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第1章 全ての始まりの記録
abyss:17 告白
しおりを挟む「──キ──ハ───キ ………ハルキ!」
ティナにほっぺたをぺちんペちん。と触られて我に返った。
「ハルキ、すごく悪そうな顔してたよ。
もしかしてこのあと私にエッチなことをする想像していたんじゃないでしょうね!」とティナは両腕を胸の前で交差して茶化してきた。
なんだろうこの無邪気な小動物は、嗜虐性がくすぐられる。
ティナの肩をぐいっと引き寄せ顔を近くに寄せる。
「── だったらどうする?」
思わぬ俺の返しにティナは顔を赤くして驚いた表情をした。
口元があわわわっ!となっている。
「べ、別に… 好きに、すれば………そんなことしないのは知ってるけど…………」
「そうかな………? 俺そんな無害な男に見える?」
「し、知らない。ほら、乗り換え駅に着いたから降りましょ!」
俺の手を掴んで電車から降りて前を歩いていく。乗り換えのため前後左右に行き来する人の流れをかき分けながら二人はホームから別の電車に乗り換えるため別の改札口まで歩いていく。
俺の手を引きながら俯いて歩く小さな背中を見て俺は彼女がとても愛しくなってしまった。
高揚感と同時に胸が締め付けられるようなキュッとした苦しさになる。
俺はティナと会ってから何度か意識したこの感情の名前を知っている。
恋だ。
間違いない。
始めて人を好きになった。
好きになると気が付いてから自覚するまであっという間だった。
自覚したら余計に気持ちが強くなった。
どんどん俺の中に沸き上がる好きという感情に対して朧げな違和感が起きた。
ん、待て、待て…………なんだこの記憶? 前に一度誰かを同じように好きになっている、気がする?
どこで?
誰を好きになった?
俺が好きになった女の子と大学生になる前に会ったことあったか?
中学生は、違う。高校生は…………好きになった子はいなかった。
しかし誰かを好きになった感情だけがある。
思い出せない…………引っかかるが心当たりがない。
昔観た映画かドラマのシーンが自分の擬似体験に置き換わっただけの思い違いということにした。
ふと沸いた違和感で脱線したので自分の心の状態を元に戻す。
このまま電車に乗せてしまったらティナとお別れだ。
ティナと離れたくない。帰したくない、一緒にいたい、もっと彼女を知りたい。
フラれたらどうする?
面と向かって伝えて傷付きたくないならダメージの少ないスマホのメッセージで気持ちを伝える手段がある。
俺らしくない。まっすぐ直球勝負あるのみ、当たって砕けろだ!
よし!このあと告白する覚悟は決まった。
告白ってどうやるんだ、わからないけど気持ちを伝えよう!
伝えないと逆にモヤモヤして落ち着かない!
改札口を出た後、自由通路の人の流れの邪魔にならない位置に移動する。
俺の手を握って前を歩くティナの手を少し強めに握り立ち止まらせる。ティナはそれ前に進めなくなり立ち止まる。
ティナは恥ずかしそうに上目遣いでゆっくりこっちを振り向いた。
顔は赤らみ
「うううううっ」
と小さく呻いていた。
この後に何が起きるのか予測できたのだろう。
周りは行き交う人々の流れでこの二人だけが時間が止まったようにその場にとどまっている。
ティナの身体を引き寄せる。ティナは俺が直視できなくて顔を背けている。優しく頬に手をあて少し撫でてから俺に顔を向けさせる。
しまった!
告白だけのつもりが勢いでキスしようとしてる!
100%絶対にキスしちゃうじゃないか!
しかし、ここまできて引き下がるわけにもいかない。
い、勢いでキス、しちゃえ!!!
