17 / 61
第1章 全ての始まりの記録
abyss:15 敵側の諸事情②
しおりを挟むイグニスの緊張感のない掛け声とともにパッパッパーとアップテンポな曲とフラッシュライトが点滅し、プシューと煙幕が足元から噴出する。
奥にあるドアから8人の人間が入ってきた。
阿久津の周囲にも大量の消臭スモーク吹きかけられ阿久津の姿が煙の中に消える。
先頭を歩いて登場したのは、
派手な金色スーツとサングラスに身を包んだ褐色金髪ツーブロックイケメン長身の男。
続いて、紫髪にフードをかぶったストリートファッションに身を包んだ切れ目の若者。笑い方、見た目からゲス野郎臭がする。
三つ編み金髪メガネ、ブレザーにミニスカートの女子高生。あざとかわいい。
筋肉隆々の巨体にタンクトップ姿のいかにもプロレスラーな男。ゴッツイ!
細目の銀髪優男のバーテンダー。裏がありそうな笑顔を浮かべている。
腰に日本刀を拵えたセミロングヘア―にタイトスカートとストッキングOL。ストッキングは黒の40デニール!
ニコちゃんマークの笑顔の仮面を被りジャージ男。背中に西洋剣をさしている。癖が強そう。
ニョロロと上がった黒髪に青の柄シャツ、ネクタイの長身の細マッチョ男。まともそう、爽やか。
1人ずつ前と間隔を開けて登場。ランウェイのあとポージングを決めて並んでいく。
何を見せられているのか阿久津は理解できないまま眺めるしかなかった。
ポーズを決めたままの姿勢で静止し全員の登場が終わる。
「えーと、たったこれだけ? 半年前は何百人いたのにだいぶ減ってるじゃないか」
これを見せられて何もコメントをしない阿久津のスルースキルはなかなかだとレグルスは感じた。
「戦闘員はあと一人いましたが、先に夜春に刺客として奇襲させたところ返り討ちに遭い重傷を負ったためベンチ送りにしました」
「それ以外はどうなった?」
「その他多数の有象無象は訓練の結果が数値にとどかなかったため闘えるモノは本拠地の防衛戦闘員として配備、重症者や自我崩壊者は実験動物に転用しました」
「あっーーーそう」
阿久津はレグルスの話を静かに聞いてもう興味がなくなった返事をした。
ポージングをやめたスーツサングラスの男が
「あいつは我々の中で一番最弱。このチームに弱い奴はいらないゼェ! ガーハッハッハ!」
とドヤ顔で言った。
阿久津は反応せずスルーした。
スーツサングラスは会話を拾ってもらえなかったため恥ずかしそうに顔を逸らしている。後ろでそれを見ていた戦闘員たちは苦笑いや馬鹿にしたような顔をした。
「諸君、初めまして! この組織AXの創始者だ。これより諸君には大いに暴れてもらう!」
「創始者、その一言を待っていたぜ! 何年も穴蔵生活でストレス爆発しかけてたんだよ! ようやく俺たちの力を発揮できるなぁ!」
スーツサングラスは懲りずに合いの手を入れる。
「これからこの無意味な世界を我々の理想郷にするため開戦する!
だが! ひとつだけ私の個人的な問題を解消しなければ先に進むことができない!
私の問題を解消しない限り世界を手中に収めても納得できない!
君たちは我々との取引をした駒として動いてもらう! 私の命令を完遂したまえ!」
阿久津は胸の前で掌をグーパッと開くと空間にモニターが映し出された。
「詳細な情報は各自の頭にデータを送るので概要だけ説明しておこう。
まず我々の計画を遂行する前に私が復讐しなければならない因縁の少年と母親。
2人を潰すだけなら造作もない事だが、復讐を迅速に遂行してもエンターテイメント性がない。
この2人に面白い余興の準備を整えた。
死なない程度に行動不能て連れてこい!」
モニターにはハルキと夜春の画像が映し出される。
それともう一人、赤髪の少女。
「こっちの女はとばっちりだ。少年をおびき寄せる餌程度の存在だ。
女は餌だから連れてきたら殺す以外は好きにしてもらってかまわん」
二人の画像の後ろにはティナが写っていた。
「やり方は任せる。3日以内に私の前に連れてこい。
諸君には十分な力を与えた。
私を満足させる成果を期待している………… もし出来なかったらどうなるか分かっているはずだ。
何か質問は?」
阿久津の問いかけに誰も返答しなかった。
戦闘員たちは聞かされた作戦命令に呆気に取られて何を聞けばいいのかわからない状態になっていた。
質問が出なかったのを確認してから
「無いようだな、では行くのだ!」
と阿久津は笑顔の表情を浮かべた。
戦闘員たちは阿久津に一礼したあと踵を返し去っていく。
戦闘員たちは去りながらヒソヒソと話をし始めた。
「何年も鍛えられて最初の任務が創始者の個人的な私怨って何だそれ」
「科学技術の持ち腐れじゃん、もったいねーな」
「もっとスケールのでかい作戦だと思っていたんだけど期待外れ」
「それよりちょっとなんか臭くなかった?」
「創始者、どんだけ風呂に入ってなんだ…………やべーくらいクセェ」
「昔の地ベタを這っていた頃の我々と同じ臭いがしました。逆に共感が持てますね」
「ボソボソ…………」
など話していたが阿久津の耳には入っていなかった。
阿久津は彼らが部屋から出ていくのを見送ってからイグニスに話しかけた。
「戦闘員たちの服装ってどういう基準で作ったんだ?」
「服は統一したほうが格好良さ、組織力、汚れや破損の代替えが容易なのでコストが安く済みます。
しかし、彼らに感情を残したところ先ほど申し上げた処分した一名以外はこちらが用意した戦闘服を拒否しました。なので各自の脳内リンクから服のイメージをモデリングして縫製しました。生地は拠点の外装と同じカーボン素材をベースにしてあるので強度は確かですし、カッコいい戦闘服を作れるか作れないかは組織力の強さを表すバロメーターです」
「うん、さっきの戦闘服を見たらわかるんだけど、我々の技術が宝の持ち腐れしてるなとちょっと思ったのだ。
昔から戦隊モノの衣装って誰がデザインして作っているんだろうって疑問があったが、組織を作ってみればうちにはうちの事情があるのだな。
裏事情を説明されるとせっかくの雰囲気が締まらないから聞かなければ良かった」
「聞かれたから答えたまでです。私は悪くありません!」
そもそも阿久津とイグニスの会話が裏話の暴露になっていて締まりがない。
悪の組織だろうと一般企業だろうと組織における内情や苦労はそれほど変わらず、現実はこんなものなのかもしれない。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる