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三章
王の部屋
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焼き締めた鋼鉄がふんだんに使われた堅牢な漆黒のゴダール城は、中に入ってみると案外ガランと何もなかった。ゴダールらしく扉や柱の厳ついレリーフだけが存在感を放っているが、装飾品が何もない。以前は廊下や広間のあちこちに、様々なものが飾られていた痕跡はあるが、飾り台や広い壁はぽっかりと空いたままだ。
「お城なのに、ずいぶんひと気がないんですね」
コレットがトーマの思っていたことをズケズケと口にした。
「それに、なんか飾りも少ないっていうか、想像してたのと全然違うっていうか……、お城ってなんかもっとこう煌びやかなもんかと……あ、こっちは普段使われてない離れですか?」
王がコレットのその言葉に短く笑った。
「いや、本殿だ。俺が王位に就いてから、城の中にある金目のものはあらかた売り払った」
「ええ! この国はそんなに貧窮してるんですか!?」
コレットが目を丸くした。
トーマもこれには驚いた。
「あはは、いや、豊かな鉄鉱石やその他の金属の鉱脈や宝石も採れるから、この国は基本的には豊かだな」
「じゃあなぜ……?」
「ここに飾られていたものが気に食わなかったからさ」
トーマの疑問に、短く答えるラウル王の横顔には苦い笑いが浮かんでいた。
「ひと気がないのはごく信頼のおけるものだけにして、余剰人員を整理したからで、飾り物は嫌いなものを売っぱらって、それきり積極的に買い替えをしなかったからだ」
「へえ、じゃあ、王宮に絵や美術品を卸していた芸術家は干上がっているでしょうねえ」
コレットの何気ないその一言に、王が意表を突かれたように彼女を見た。コレット自身は何も考えずに口にしたようで、まだキョロキョロと辺りを物珍しそうに見回している。
「……確かにそうだな。では、これからは少し何か買い足すことにしよう」
トーマはコレットの鋭い市場感覚にも驚いたが、それに即座についてゆく王のその柔軟性と素直さにも驚いた。
「陛下!」
その声のした方を見ると、老いた女官が王のもとに走り寄ってきた。
「フォレス、今帰ったぞ」
「陛下! 今帰ったではありません! またそのような平民の服で供もつけずにどこ……その方々は?」
フォレスと呼ばれた老女官は、トーマとコレットの姿を見て不思議そうな顔をした。
「ああ、こっちの若者の方はうちの新しい宮廷くすしで、こっちの娘は……あー……」
「コレットと申します。私は……」
「僕の助手です。看護師をしてもらっています」
娼館で身を売ろうとしていたとは言いにくかろうと、トーマはとっさに嘘をついて庇ってしまった。コレットが戸惑いながらも話を合わせてくれた。
「は、はい、そうです」
「今夜は二人ともこの城に泊まってゆくがいい。あの連中は案外しつこい」
最後の言葉はフォレスに聞こえないよう王がこっそりトーマとコレットに囁いた。どうやら聞かれたくないらしい。おそらく、小言を聞きたくないのだろう。
「あの連中って、闇国の人たちですよね?」
王に合わせて囁くコレットの言葉に、王が驚いたように目を見開いた。
「なぜわかった?」
「あの中に、肩に鷲の刺青が入っている人がいました……」
そう言って、コレットは自分の左の上腕の辺りを指した。
闇国のならず者の中には、鷲が蛇を掴んで羽ばたいている意匠を施した刺青が入っていることが多い。神龍を蛇になぞらえ、それを狩る鷹が彼らのシンボルというわけだ。
「でもダメなんです。 私は子ども達が待ってるから帰らなきゃ。今頃お腹空かせてるわ」
「なんだ、子持ちか?」
「あぁ、いえ、私の子ではなく亡くなった姉の子です。ロクデナシの義兄が借金残して女と家出したので私が引き取ったんです」
コレットが慌てて事情を説明した。
「その若さで苦労人か……。それなら無理して引き留めることもできんな。フォレス、誰かに言いつけて送ってやってくれ。住まいはどこだ?」
「あ、グリーン通り17番地のボロアパート……あのう、とても言いにくいんですが、何か食べ物を少し分けていただけると……」
