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第1章 全ての始まりの記録
abyss:29 カーチェイス③ 決着
しおりを挟むヘルメット内に表示されている敵地の座標に向けてナビを進める。
工場地区ルートのインターチェンジで一般道に降りた。
無人の工場地区に向かうルートは何もないため普通車が行くことはなかった。
ここに向かって走るのは無人の自動運転トラックのみ。
発信機を取り付けたキジマのジープは高速道路のだいぶ手前で止まったまま動いていなかった。
(ジープが故障した? 故障したなら俺ならどうする)
俺がキジマの立場だったらと思考を同調させる。
ブオオオオオオオオン!!! オオオオオオオオオーーーーン!!!!
甲高い音をさせながら黄色いスポーツカーが近づいてくる音がした。
(俺なら車を乗り換える!)
さすがエンジンに馬力があるだけあって速度も機動力もある。
あんなのにぶつけられて事故れば一発退場の大怪我だ。
目的の座標まではまだ少し距離がある。
現地についてバイクから降りた地面の土俵にもっていくしかない。
ヘルメットにスポーツカーの運転席にキジマ、助手席に仮面男の姿が映し出された。
(大型トラックを運転していたカレンは?)
メキメキメキ! ドガッガアアアアアン!
一般道の上に並行していた高速道路から衝突音が響いた。
ヘルメットの映像に上から車体が飛び出してくる大型トラックの下側が俺に向かって落ちてきているところだった。
ゴッシャアアアアアアンンンン!!!!
ギイイイイイイイイイイ!!!!
下敷きになる前にアクセルを回しギリギリ大型トラックを回避した。
地面にめり込んで潰れた大型トラックから離れていく。
大型トラックの横でスポーツカーが止まりそのあと追いかけてきた。
スポーツカーのボンネットにカレンが髪を靡かせて立っている。
「スポーツカーの上に立てるってどんな脚力だ」
風圧でスカートがバタバタバタと靡いている。
運転しているキジマは目の前でカレンのパンツが見えているが気にしていない顔。
仮面男は直視できず顔を反らしている。
俺のヘルメットにカレンの腰とパンツが大きく映し出される。
「やめ、そんなつもりはない!」
俺はバイクで目の前を走っていた大型トラックを追い抜く。
「キジマァ! あのトラックに寄せろォッ!」
「はいよ!」
キジマのスポーツカーは無人の自動運転トラックに幅寄せした。カレンはトラックに飛び移ると運転席に座る。
自動制御で動いている車を手動操作すると緊急停止する安全仕様なのだが、カレンがピリピリと放電した両手でハンドルを握ると自動制御システムがハッキングされ手動運転にプログラムが書き換えられた。
手動運転になったことで速度制限が解除された。
「シャ! これでぺしゃんこに轢き殺してやるぜぇ!」
スポーツカーとトラックは左右に並走する形でバイクの俺を追い上げてくる。
目的地までもうすぐ。
このカーチェイスに決着をつけるときが来た。
(出来れば死なないでくれ)
バイクの自動運転モードに切り替え、右手に銃を構えスポーツカーとトラックの対面になる内側のタイヤに残りの弾を撃ちまくった。
キジマが乗っていた防弾ジープならタイヤを含め装甲は万全だった。
いま乗っているスポーツカーもトラックも銃で撃たれる事は想定されていない。
パンクさせることは簡単だ。
パンクした2台はハンドルを取られる。ハンドルが効かないだけなら止まりさえすれば問題はなかったが並走していたことが仇となった。
制御できなくなった車体がガッシャンコ! と互いにぶつかり外側に反発してスピンしながら左右に飛び出していく。
ハンドルが利かなくなったスポーツカーは工場の外壁を薙ぎ倒し空中をダイブして地面に激突。キジマと仮面男は車外に放り出され地面に叩きつけられる。
(あいつらちゃんと受け身取ってやがる)
カレンのトラックは横転して横滑りしながら何本か電柱をなぎ倒し止まった。
トラックの上に倒れた電柱と電線が接触して
バチチチチ!!! バチバチバチバチッ!!!!
