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第1章 全ての始まりの記録

abyss:21 五番目の部屋<ルームファイブ>

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ティナたちが戦闘を始めたのとほぼ同じ時刻にハルキは帰宅した。

駅から歩いて小高い丘の途中に彼の家はある。
広い敷地と高い塀に囲まれたコンクリート造の長方形と正方形が組み合わさった家だ。塀の上から見えるのは細長い小さい窓。壁面によじ登れるような突起物はなく”悪意ある者”の侵入を拒む防犯に強い外観になっている。

ハルキは玄関で暗証番号を入力し網膜認証をした。
ここまでしないと家に入れないセキュリティーを要していた。
最初はカッコよくて気に入ったが毎日の出入りになるとすごーく面倒でしかない。
「鍵を落とす心配をしなくていいんだ、この家は普通じゃない」
ハルキは誰にでもなくどこかを見つめて呟く。
この家に住んでいる経緯を簡単に説明をすると高校生になってからこの家に引っ越すことになった。
母さん曰く
「── 事故物件的な…かんじ?」
なぜか疑問形。
ずっと住んでいるが一度も心霊現象は起きていない。
分厚い玄関ドアを開けると広い玄関があり玄関棚に家族写真が並べてある。
リビングは広く整理整頓・掃除されており生活において必要最小限の家具・家電しか置いていない。カバンをソファーに放り投げるとハルキは二階の母の部屋に向かう。
ガチャリとドアを開け、小さな横長の窓がある10畳の部屋。右壁面に本棚。
キングサイズのベッドに小さな机と椅子、大きなドレッサーと納戸がある。
納戸を開けるとたくさんの服と鞄、靴があった。納戸の奥の壁に笑顔で写る家族3人の写真が額に入れられて飾ってある。
この額を外すと壁に埋め込まれた小さな金庫がある。長い暗証番号を入力すると金庫はピーという音を立ててカチッと開いた。
金庫の中には一枚のカードがおいてある。

深呼吸をしてからカードを手に取る。
また金庫を閉めて額を元の位置に戻す。
俺が4歳くらいだった時の家族写真。父のことは何も覚えていないが父も母も俺もすごい笑顔で幸せいっぱいの顔をしている。
母さんはこの時の姿とほとんど変わっていない。覚えていない父さんの顔を見る。
第三者な視点でしか見れないのだがカッコいい。
海外で通用しそうな俳優並みに男前なんだが。
そうか……… 俺も将来こんな感じになるのか。

この家はあちこちに当時の3人の家族写真が飾ってある。俺は気にしていないから視界にはいらなくなってしまったが母さんは忘れないようにいつも写真を見ているのか…………。
ティナを好きになって実感できたが、愛する人が隣にいないのはつらいな。

気持ちをグッと引き締め俺は母さんの部屋を出て向かったのは地下室。
地下室は自由に出入りできる。と言ってもそこはちょっとした道場になっていて、時間がある時は母さんにみっちり武術を叩き込まれた。
一方的に俺がやられまくるだけの時間だった。
道場を通り過ぎ、奥の壁の中に五番目の部屋ルームファイブの隠し部屋がある。
鍵を差し込み解除キーを入力。「ハルキ」と音声認証をすると壁面の一部が扉になっており奥に少し押し込まれる形で横に開いた。分厚い鋼鉄製の壁面とドアになっていた。この厚さがあれば十分なシェルターになるだろう。

照明がパチっと自動でつく。
五番目の部屋ルームファイブの室内に何があるのかというと一言で言うなら我が家の武器庫。
「なにこれ!?」
ただ、俺が高校生の時に覗いた時と今は置いてある武器の種類が大きく違った。
当時と変わらず部屋の真ん中にアイランドテーブル。正面・左右の棚しかなかったのだが、今俺の目の前にある光景は

銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃、銃
ナイフ・ナイフ・ナイフ・ナイフ・ダガーナイフ・ククリ・斧・マチェット
日本刀・太刀・短刀・槍
スーツ一式・戦闘服

パッと見で目に飛び込んできたのは武器の見本市だった。
ハンドガン、ショットガン、マシンガン、アサルトライフル、サブマシンガン、スナイパー…………
母さんに海外で銃の射撃練習に何度も連れいていかれていたから銃の種類、扱いは理解している。
まさかモデルガンだよな…………と試しに何丁か手にとって素材と重さを確認する。

─── うん、全部… 本物だ…………。

ここにある物全部使っていいって言ってたけど、どこかと戦争でもやるのかよ。
ここまで揃えるのにどれだけ前から準備していたんだ。

正直、母さんが貿易の仕事と言って世界中を飛び回っていると聞いているが、幼少から鍛えられているし、海外の射撃練習に連れて行かれたりしているからこそ、貿易じゃないとんでもない仕事をしているということは薄々わかっていた。
敢えて知らないふりをしていた。

