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48話 移動開始

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イマイチ納得していないバーニィをそのままに、僕らは席を立った。
時間的にはもう昼前だけれど、グリフォン便については騎乗を始めようとした時間がスタート時刻であって、特に何時に飛ぶ、というのは無いはずなので問題ないはず。

なにか準備は…と思ったものの、アイテムボックスには何でもかんでも突っ込まれているということもあるし、食事の類も料理スキルや神の血肉スキルで問題ないし、と考えていたところで野営のためのキャンプ道具が無いことに僕らは気がついた。

「最低でも、地面に寝っ転がる為にシートと言うか、マットが欲しいわよね。ってそれは釣りの時に使ってたのでいいのかしら。」
「テントは接近されたのに気付かなかったりしそうで危なさそうだよねっ?」
「着替え用にあってもいいさね。」
「食器類はあるのよね。」
「あ、はい。」

食器もテーブルも椅子もある。屋外で使うつもりで作ってはいないけど、スキルで作ったものだからもし駄目になっても作り直せばいいだけだからね。

裁縫スキルで作れるものの中にテントやマットが無いのかと思ったのだけれど、納品用のローブを作ってその後特に確認をしていなかった作成可能なリストの中にゴードンズ・ポウで得た新しい布を使って作れる一覧が追加されているのに気がついた。そういえば、素材を取っては来たものの一向に作ろうとしていない空飛ぶ絨毯とかもあるんだよなぁ、と思ったのだけれど。それを作ってライセンス取れてしまえばその上に寝れるのでは、と思ったのだ。

「空飛ぶ絨毯も、レベルが足りてないんだよね。」
「忘れてたっ。確かにまだ四十なってないから、作っても乗れないねっ?」
「ケナログに行っても四十になるかは微妙なところね。」
「いえすっ。ポウで一個しか上がらなかったからねっ。」

僕とラザロは一応後少しで四十になるのだけれど、バーニィに合わせないとね。

「取り敢えず、普通の布のレシピの中にタープがあるから作っとくね。テントはまだリストにはない感じかなぁ。」
「タープがあれば色々と応用が効くからいいんじゃないかしら。使いようよね。」
「そうだねっ。ポールとペグもちゃんとあるのっ?」
「鍛冶の方でそれらしきものがあるから、そっちで作れるかな。」
「じゃあそれで作ってから行こうっ。」
「そうだね、スキルで作れるやつは数分で出来るから簡単だし。」

その後もあれもいるこれもいる、と色々なものを作り、結局グリフォン便で出発できたのはそれから一時間も経ってからだった。



風を切り、猛烈なスピードでグリフォンは飛んでいく。
保護する魔法も翔けてもらっているから、騎乗している者は特に何も感じない。
まるで新幹線か何かに乗っているときのように景色が流れていくから、近くよりも遠くを見てしまうんだよね。

『残り0:05:22』

視界の片隅に、到着予測時刻が出てるのに気付いた。
あれ、五分で着いちゃうんだろうか。しっかり最後の二桁が秒で減ってるから間違いなさそうだけど…。
ノンプレイヤーキャラクターの移動とプレイヤーキャラクターの移動では経過時間が異なる感じなのかな。
気が付けば猛スピードで幾つかの街の上空を通り越し、目的地であるミーレン・フォール近くの開拓村の前に到着した。

「早くない?」
「早いわね。」
「早いねっ。」

まぁ早い分にはいいわよ、とラザロが言っている間に僕はスワリナとメーカを召喚する。
グリフォン便で一緒に来ようとすると余分にお金がかかるからね。
キョロキョロしている二人と一緒に、僕も周囲を見渡す。

「……ジャングルだね。熱帯雨林っぽい感じだけど。」
「ジャングルだけどっ、道は広くて普通だねっ?」
「そうね。道幅も広いし、一応道なりに行く分には変わらずモンスターが出にくいのかしらね。」
「道の真ん中でキャンプするのが安全そうだけど、それもなんか違うよね。」
「でもいいところ無かったらそうなるよねっ?」
「そうさね。」

辿り着いてさえしまえば、入り口付近はセーフエリアになってることが多いからそこでいいんだけどね。

「イレハンメル遺跡までの道って覚えてるっ?」
「だいぶ通ったから覚えてるわよ。レアドロップに至るまで全部ゲットしたし。」
「まぁ僕もかなり通ったけどね。」

そういうバーニィも覚えててもいいと思うんだけどな。一緒にかなりの回数行ったからね。
とはいえ、この開拓村からではなくて、ポータル魔法での到着地点から走っていくことが多かったわけだけれど。
その辺りの差異で迷わなければいいんだけど、と思った。



イレハンメル遺跡は、風化しジャングルに沈んだ虎頭人達の古代都市、と言われている。
上空からは木々に覆われてよく見えないが、地上を歩けば整えられた道や石造りの街が現れる。
無論、建物の殆どは天井が落ち、木製の部分はすべて朽ちている。石畳を割るように木々は生え、苔生す壁には生き物たちが這っている。
虎頭人は既に滅んだ種族で、VRになる前のTAでは伝承のストーリーの中にのみ存在していた。

その遺跡の中央部には神殿がある。

ピラミッド型した神殿の地下には真紅の光を放つ人の頭くらいの大きさの転移用オーブが鎮座しており、そのオーブに触れることでケナログという更に古い年代の都市に移動することが出来る。
イレハンメル遺跡と同じくこの都市も虎頭人のものだったのだけれど、より上位の種族だったと言われている。
ダンジョンの名前であるケナログは種族名で、内部にアンデッド化して今も存在している虎頭人はすべて名前にケナログを持っている。

街区には既に固有名を失ったケナログ族のアンデッドたちが沢山住んでおり、名前を持っている者は数えるほどしかいない。
要職についていた者だったり、王族に連なる者であったり。
別ダンジョンの扱いになっている王族たちの墳墓は墓守達以外は殆どモンスターも少ないエリアだけれど、一体一体の力がとても強い。
葬られている王族たちそれぞれが特別な力やアイテムを持ち、明確なアイデンティティを証明する重厚なストーリーをそれぞれが持っていて、長編のクエストをこなすのがその報酬も含めて楽しかったのを覚えている。

勿論、街区の方にもクエストは幾つかある。
街に何が起こったのか、神殿や街中の碑文を辿ることで知ることが出来たりするし、長いチェインクエストを完了することで得られるアイテムはダンジョンの入口に飛ぶことが出来るゲートを開くことが出来る、その後ずっと使える物だったからみんな長いとはいえ頑張って終わらせていた。しかも、このクエストはノンプレイヤーキャラクターが絡まないクエストだったこともあって、クエスト関連がフレキシブルに変わった後でも行えた数少ないチェインクエストの一つだった。そんなこともあってか、このケナログダンジョンは誰しもが一度は来たことのあるダンジョンだったと思う。

今回ももし時間の余裕があって、同じクエストがあるならアイテム狙いでやりたいところなんだけどね。
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