カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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第1章 全ての始まりの記録

abyss:32 廃墟区戦闘(ダストバトル)③

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仲間を助ける最高のシチュエーションでOL女は(決まりましたわ!)と自信満々に再登場した。

しかし自分並みの戦闘力を持つ仲間二人が自分が退いていたわずかな時間で倒されている光景を目の当たりにして混乱し始めた。

(はぇ!? 2人ともいつの間にやられちゃったんですか?! え、死んだ? 死んでる? ちょっとまってくださーい。私たちはあたまから身体能力まで人体改造されたアスリートよりも強靭な肉体をもった強化人間ですよ。純粋にパワーだけなら私より強い二人が簡単に!?)
頭をフル回転させて自分の置かれた状況を整理している。
(レグルスから送られてきた情報には「ただの主婦、以上」としか書いていなかったのに、殺すことに一切の躊躇ためらいなしですわ!これは話が違いすぎます!)
だからと言ってOL女が状況整理できるまで夜春がわざわざ待つわけもなくOL女に向かってきている。
(少しは考えさせる時間をください!)
迫りくる夜春をみて地面を蹴る衝撃で車の残骸を浮かび上がらせ、刀とさやを薙ぎ払う風圧で残骸を飛ばす。
その場しのぎの攻撃だが飛散物をかわす夜春をわずかに足止め出来た。
「チッ」
舌打ちした夜春をチラリと見ると恐ろしい形相をしていた。

悲鳴を上げながらOL女は廃墟となった暗い建物群の中にダッシュで逃げ体勢を立て直すことを優先する。
この廃墟区はOL女が元々勤めていた職場があった場所なのでどんなに荒廃していようと多少の地の利は心得ていた。
(この辺でよくランチしましたわね)
戦争によって荒廃したわけではないが清掃されないとゴミや土埃つちぼこり、植物が生い茂り、置き捨てられた車やトラック、ここの住人たちが持ち込んだ物、風化で崩れ落ちた瓦礫や看板が散乱している。

遮蔽物に身を隠しながら斜め向かいのビルに駆け込むと、物陰に隠れて一旦息を整える。
「はぁー、シンドイです。毎日残業していたOL時代よりシンドイですわ。身体強化により動体視力と反射神経が良くなっているから銃の向きと引き金を引くタイミングを見て躱せる私はすごいです! でもあんな正確な射撃をずっと避けられませんし、タイミングをずらしたフェイント入れられたら当たりますわ! 長期戦になる前に決着つけませんと」
ビルの入り口から夜春がいつ入ってきてもいいように覗き見しているが全然入ってくる気配がない。
「もしかして、逃げたんでしょうか」

スチャッ

真上から微かな音がした。
直感で夜春がいると判断、刀を背中に回しながら前だけ見てその場を離れる。

ガキン!

銃弾が刀に当たって弾かれた。
(いつの間に真上にいらしたのしょう?!)
OL女は刀をそのまま身体だけ反転し夜春に向く。

ガチチチン!

勢いを乗せた全身で飛び降りてきた夜春のナイフと刀が火花を散らして激しくぶつかり合う。
夜春を受け止めているからOL女の身体が後ろに反れるが、強靭な肉体により足腰、背筋が余裕で持ち堪えられた。
夜春がナイフと交差させた反対側の手に銃を構え至近距離で撃つ。
OL女は身体の軸をズラして銃弾を避けつつナイフを受け止めたままの刀を振って夜春を離れさせる。
地面低くに着地した夜春は腕をOL女に伸ばして銃を撃ちながら再接近する。
刀で銃弾が弾かれる。

銃が避けられ当たらないのであれば距離をとっても意味がなく、刀の間合いで闘うのは不利だ。

近接戦闘術。各国の軍隊で取り入れられている零距離格闘術ゼロコンバットを夜春は独自に応用させ昇華させている。素手だけでなくナイフ、銃、ナイフと銃を組み合わせるなどあらゆる修練をしている。
OL女は刀でナイフを受け、てのひらで銃身に触れて軌道を変え自分に当たらないよう両手を激しく交差させるが、体力消耗と集中しすぎて神経が千切れそうになっていた。

ガキンパン! パンパン! キンキン!

(怖すぎです! なんで私と互角に闘えてしまうんですか!?)

カチ

夜春の銃が弾切れになった。
「弾の無駄遣いね」
と夜春は手から銃を離して落とすと懐からカランビットナイフを持ち出した。
両手にナイフを構え両肩を上下に小さくゆらゆらさせる。
夜春の目は相変わらず奈落の暗さがあったが、白い歯が「ハッ」と笑うと攻撃を開始した。
「ひーん! こんなの聞いていないです! ただの主婦を連れ去るだけの命令オーダーだったはずなのに! これでドブ底の掃き溜め人生から抜け出せると思ったのに!!!」
OL女は刀と鞘の二刀流に切り替え必死に攻防した。

ハルキの情報を含めてだが夜春の情報ですらOL女を含め先に倒された2人、他の戦闘員ギブンの誰にも正確な情報は共有されていなかった。
(レグルスは私たちに何をさせたいのでしょうか!? 実戦の人体実験ですか!?)
常人より遥に身体能力が強化されているにも関わらずOL女の斬撃は夜春に通用しなかった。
「殺すなと命令オーダーされてますが、仲間があっさりやられてしまいましたしこれっぽちも余裕がありませんわ!」
OL女の焦りの機微きびに気が付いている夜春は冷静にOL女を追い詰めていく。
OL女からいますぐ聞き出したいことはある。が、OL女に余力が感じられる以上まだ問いかけはしない。

≪沈黙≫という圧力を掛ける。
≪沈黙≫。誰かとの会話や仕事の交渉時にお互いの会話が止まるという状況になる時がある。無言の沈黙に耐えられず気まずさや不安を感じた方が先に口を開いてしまう。というコミュニケーション方法だ。

夜春はこれを逆手にとって無言を貫き威圧感を与え続けた。

OL女は仲間が何も出来ないままやられた不利な状況に加えこの沈黙に対して無意識で精神的負担が大きくなり、戦いの中で現実逃避の回想モードにはいってしまった。

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