カーネイジ・レコード

あばらい蘭世

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第1章 全ての始まりの記録

abyss:16 考察タイム

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俺とティナは無言でただただ電車に揺られながら座っていた。
一日が終わってみれば今日は濃くて長かった。

さすがに電車内で襲われたりはしないだろう。
油断はしていない、周りにいる人間を警戒しつつ、同時に人の多さに安心感もある。
ティナは座席に座った瞬間に気が抜けたのか俺の肩にもたれかかって気怠けだるそうにぼーっとしている。
寄りかかっているティナの頭の重さと密接しているティナの身体から伝わる体温で俺も眠くなりそうだ。
眠くならないように今日あったことを自分の中で整理してみた。

全て推測と憶測なのでどこまで正しい情報か真偽は不明という前提で考える。
チンピラがピンポイントで俺たちに絡んできたのは初対面にも関わらず最初から顔がわかっていないと出来ないことだ。
チンピラのスマホに何処どこで撮影されたのか確認はできなかったが俺たちの写真が送られていたことは信憑性が高い。
依頼者不明。自分か母さんのどちらかが狙われている。
しかし俺には狙われる心当たりが全くない。これまで生きてきた中で誰かに狙われることは一度もなかった。なのにこの新世界都市にきてから一ヶ月経たないで状況が変わった。

ティナを痴漢から助け知り合ったあたりが何かの分岐点だろうか。
それとももっと前に何か起きていたが俺が気がついていなかっただけなのか

痴漢が分岐点になったとしたならばティナが関係していると考えてみる…………。
たまたま同じ車両に偶然居合わせて助けたに過ぎず、乗った電車が違えば俺が助けられなかった可能性だってあったわけだ。
もう少し時間を戻して4月にここの大学に入学したときからで考えてみよう。知らない間に逆恨みを買っていたとか?
自分で遠出できる年齢になった中学・高校の時は母さんから「新世界都市には絶対に行くな」とキツく言われていた。親のいう事は絶対だった素直な子だったから言いつけは守って行かなかった。友達に誘われても行かなかった。
中学生で調べたときにとても嫌な気分になったので無意識で行かない場所にしていた。

しかし大学進学はどういう風の吹き回しか今までダメだと言っていた母さんの勧めでここの大学に入学することになった。
だとするならば、意図的に母さんが仕向けた? 仕掛けていた?

仮に母さんが仕向けた場合、今日のことはまだ始まりなのではないか。
では、なぜ今このタイミングで仕向けるようにしたのか。
・母さんが実は黒幕説。
・誰かに脅されてそのように仕向けた説。
・母さんと実は血が繋がっていなくて赤の他人だった説、血縁云々は繋がっていなかったとしても俺からしたらどうでもいい。
・思いつかない。

母さん黒幕説。これな、あり得なくないんだけど動機がわからない。
単に強くなった俺の実力を測るため、という理由なら20歳はたちを過ぎてからの方が身体が出来上がっていまより強くなっている。
18歳や20歳という中途半端な年齢より14歳にやったほうが世界観的に面白くなる。

母さんが脅されていた説。母さんに人質になる価値の人がいない。
俺もじいちゃんもばあちゃんも元気に生活している。
あ、父さんがいたか。そりゃ生きていればだけど、本当に生きているのか?
そもそも小さい頃から立ち入らせなかった新世界都市に急に行かせるほど長い年月脅されていたとするならナンセンス。
それだけの歳月をかける必要性、目的と意味がわからない。
俺が18歳になるのを待つのではなく14歳の少年時代でやったほうが面白い。

ん? 俺のこの考え方厨二病が入っていないか?
厨二病特有の自分は選ばれた特別な人間で何かしらの使命を持っている的な思考じゃないか。
だめだだめだ、ファンタジーに憧れ過ぎだ。
一から考え直そう。

ふと、母さんが小さい頃から俺にいつも言っていた言葉を思い出した。
小さい頃は膝をついて俺を抱きしめ、大きくなってからも時々抱きしめながら伝えられた言葉。

「お父さんを見つけて、もう一度会わせて」

母さんが仕掛けた動機はこれだろう。行方不明になった父さんの手がかりがこの都市にあるに違いない。母さんは父さんを今でも愛しているし死んだと認めていない。
家には父さんの写真、3人で写っている写真が飾られており母さんが家にいるときはいつも父さんの写真を見ていた。その表情や背中がいつも寂しそうだったし何もしてあげられない俺の無力さを痛感していた。

父さんがなぜ行方不明になったのか詳細は教えてくれないからわからない。現に何者かに狙われているということはその答えが見つかろうとしているのか?
母さんが父さんの手がかりを掴みかけていて殺気立つのに十分な理由になる。
父さんの手がかりに俺がキーマンになっている、もしくは手がかりをつかむために、というの線ならあり得る。

とはいえ全てここまでの推論は憶測にすぎない。
確かなことは母さんは父さんを探している。俺を新世界都市に行かせたところ父さんが見つかりそうな手がかりが出てきた。
父さんが見つかるなら俺は自分を危険に晒してでも母さんに父さんを会わせ幸せになってほしい。
尊敬する大好きな母さんがそこまでベタ惚れした男なのだ、俺だっていつか会いたい。

俺に父さんの記憶はないけど母さんを通して父さんにも育てていただいているのが伝わっている。父さんの写真を見て俺が父さんの顔に似てきているのもわかっている。それが逆に母さんに父さんを余計思い出させてしまっているような気がしてならない。

頭の中にぶわわわわと浮かんだことを並べてみてた。

母さんから敵を殺傷するためだけの武術、サバイバル術、射撃訓練、社会で役に立つ知識をたくさん教え込まれてきた。こういう日がいつ来てもいいと想定してのことならば、今日の今までのことの辻褄が合う。
合うか? 俺がキーマンということが前提じゃないと、前提だから俺を小さい頃から鍛えたのなら? かなり強引なこじつけだ。
うーむ、真実は母さんの中か。

母さんはただただ父さんとまた一緒に暮らしたい。父さんがいる家庭を取り戻したい。
そのために命を賭けてるだけなのだろう。
だとしたら、俺が命を賭けてまでそれに首を突っ込む覚悟があるか、ないかで言うなら…………

ある。

ある。ある以外の選択肢がない。
家族3人みんなが幸せを感じて暮らしたい。理由はそれで十分じゃないか。
怖いとか怖くないとか、命が惜しいとか惜しくないとか、逃げるとか逃げないとかそんな気持ちじゃない。心の奥でモヤッとしたものが生まれている。
何もせず逃げるのは簡単、誰にだって出来て誰もが持ち合わせている選択肢だ。
逃げたらどうなる?
解決するか?

次に同じことが起きても逃げるしかしなくなる。
結論を先延ばしにしただけでこの先何年、何十年、俺が死ぬまでずっとあのときやっていたら?という後悔だけしか残らない。
俺は母さんにそういう思考をする人間に育てられたか?

否。

起きたことに対してどうすれば解決できるのか、最適解を導き出し行動するように育てられてきた。

父さんは13年間どこかで身動きが取れない状態で生きている。母さんはずっとそれを探している。
これは俺たち家族の闘いだ。
父さんをさっさと見つけ出してハッピーエンドの物語にしようじゃないか。

俺は考えすぎて自分の世界に入っていた。

ティナの呼ぶ声がして、我に返る。
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