火花が上がる。
「ギャアアアアアア!!!」
カレンの悲鳴があがる。
ドオオオオオオーーーーン!!!!
燃料に引火したトラックが爆発し炎を上げる。
それとボンと吹き飛ばされた何かが地面に転がる。
プスプスと煙が出ているカレンだった。
カレンが生きている可能性は極めて低いだろう。
受け身を取ったキジマたちの近くでバイク止めた。
「ふぅ、さすがに疲れた。大地を踏みしめる喜びを感じる」
無事に五体満足で地面を歩けることで緊張が取れかけたが、こういう場面が一番油断してはいけない。
警戒しながら近いところにいる倒れている仮面男に歩み寄る。
仮面男はうつ伏せになっていて顔は向こう側を向いていて意識の有無がわからない。
左手は俺から見えて得物は持っていないが身体の陰に隠れている右手。何か隠し持っているとしたら短剣かナイフと思う。
構えの姿勢でスッと真横に近寄ると仮面男は上半身をガバッと起き上がらせ右手を振りかざしてきた。
パシッ
仮面男の右手を掴む。予測できていれば難しくない。
右手はスタンガンが握られていた。
(刃物じゃないのか)
仮面男の手首を掴んだままクルリと関節技を極めながら捻ってやる。
スタンガンを握ったまま捻った腕を彼の後頭部に押し付ける。
バチバチチチチイチチチチチチッ!!!
「ッンギ!!!????」
身体をビクビク痙攣させながら白目を向いて気絶した。
仮面男の手からスタンガンを抜き取り、仰向けになっているキジマに近寄っていく。
受け身を取ったとはいえ、かなりなスピードで投げ出され地面を転がったのならダメージはかなりあるはず。
仮面男の悲鳴を聞いてキジマは上半身の力だけで這いながら逃げていく。
逃げていくキジマを壁が遮った。キジマはそこで逃げるのを諦めた。
俺は無言でスタンガンをバチバチさせながらキジマを見下ろしていた。
「── ティナはどこにいる?」
「へっ、そう簡単にお前にいうかよ…………」
唾を吐き捨てハルキを見据えるがその瞳には悪態を吐く程度の気力しかのこされていない。
ハルキは一呼吸静かに深呼吸をして
「ティナはどこダァーーーー!!!!」
と響き渡る叫び声を上げながらキジマの左足を踏み潰した。
バキバキバキ
足の骨が砕ける音がキジマの体内を通って脳に響く。
キジマは激痛を感じているがこの痛みよりカレンと仮面を失う痛みに比べればどうということはない。
(ほんっとにこいつはクレイジーだ。データでもらっていた情報と会ったときじゃ今のコイツはまったく別人じゃねーか…………
俺が白状ったんじゃ死んだカレンや仮面に顔向けできねぇ)
意地でも言うつもりはなかったが、キジマの頭の中に新しい命令が送られてきた。
≪検体No.261 任務失敗。検体No.261消去決定 1分後に脳を融解≫
(くそ、俺の名前はキジマだっつーの、どうせ死ぬなら…………)
「わかった! 言う! ティナちゃんだっけ? 言うから!」
ハルキは冷たい目で何も言わずキジマを睨んでいる。
「この先にある東雲重工の28番倉庫が入口だ」
「本当だな?」
「ああ、嘘はいわねぇよ。俺はもうすぐ グガッアア!!」
バチバチバチバチバチ!!!!
キジマが何か言いたそうだったが時間が惜しいためスタンガンを口に押し付け黙らせた。
キジマは全身痙攣しながら意識を無くす。
「大人しく寝ていろ」
ハルキはバイクに乗りヘルメットでキジマの情報と座標の位置情報を確認する。
東雲重工の28番倉庫に向かってバイクを走らせた。
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