「すぐにお子さんたちの分もお包みしますね」
フォレスがそう言って、すぐにコレットと一緒に出て行った。
「おまえは今から宿を探す予定だったんだろう? なら、好きなだけここに滞在するがいい」
王がトーマに向かって言った。
「は、はい、では、お言葉に甘えて……」
トーマは城を案内するという王の後について、城の中よりさらに味気ない部屋に通された。目立つのは、すり切れた毛布の乗った天蓋付きの大きな寝台ばかりだ。
「ここは……?」
「俺の部屋だ」
「え……」
戦場で一度会っただけのただのくすしの自分を、こんなにも奥深くまで案内していいものかと、さすがのトーマも他人事ながら心配になると、王が短く言った。
「すまん、トーマ、診てくれ」
王が着ていたフード付きの粗末なコートを脱いだ。左脇腰から腿にかけて、服が大きく血に濡れていた。王が疲れたようにベッドの端に腰掛けた。
「ふう……」
「なっ……!?」
絶句して慌ててシャツをめくると、適当な布でかろうじて止血してある。そこを慎重にめくると、左の腰を背中から鋭い刃物で刺されたような傷がついていた。出血は今もジクジクと続いている。おそらく、先ほどの盗賊の仕業だろう。
「自分では届かんし、どうにもならん」
「あ、あなたは、なぜ……」
「騒ぐな。誰にも知られたくない。それに、俺は傷の治りが早い」
それでも痛みはあったはずだ。なのにこの傷を見せられるまで、そんなことは微塵も感じさせなかった。
「……でもここでは道具が何も」
背負っていた荷物は、刺客に襲われた時、娼館の裏口に置き去りにしたままだった。貴重品は身につけているが、今頃は誰かに盗まれているかもしれない。
「簡単な道具と薬なら、そこのワードローブの中に入っている。適当に持ってきてくれ」
急いで壁際のワードローブの引き出しを開けた。
なぜか古びた女性物の粗末な寝巻きの横に、傷を手当てするための道具が一式入っていた。意外に充実している。ということは、王はこれまでもこの道具を使う機会が頻繁にあったということだ。おそらく密かに。
胸を突かれる思いで道具を手に取ると、トーマはベッドに腰掛けている王の側に急いだ。
シャツを脱がせてざっと傷を改めると、幸いにも出血の割には浅い。だが、縫わなければならなかった。とりあえず、縫合のための道具を消毒しなければ。
それにしても、この王は古傷だらけじゃないかと思った。
「湯は沸かせますか?」
「ああ、暖炉の熾火がまだ残っているはずだ。それを火鉢に移せば……」
「鍋を借りてきます」
「フォレスには……」
「わかっています。誰にも何も言いません。お茶を飲みたいとかなんとか、うまく切り抜けます」
「すまん……」
トーマが水の入った鍋や茶器を持って戻り、上着の胸ポケットから丈夫そうな皮の巻物を取り出すと、その中からさらにロウ引きの紙で包まれた医療道具が出てきた。メスやピンセット、縫合針や鉗子などだ。
「おお、すごいな」
王が素直に感心している。
「医術に使う刃物は特殊な形が多いし、失くすと再び手に入れるのが大変なので、これだけは肌身離さず持っています」
「それも師匠の教えか?」
「そうですね。独り立ちした祝いに一式贈っていただきました」
「近頃のくすしはみんなシンの大学で修行するが、おまえは昔ながらの徒弟制なのだな」
「そうですね。……ちょっと痛みますよ? 麻酔薬がないので仕方ありません」
「ああ、芥子の果汁で作ったというやつだろう? 今じゃすっかり一般化したが、麻酔薬は使い方を間違える……なっ…と」
トーマが処置を始めると、王がグッと痛みをこらえて言葉を詰まらせた。
「そうです。中毒性があるんです。よくご存知ですね」
「昔、教えて…もら…った」
「……誰に?」
「……昔、おまえのような腕のいいくすしの手伝いをしたことがあるんだ。……ぐっ…俺は痛がって暴れる患者を抑えていただけっ…だが、しっかり抑えていろと叱られた。ひどい傷口に目を背けると、ちゃんと見ておけと睨まれた。元はおまえたち為政者が仕掛けた戦の結果だと」
「あはは、王にですか? それはすごい度胸のくすしですね」
「その頃はまだ王じゃなかったがな。おまえの治療のやり方が、彼女によく似ている」
