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第1章 全ての始まりの記録
abyss:25 ハルキ戦闘開始④
しおりを挟むブチギレていると思ったが静かに冷静な自分を客観的に見ていた。
母に叩きこまれたあらゆる格闘術が自分を安心させ、経験値が冷静でいさせてくれた。
俺はキジマから目を逸らさないままスタスタと距離を詰めていく。
まずこの中で一番タフなキジマを潰す。
キジマは普通に歩いてくる俺の目を見て全身に汗が吹き出した。
深い漆黒の眼光。
(ああ、マジでヤバイやつの目だ)
俺はキジマの間合いの中に入ったが、キジマは恐怖を感じて身体が強ばっていた。キジマは顔から汗を噴き出し、目元がピクピクしている。
「クッ!」
キジマが身体を動かし右フックで仕掛けてきた。
パシ
俺は無造作にそれを左手で受け止め、受け流しながら腰を回転させキジマの喉に高速の手刀、顎に掌底、後頭部に手を回し頭を抱えると真下に落とした。
ガゴォ!
真下に落とした頭に対して俺の膝蹴りが顔面を潰す。
キジマは咄嗟に左腕でガードをしたようだが連続で膝蹴りを食らわしガードをぶち破る。
左手で押さえていたキジマの拳を捻り、キジマの体勢をさらに低く持っていく。
後頭部と頸椎に拳を叩きつけまくる。
意識を失ったのか左で持っていたキジマの腕から抵抗する力がなくなった。
キジマの身体をガシッと両手で掴むと外壁に向かって放り投げぶつけた。
「次」
俺はカレンと仮面男に顔を向けた。
俺と目を合わせた2人は恐怖を感じ無意識で半歩後ろに退がった。
一瞬で間合いを詰めた俺は、左手でカレンの三つ編みを掴み、辛うじて反撃してきた仮面男の突きを上半身を捻るだけで躱し右手で仮面を鷲掴みにしたまま押し出していく。
「イったぁ!!!」
カレンは掴まれている三つ編みを手で押さえながら引きちぎられないようにしながら、引っ張られる方向に身体を持っていく。
仮面男の後頭部を地面に叩きつけ、カレンの髪の毛を足で踏みつけ動きを封じる。
仮面男の顔面を右拳で殴りまくる。
髪の毛を押さえつけられているカレンは動ける稼働範囲は狭いが地面に横たわりながらも下半身を浮かして蹴り技を繰り出す。
俺が仮面男を殴るのに左腕を使わなかったのは、カレンの攻撃をガードするためだ。
「このこのこのっ!!!」
カレンは必死に俺に蹴り技を繰り出していたが、全身に力が入らない体勢で軸がない蹴りの威力は大したことがない。
バギィパキン
仮面男の仮面が割れ素顔が露わになった。
顔面の皮膚がズタズタに切り裂かれ、傷や火傷で爛れた痕だらけだった。
仮面男の悲しそうな目をしていた。
俺は一瞬拳の動きを止めた。
これは事故でついた傷じゃない。人為的だ。
いじめ? 虐待?
仮面男の人生にどんなバックグラウンドがあったのか。
キジマがそれぞれの事情がある、って言っていたことを思い出す。
それはそれ、これはこれ、区別して考えろ。
同情は必要ない。
一瞬だけ止めた拳を構わず振り下ろした。
「テメェエエエエエッ!!!」
仮面男の素顔が出たことにカレンが逆上して蹴り技の猛攻と同時に三つ編みを押さえている俺の足を持ち上げ抜け出した。
カレンは仮面男のバックグラウンドを知っているようだ。
カレンは地面に倒れた状態からグルグルグルと回転蹴りを繰り出しながら起き上がる。
仮面男はぐったり気を失っている。
俺は完全防御の構えを取り、カレンの蹴り技をガンガン捌く。
蹴りに対して蹴りの威力を殺すように上下正面から拳で殴り肘鉄で打ち返す攻撃型の防御だ。
最初はダメージを感じなかったカレンだが、攻撃をするごとに殴り返されるので両脚にダメージが蓄積していく。
「ッゥ!」とうとう痛みに耐えられなくなり攻撃が止まった。
蹴りが出せなくなり手刀に切り替えたが足腰が踏ん張れない状態だと勢い、威力が半減してしまう。
スパパパと受け流しながらカレンの腕を掴み半回転させ、首に腕を回して絞め上げる。
「カッ………… うごぉ…………」
脳へ酸素がいかない、呼吸ができなくなり両手で俺の腕を掻きむしり、両手足をバタバタさせながら抵抗する。
一気に落としにいったため白目を剥いて口からよだれを垂らしながら脱力した。
カレンが完全に動かなくなったのを確認してから腕を解いた。
カレンと仮面男が闘っている中、全身の激痛によってキジマは意識を取り戻した。
後頭部が酷く痛む。
(戦況はどうなった!? 2人は勝ったか?)