胸のドキドキがキスをしないと収まりそうにない。
「ひ、人が… 見てる……よ」
もう周りの目線なんてどうでもいい、それどころじゃない。
ティナの目を見つめながらゆっくり顔を近づけていく。
ティナも覚悟したようで少し笑ってから目を瞑った。
二人の唇が重なりかける瞬間───
「ちょっと待てやぁ、オラァ! ◎$♪×△¥●&?#$!」
と真横から急に沸いて出てきた金髪の爽やかイケメン割って入ってきた。
興奮しすぎていて後半何を言っているか聞き取れなかった。見たかんじ俺と年齢はそんなに変わらないが制服を着ているから高校生か。
金髪高校生の後ろで左右に2人ずつ並んだ4人の高校生が、ポケットに手を入れながらニヤニヤ眺めている。
この4人は喧嘩を売ってきている雰囲気はない。
「─── !!!!」
ティナが手を口に当てて声にならない悲鳴をあげ動揺していた。
金髪高校生がブチギレてて
「おうテメェ、公衆の面前で何しようとしてんのじゃ!」
と今にも飛びかかってきそうな形相だ。
「累! なんであなたがここにいるの!」
ティナが金髪高校生を累と呼んだ。彼の名前は累か。
これだけ怒っているのだがティナとどういう関係だろう、実はティナの彼氏か元恋人というオチもありえるかもしれない。
累はキレながら
「もうすぐ高校生が出歩いちゃいけない時間だから帰りの電車に乗るところだよ!」
(メッッチャ良い子だった)
「おうコラ、テメェ・・・・!」
と累が俺の胸ぐらを掴みに右手を伸ばしてきた。
状況が全然飲み込めないが、今日はただでさえ襲撃された時の殺気立っていてティナに恋した感情で気持ちが昂っている。
良い雰囲気でキスしそうだったのに邪魔され、いきなり喧嘩を売られたらムカつかないわけがない。
お前が手を出してくるなら遠慮はしない。
睨み返しながら累の右手を無造作に左手でパシッと掴む。一瞬で手首、肘、肩の関節を極められた累はその場にガクンッと跪いた。
累は何をされたのか理解できない顔をしてる。
なにかすべてを理解したのか俺を恐怖の目で見上げてきた。
俺はちょっとムカついていたから追い討ちに親指と人差し指で喉笛をキュッと掴んでやった。
累は涙目で震えながら俺の目を逸らせずにいた。
(あ、ごめん。これはちょっとやりすぎたかも)
ティナが間に割って入り
「すとぉっーぷ!累、この人がこの前私を助けてくれたハルキ!
累は私の弟なの!」
ティナの弟でしたというオチだった。
たしかティナと2回目に遊んだ日に弟が俺に会いたがっているという話をしていたのを思い出した。
で、想像以上にヤンチャだった弟が目の前にいる。
俺は冷静さを取り戻し、
「弟の名前、知らなかったからごめんね」
と頭を切り替えてこの場は治めようと決め掴んでいる累の腕を離した。
あとは累の態度次第だ。
累はビシッと直立して
「この前はうちの姉ちゃんの命を救っていただきありがとうございました!
それと俺の勘違いで不愉快な思いをさせてしまいさーせんしたぁ!!!」
とおじきをして謝罪してきた。
すぐに自分の非を認めて謝れるって簡単にできることじゃない。
本当に素直な良い子じゃないか。
「勘違いは誰にでもあることだから俺は気にしていない。頭をあげてくれ」
その言葉を聞いて累はサッと頭を上げる。
累はキラキラした目で俺を見てきた。
「えーと、ハルキだ。改めてよろしく」
と笑って右手を出すと累は両手で握って
「る、累です!!!兄貴よろしっくっす!!!」
累は笑顔で応えてくれた。さっきのキレ顔はどこに行ったのかティナの家族だけあってめっちゃ笑顔がかわいいな。
女子からしたらギャップ萌えするぞ。
とにかく大事にならずこの場が収まって一安心。
ティナは累を両手でぽかぽか叩きながら
「もー!良いところだったのになんで邪魔するの── あっ!」
と本音を口走ってしまったことに気がつき慌てた。
(この兄弟かわいすぎかよ)
ヤンキー立ちポーズで見ていた他の高校生たちがそれぞれ累に野次を飛ばしはじめた。
「累が 大人しく見守ろうって言い出したのに結局我慢できずに邪魔しちゃったじゃん」
「どう見てもあのパイセンのほうがスペック、俺らの中の誰より高いって」
「悔しいけど俺の負けだ。累のねーちゃんにお似合いじゃんよ」
「わかる、ハルキ兄貴しか勝たんですわ~」
「てか今日はねーちゃん俺たちのこといつもゴミを見るような目なのに普通に見てくれるよな」
「ばか、いつもの蔑む目が良いんじゃねーか」
一部やばい嗜好のやつ混ざっているがこの野次のおかげで場の雰囲気がもっと和らいだ。
友達っていいよな~。今日は気を張っていたからピリピリしてたけど自然と俺も笑顔になっていた。
とはいえキスが出来なくて、それを身内にガッツリ見られた。
この空気耐え難い。
このあとどう誤魔化そっかな。
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