「彼女……? 女性ですか」
「そう。それに、おまえは彼女に顔つきも何となく似てるんだ」
「だからまだ出会って日も浅い僕を信頼してくださると?」
「十分だろう?」
おどけたようにそう言う王の軽口に、トーマも思わず苦笑した。
「お城なのに、ずいぶんひと気がないんですね」
コレットがトーマの思っていたことをズケズケと口にした。
「それに、なんか飾りも少ないっていうか、想像してたのと全然違うっていうか……、お城ってなんかもっとこう煌びやかなもんかと……あ、こっちは普段使われてない離れですか?」
王がコレットのその言葉に短く笑った。
「いや、本殿だ。俺が王位に就いてから、城の中にある金目のものはあらかた売り払った」
「ええ! この国はそんなに貧窮してるんですか!?」
コレットが目を丸くした。
トーマもこれには驚いた。
「あはは、いや、豊かな鉄鉱石やその他の金属の鉱脈や宝石も採れるから、この国は基本的には豊かだな」
「じゃあなぜ……?」
「ここに飾られていたものが気に食わなかったからさ」
トーマの疑問に、短く答えるラウル王の横顔には苦い笑いが浮かんでいた。
「ひと気がないのはごく信頼のおけるものだけにして、余剰人員を整理したからで、飾り物は嫌いなものを売っぱらって、それきり積極的に買い替えをしなかったからだ」
「へえ、じゃあ、王宮に絵や美術品を卸していた芸術家は干上がっているでしょうねえ」
コレットの何気ないその一言に、王が意表を突かれたように彼女を見た。コレット自身は何も考えずに口にしたようで、まだキョロキョロと辺りを物珍しそうに見回している。
「……確かにそうだな。では、これからは少し何か買い足すことにしよう」
トーマはコレットの鋭い市場感覚にも驚いたが、それに即座についてゆく王のその柔軟性と素直さにも驚いた。
「陛下!」
その声のした方を見ると、老いた女官が王のもとに走り寄ってきた。
「フォレス、今帰ったぞ」
「陛下! 今帰ったではありません! またそのような平民の服で供もつけずにどこ……その方々は?」
フォレスと呼ばれた老女官は、トーマとコレットの姿を見て不思議そうな顔をした。
「ああ、こっちの若者の方はうちの新しい宮廷くすしで、こっちの娘は……あー……」
「コレットと申します。私は……」
「僕の助手です。看護師をしてもらっています」
娼館で身を売ろうとしていたとは言いにくかろうと、トーマはとっさに嘘をついて庇ってしまった。コレットが戸惑いながらも話を合わせてくれた。
「は、はい、そうです」
「今夜は二人ともこの城に泊まってゆくがいい。あの連中は案外しつこい」
最後の言葉はフォレスに聞こえないよう王がこっそりトーマとコレットに囁いた。どうやら聞かれたくないらしい。おそらく、小言を聞きたくないのだろう。
「あの連中って、闇国の人たちですよね?」
王に合わせて囁くコレットの言葉に、王が驚いたように目を見開いた。
「なぜわかった?」
「あの中に、肩に鷲の刺青が入っている人がいました……」
そう言って、コレットは自分の左の上腕の辺りを指した。
闇国のならず者の中には、鷲が蛇を掴んで羽ばたいている意匠を施した刺青が入っていることが多い。神龍を蛇になぞらえ、それを狩る鷹が彼らのシンボルというわけだ。
「でもダメなんです。 私は子ども達が待ってるから帰らなきゃ。今頃お腹空かせてるわ」
「なんだ、子持ちか?」
「あぁ、いえ、私の子ではなく亡くなった姉の子です。ロクデナシの義兄が借金残して女と家出したので私が引き取ったんです」
コレットが慌てて事情を説明した。
「その若さで苦労人か……。それなら無理して引き留めることもできんな。フォレス、誰かに言いつけて送ってやってくれ。住まいはどこだ?」
「あ、グリーン通り17番地のボロアパート……あのう、とても言いにくいんですが、何か食べ物を少し分けていただけると……」
「すぐにお子さんたちの分もお包みしますね」
フォレスがそう言って、すぐにコレットと一緒に出て行った。
「おまえは今から宿を探す予定だったんだろう? なら、好きなだけここに滞在するがいい」
王がトーマに向かって言った。
「は、はい、では、お言葉に甘えて……」