ぼやけた視界の中にカレンがハルキに首を絞められバタバタもがいている姿が映り込んでいた。
見当たらない仮面男を視界の中から探す。カレンのすぐ近くで仮面を割られた状態で倒れていた。
キジマは倒れている二人を確認して動揺した。
人数、肉体強化というアドバンテージ、それらを含めて時間をかければ確実に勝てた、勝てるはずだった。
ガキ1人ボコって攫うなんてお釣りが来るくらい余裕な任務だったはずだ。
どこだ、どこで間違えた。
(女だ)
ティナが攫われたことを知ったハルキが豹変。
自分たちが狩られる側になっていた。
自分1人が逃げるなら簡単だ。ハルキはまだ俺の意識が戻っていることに気がついていない。
今のハルキの冷徹さを考えれば自白させるため仲間が酷い拷問を受けるだろう。
(間違いなくやる。クレバー、いや、クレイジーだ!)
カレンにかまっている間に逃げればいいだけだ。
自分の身代わりが取り残されるから。
【感情】が残されているキジマは仲間を思いやる心が残っている。
もし【感情】を消されていたら喜怒哀楽も仲間意識すら無く平気で他者を見捨てる判断をしていた。
仲間を置いて自分だけが逃げる。
笑わせるな、そんなこと出来るわけがねぇだろう!
くそっ!厄介な感情を残しやがって!
キジマは自分たちを中途半端な道具に作り上げたレグルスに対して悪態をついた。
一旦この場から撤退するにしても二人を抱えて逃げられる隙を作らなければハルキから逃げるのは難しい。今のあの彼なら絶対に逃げられない。
キジマが覚悟を決め攻め込んだ。
ハルキはカレンの首から手を離したところだった。
「勝機!」
キジマはナイフを両手から投げつけながら攻め込む。
ハルキは突進してくるキジマから飛んできたナイフの軌道を読み最小の動作で躱す。
キジマはハルキが左右に逃げられないようにした両腕を左右に広げる。
ハルキはキジマの構えに違和感を感じながらも正面を防御していないキジマ顔面に拳を叩き込む。直撃したがダメージを気にせずに突っ込んできたキジマに両肩をガッシリ掴まれ、勢いを殺すことなく背筋を反らしてハルキの顔面に頭突きを入れた。
ゴッ!!!!
身体を抑え込まれてしまったら頭突きは不可避。
俺は頭突きのダメージを最小限にするため同じく額でその頭突きを受けた。
キジマの頭突きを頭突きで返す。
俺の眼球の奥が一瞬真っ白になってチカチカする。
渾身の力を込めて撃ち込まれた頭突きは強烈だった。頭突きで受け返していなければ鼻や口をやられて骨折、歯が折れただろう。
軽い脳震盪になっている。ダメージはキジマも同じはずだ。
キジマが両肩から両手を放した。即、顔面をガードする。
ガッガッドッ ガガガッ!
フック、ストレート、ボディ、ストレートとキジマの猛攻。
ガードを外せない猛攻に距離を取りたくて後ろに下がるがキジマは離れずついてくる。
キジマから掴みやすい右拳が来たので関節技に持っていきながらキジマを跪かせた。
腕をへし折ろうと体重を乗せた瞬間、
パシュパシュパシュシュ!!!
俺は胸に強烈な衝撃を喰らって後ろに飛ばされた。
(俺は何をされた!?)
地面に背中から倒れながらキジマを見ると左手に銃が握られていた。
あの衝撃は至近距離から撃たれたのか。
キジマは闘いの中でハルキの服が防刃だったことを知り、銃を使っても簡単には死なないと判断した。
ハルキを一時的に行動不能にしたキジマは倒れているカレンと仮面男を担ぎ上げ
「この借りは必ず返す!!! 震えて待ってろ!!!」
と叫ぶと脱兎のごとく家の外に飛び出し、外壁の向こうから車のエンジンがかかる音と急発進するタイヤの音が遠ざかっていった。
俺はすぐに追いかけたくて上半身を起こそうとするが胸部の激痛に悲鳴をあげる。手で触って身体の状態確認をする。服に穴は開いていない。弾は貫通していない。
「防弾で助かったぁ…………」
呼吸は出来ず、この激痛なら肋骨が折れているかもしれない。
肋骨の激痛は脳に直接痛みを感じさせるほど激しさを増していき俺は意識を失った。
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