
予想外な希望ある言葉に3人は顔を見合わせ安堵の表情を見せ合う。
「わぁ」
「うふん」
「ほほぅ」

<しかしペナルティがないわけじゃない、今すぐ殺さないだけである日突然ボスの気まぐれで処分を下すことにした。以上、さようなら>

一方的に伝えるとレグルスからの通信が切れた。
「どういうことの!?」
「ちょ、待ちなさいヨォ~」
「すまん、もう一度言ってくれ!」

─ いつか 突然 死ぬ ─

1秒後か、明日か、数か月後か、数年後か…………
3人に絶望の幕が下りてきた。
これからの人生にいつどこで何をしていてもが憑《つ》き纏《まと》う絶望に堕とされた。
「それってこれから積み上げていくことが一瞬で終わらせられちゃうってことよねぇ~」
「クソ!!!こんなのは自由とは呼べねぇぞい!!!」
オネェとプロレスラーはあらがいようがない状況に叫んだ。
「俺たちでボスを倒すぞい!」
「不可能よぉ。ボスを襲えたとしても信号を送られたらそこで終わりよぉ」
「クッソ! 打つ手なしじゃぁ!」
こずえは二人の顔を見る。
「夜春に、彼女がボスを倒してくれたら私たちが生存できることを伝えました」
「そんな希望もちたくないわい。残酷じゃわい!」
「そーよぉ、まったく余計なことしてくれちゃってぇ、これじゃあ生きてみたいって思っちゃうじゃな~い」

こずえは夜空を見上げ、オネェは俯き、プロレスラーは仰向けになる。
「ねぇん・・・」
オネェがこの沈黙をすぐに破った
「何ですか?」
「あいつら、まだ生きているかしら」
オネェがいうあいつらとは、ハルキに向かった3人のことを指していた。
「どうかな、こっちから通信しても何も返ってこないぞい」
「あんたが嫌われているから無視されているのよぉ~知らなかったのぉ?」
「グハハハっ! そうだった嫌われてたんだった! なわけあるかー!」
「茶番ですわね」
「そっかぁ、向こうは死んじゃったのねぇん…………」
オネェは立ち上がった。
「今から行ってもどうすることもできないですよ」
こずえはオネェの行動がわかった上で伝えた。
「わかっているわよん。どうせいつか死んじゃうなら今のうちに3人の亡骸くらい拾ってあげないとねん」
「いいこと言いますわね。私もついて行きますわ」
こずえも立ち上がる。
「お前ら二人じゃ筋肉が足りんのじゃわい。わしの筋肉がついて行きたいらしい、感謝しやがるんじゃ」

3人は起き上がり通信が途絶えた3人に向かっていった。
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