正体不明の敵に襲われている状況、我が家に本物の銃が大量にある状況証拠が揃ってしまった以上、母さんの正体を知りませんでした、知りたくありません。という思考になるのはいささか無責任だ。
母さんがミリタリーオタクだった、という選択肢は俺の中からなくなった。
軍人か軍関係者、諜報機関スパイの可能性が強くなった。
貿易なら死の商人武器商人は…………ないな。
可能性が高いのはやっぱり戦闘力で考えるなら特殊部隊か諜報機関スパイ
さすがに天職すぎて笑いがこみ上げてきた。
何者なのか直接母さんにあった時に聞いてみることにした。
母さんの性格上、この部屋を見せたんだから隠すことはしないだろう。

実際いま襲ってきている連中は、一戦交えた母さんの判断でこれらの武器がないと勝てないと判断してのことだろう。

スーツと戦闘服はそれぞれ上下セット一式で揃えてある。
タグを読むと防刃・防弾仕様と書いてある。ここはやっぱりスーツかな、と自分の肩に合わせて鏡で見てみた。
(なんか違う、場違いだ)
スーツを戻して戦闘服に着替える。
黒いズボン、インナーシャツ、ジャケット、ベルト、ブーツと必要な服を着込んでいく。
小型ナイフをブーツの横と足首、左腕にしまう。湾曲した鉤爪の形をしたカランビットナイフを何本か振ってみて一番手に馴染んだものを3本懐に仕舞い込む。このナイフの戦闘スタイルは母さんが教えてくれた武術と相性がとてもいい。
母さん独自の古武術に実戦戦闘術を組み合わせた打撃・投げ・締め・関節技に対する武器として最大限の威力を発揮してくれる。

銃は─── 見渡してみて悩んだ末一丁だけハンドガンを手にとった。
「STI2011 MARAUDER」か、こいつは使いやすいんだよな。マガジンと弾を確認。
銃は出来るなら使わないで済むよう背中のホルスターにしまった。
身体があまり重くならない程度で他に使える武器はないか?

俺の視界に赤い点滅が入り込む。点滅している場所にモニターが置いてあった。
家の外周、中庭、室内の合計10箇所が映っている。
いままでこの家に監視カメラがあったことすら知らなかった。
隠すのが上手すぎる。
裏手の高い塀の外を映しているモニターに人影が映り込んでいた。
金色スーツの男、金髪メガネ女子高生、仮面の男。
全部で─── 3人。

この不自然な組み合わせは道に迷い込んだわけではなさそうだ。
うちに襲撃者がやってきた。1階は電気をつけっぱなしにしているから家にいることはバレている。
3人は手際良く動き出した。
女子高生が塀に背中をくっつけて両手で足場を作り仮面男の跳躍の加速台になる。仮面男はヒョイと塀の上に登り待機。
金色スーツも女子高生を踏み台に塀の上に登る。
女子高生は両手を上げ、塀の上の2人がそれを掴み女子高生を真上に放り上げる。
女子高生は軽々と塀の上を飛び越えそのまま敷地内に着地。
塀の上の2人も着地し3人は近場で入れそうな窓を探していた。

しかし残念。この家で玄関以外から入れる場所は限られている。侵入者を想定した要塞みたいな家なので大きな窓となると普通にダイニングしかない。
むかし母さんが
「ダイニングの窓は防弾ガラス」
だと言ってた。
冗談だと話半分で聞いていたが五番目の部屋ルームファイブを見てからだと信じるしかない。
スーツ男がガラスを殴りつけた。ゴイン!と鈍い音がしただけでヒビすら入らなかった。
前蹴り、後ろ回し蹴りでも窓はヒビすら入らなかった。
後ろの女子高生と仮面がクスクスと笑っている。スーツ男が懐から黒い物を取り出す。
閃光が3回、モニターから確認できた。サイレンサー付き銃だ。
しかしガラスはヒビが入った程度でスーツ男は怒った挙動をしていた。
後ろのどちらかが怒りの感情に囚われているスーツ男に助言をしたのかスーツ男は冷静になってしまった。
3人は玄関のある正面に移動を始めた。

敵が銃を持っていることが確認できただけでモニターは大きな役目を担ってくれた。
相手が銃を持っているなら俺が命を守るために持ってもいいよね。
もう一丁「M17」を手にとった。これはアメリカ軍が使用している正規銃。


五番目の部屋ルームファイブを閉めてこちらも迎撃に向かう。
分厚い玄関のセキュリティーは高いから銃で物理的に壊して入ってくることは難しい。
万が一、敵が家の中に入ってきたら室内が壊されてしまうのは避けたい。
地下から1階の廊下に出たところで、カチャンと玄関が開けられた。
(何をした!?)
バカな!?あのセキュリティーをどうやって?! 
無理やり壊した音は一切しなかった。

作戦変更。
俺から一気に攻める。
廊下を全力で駆け抜け玄関のドアを蹴り飛ばした。
敵からは引き戸なのでいきなり玄関ドアがぶつかってくる。
案の定、思い切り蹴った時にドカンと重い質量を感じながら人が飛ばされるのが見えた。
「ほげぇ!」
「グォ!」
と二人の悲鳴が上がる。

金色スーツの男が後ろに吹き飛ばされスーツの男の後ろにいた女子高生は巻き込まれた。
金色スーツはド派手に転がった後、体勢を整え立ち上がり、女子高生は吹き飛ばされながらもバランスを崩さずバックステップで凌いだ。

さぁ、戦闘開始だ。
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