トーマは城を案内するという王の後について、城の中よりさらに味気ない部屋に通された。目立つのは、すり切れた毛布の乗った天蓋付きの大きな寝台ばかりだ。
「ここは……?」
「俺の部屋だ」
「え……」
戦場で一度会っただけのただのくすしの自分を、こんなにも奥深くまで案内していいものかと、さすがのトーマも他人事ながら心配になると、王が短く言った。
「すまん、トーマ、診てくれ」
王が着ていたフード付きの粗末なコートを脱いだ。左脇腰から腿にかけて、服が大きく血に濡れていた。王が疲れたようにベッドの端に腰掛けた。
「ふう……」
「なっ……!?」
絶句して慌ててシャツをめくると、適当な布でかろうじて止血してある。そこを慎重にめくると、左の腰を背中から鋭い刃物で刺されたような傷がついていた。出血は今もジクジクと続いている。おそらく、先ほどの盗賊の仕業だろう。
「自分では届かんし、どうにもならん」
「あ、あなたは、なぜ……」
「騒ぐな。誰にも知られたくない。それに、俺は傷の治りが早い」
それでも痛みはあったはずだ。なのにこの傷を見せられるまで、そんなことは微塵も感じさせなかった。
「……でもここでは道具が何も」
背負っていた荷物は、刺客に襲われた時、娼館の裏口に置き去りにしたままだった。貴重品は身につけているが、今頃は誰かに盗まれているかもしれない。
「簡単な道具と薬なら、そこのワードローブの中に入っている。適当に持ってきてくれ」
急いで壁際のワードローブの引き出しを開けた。
なぜか古びた女性物の粗末な寝巻きの横に、傷を手当てするための道具が一式入っていた。意外に充実している。ということは、王はこれまでもこの道具を使う機会が頻繁にあったということだ。おそらく密かに。
胸を突かれる思いで道具を手に取ると、トーマはベッドに腰掛けている王の側に急いだ。
シャツを脱がせてざっと傷を改めると、幸いにも出血の割には浅い。だが、縫わなければならなかった。とりあえず、縫合のための道具を消毒しなければ。
それにしても、この王は古傷だらけじゃないかと思った。
「湯は沸かせますか?」
「ああ、暖炉の熾火がまだ残っているはずだ。それを火鉢に移せば……」
「鍋を借りてきます」
「フォレスには……」
「わかっています。誰にも何も言いません。お茶を飲みたいとかなんとか、うまく切り抜けます」
「すまん……」
トーマが水の入った鍋や茶器を持って戻り、上着の胸ポケットから丈夫そうな皮の巻物を取り出すと、その中からさらにロウ引きの紙で包まれた医療道具が出てきた。メスやピンセット、縫合針や鉗子などだ。
「おお、すごいな」
王が素直に感心している。
「医術に使う刃物は特殊な形が多いし、失くすと再び手に入れるのが大変なので、これだけは肌身離さず持っています」
「それも師匠の教えか?」
「そうですね。独り立ちした祝いに一式贈っていただきました」
「近頃のくすしはみんなシンの大学で修行するが、おまえは昔ながらの徒弟制なのだな」
「そうですね。……ちょっと痛みますよ? 麻酔薬がないので仕方ありません」
「ああ、芥子の果汁で作ったというやつだろう? 今じゃすっかり一般化したが、麻酔薬は使い方を間違える……なっ…と」
トーマが処置を始めると、王がグッと痛みをこらえて言葉を詰まらせた。
「そうです。中毒性があるんです。よくご存知ですね」
「昔、教えて…もら…った」
「……誰に?」
「……昔、おまえのような腕のいいくすしの手伝いをしたことがあるんだ。……ぐっ…俺は痛がって暴れる患者を抑えていただけっ…だが、しっかり抑えていろと叱られた。ひどい傷口に目を背けると、ちゃんと見ておけと睨まれた。元はおまえたち為政者が仕掛けた戦の結果だと」
「あはは、王にですか? それはすごい度胸のくすしですね」
「その頃はまだ王じゃなかったがな。おまえの治療のやり方が、彼女によく似ている」
「彼女……? 女性ですか」
「そう。それに、おまえは彼女に顔つきも何となく似てるんだ」
「だからまだ出会って日も浅い僕を信頼してくださると?」
「十分だろう?」
おどけたようにそう言う王の軽口に、トーマも思わず苦笑した。
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