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第1章 全ての始まりの記録
abyss:24 ハルキ戦闘開始③
しおりを挟むカレンの自重で前後左右のどこかに倒れてしまったら俺がどんな大勢だろうが支えきれず首が折られる。
自分から倒れる選択はあるが、倒れた後に一気に首を絞められて気絶に持っていかれるだろう。
俺がカレンならそうするから倒れるわけにはいかない。
考えている暇はない、呼吸ができなくなる前にカレンを引き剥がさないと。
家の高い塀に突進しカレンを背中から叩きつけまくる。
上半身を少し後ろに逸らして、勢いをつけ塀に叩きつける。
今度は反転してカレンが塀に向かい合うようにし身体を後ろに反らせる。
ゴチン!
俺の両手を掴んでいるカレンは防御が取れないため顔面を壁に叩きつけられる。
ゴチン!ゴチン!ゴチン!
俺の窒息が先か、カレンが防御のため俺の手を離すのが先か。
ドゴォ!
俺の腹に激痛が走る。カレンの身体で見えないが誰かに殴られた。
腰を落とし上半身をお辞儀のように前に倒す。
ゴッ!!
「グェ!」
「ゲゴ!」
頭にカレンを落とされた仮面男と後頭部が仮面男に叩きつけられたカレンの悲鳴が聞こえる。
カレンの手と首を絞める足が緩んだ、一気にカレンを引き離し仮面男に投げつける。
仮面男に投げつけた後2人まとめて畳み掛けようとしたが、復活したキジマがカレンを受け止めにきたため俺はその場から動くのをやめた。
「ゲホゲホッ…! スゥーーーーハアアアアアッーーーー!」
今は呼吸を整えよう。
うーん。この3人相手に勝てるような決め手が見つからない。
カレンと仮面男は頭を振りながら自身のダメージを確認していた。
カレンはおでこと鼻から垂れている血を拭っていた。
お互い膠着状態だ。
♫~~~ ♫~~~~ ♫~~~~
俺のスマホが鳴った。
「んだよ、グダグダじゃねーか」
カレンが地面を足で蹴る。
「良いタイミングだよ…………」
仮面男がボソっと呟いた。
「誰からの電話かな~♪」
キジマは白い歯を見せながらウキウキしていた。
♫~~~ ♫~~~~ ♫~~~~
キジマたち3人は構えを解いて戦闘意思がないことを示してくる。
「どうぞ、遠慮なく出てくれ」
キジマが手をスッと出して俺に促した。
俺はキジマたちの奇襲を警戒して慎重にポケットからスマホを取り出す。
ティナから着信だ。
無事に家に帰れたという報告をしてくれたのなら嬉しい。
スマホを耳にあて
「悪い、いま取り込み中だから後で───」
「残念っ! 君の彼女じゃなくてごめんねぇ~!」
と知らない男のゲスい声だった。
一瞬で理解した。ティナが襲われた!
キジマたちを見ると深刻な顔をしていた。
え、お前らの余裕の笑顔どこにいった?
「まだ何もしていないけどこの後はどうなるかわからないんだなぁ~! 彼女に会いたかったらそこの3人倒して居場所を聞き出すしかねぇぜぇ~いつか来るのを待ってるよBYE!」
電話が切れた。
ティナが─── 攫われた。
彼女のスマホからかかってきたから間違いない。
巻き込んでしまった。帰り道は弟たちがいるから安全だろうと人任せにしてしまったことを反省した。反省したところで意味はないのだが。
ティナは襲われないという油断があった。
キジマたちの表情が曇ったことでティナが何をされるか不安と恐怖が俺の中で膨らんでいく。
(ああ…………まただ。またこれだ…………)
認めたくないこの事実を否定したい。あまりに向き合いたくない現実が目の前に来ると何も考えたくなくて思考を止めたくなる。
意識が遠のくかのように視界が暗闇に落ちていく。
いつだって世界は残酷だ。不条理で理不尽だ。日常生活を普通に送っていても、善人だろうが何一つ悪いことをしていなくてもある日突然、理不尽な出来事が起きる。
たまたまタイミングが悪く数秒の違いで巻き込まれて誰かが死んでしまうことは世界中のどこかでいつも起きている。
「不運だった」
本当にそうだろうか………… たった数秒の差でその場所に居合わせなければ事故や事件に巻き込まれなかっただろうなんて出来事はいくらでもある。
俺とティナはたまたま同じ時刻の電車に乗って、たまたま同じ車両に乗って、たまたまティナが目の前にいて、痴漢がナイフを出してきたので助けた。
電車に乗るまでのお互いの生活が数秒、数分の行動の違いから偶然が重なって俺たちは奇跡的に出会うことができた。
だけど誘拐されてしまった。
俺たち家族に関わったことで彼女は殺されるかもしれない事件に巻き込まれた。
かといって二人が出会った日、2人がそれぞれ違う電車、違う車両に乗っていればティナは俺と出会ってもいないし痴漢に遭わないままだったかもしれない。
仮に痴漢に刺されてティナが死んでしまったとして俺はそれを後でどこかで知って「ああ、やっぱり世の中って理不尽だよな。もしその場所にいたら助けられたかな?」と顔を知らない子の事件だけを「たられば」で考えて、すぐに忘れていつもの日常を送っていただろう。
自分に関わりがない「他人の死」の扱いなんてそんなもんだ。
ティナは他人でも知り合いでもない、友達以上の感情が俺の中にある。
目の前に突きつけられた事は事実であり、時間を戻してやり直すことはできない。
スーツたち3人は俺の絶望している表情を眺めながら
「にーちゃん、敵だけど同情するぜ」
「よりにもよってあいつに攫われちまったのか、かわいそうだけど女の子はもう普通の生活送れなくなるねー」
「僕はあいつ嫌いだ」
3人の反応からティナを攫った奴はまともじゃないのだろう。
レイプはもちろんサイコパス、猟奇的、異常者・・・こんな奴なんだろう。
そうか、そうなのか…………
── ありがとう、お前ら
そんな奴が相手なら俺もそちら側に行こうじゃないか。
両手が………… 全身が震える…………
善悪の理性というリミッターを外し、憎悪と悪意と殺意の感情が噴き上がる。
殺してしまっても構わない。
という思考に切り替えた。
俺に精神的プレッシャーが掛かって余裕ブッこいていたキジマたちは全員が、同時に、頭からつま先にかけてゾクリとする圧を感じとり笑顔が消えた。
俺の殺意を感じ取って臨戦態勢に入ろうとした感覚は流石だ。
だけど
遅い。
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