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二章
黒龍の秘密
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今度こそラウルはララを神殿に案内しながら、自分の知る黒龍に関する話をしてくれた。
「そういえば、先代ハロルド王が、一度神殿の場所を建て替えたと聞いたな。昔は中央塔の最上階に据えられていた神殿を、黒龍の命令だと言って城の地下深くに移したのだそうだ」
「へえ、それはなぜ?」
「さあ? 俺の生まれる前のことだからよくわからない」
「まあ、城の地下深くに神殿を据えるのは珍しくはないが……」
「そうなのか?」
「ああ。青龍の住まいは地底湖だそうだから、神殿はかなり深い地下なのだそうだ」
「へえ。でもまぁ、いずれにせよ俺は、あそこに行くとひどい頭痛と吐き気に襲われて気分が悪くなる。だからよほどのことがない限り近づかない。赤ん坊のころから泣きわめいていたというから、よほど神龍と相性が悪いんだろう」
「気分が悪く……?」
ララが難しい顔で考え込むのを見てラウルが眉を上げた。
「変か?」
「いや、よくわからない。神龍と相性が悪い王族も聞いたことがないが、他の国でも神龍は滅多に見かけない。姿も大きさも様々だし、うちのシンの方が変わっているのかもしれない。シンは色々と非常識だし、よく考えればうちも城に神殿はない。シンが王にくっついてふらふらしているのだから祀るも何もない。逆に、地方へ行くとシンが立ち寄れるようにと小さな神殿がいくつも建てられている」
「あぁ、なるほど」
「だから、病払いの季節ごとのシンの祭りは、そういう地方の神殿に出張なんだ」
「あはは、神龍の地方出張か」
「ふふ、そうなんだ。そして、神殿や王宮には、よく民がシンにと言って季節で最初に実ったものを持ってきてくれる。そう言う意味では王宮全体が神殿替わりと言ってもいいが、シンはそういうものは食わないし、腐らせるのも勿体無いので病棟の患者たちや、王宮で働くものたちみなで食べてしまう」
「病棟?」
「ああ、シンの王宮の半分は治療院なんだ。私もおばあさまもくすしだからな」
「あははは! 本当か!」
「む、なんで笑う? お前も子供の頃はそこで治療されていた」
「あぁ……そうか、あの庭は王宮の薬草園だったのか……」
ラウルが楽しそうに目を細めた。
心を閉ざしていたラウルに、シンの思い出はほとんどない。実際、ふと唐突に意識を取り戻し、シロツメグサの花冠を作ったあの短い時間だけが、ラウルのララとの思い出の全てなのだ。
「……シンは素晴らしい国だな。ますます結婚生活が楽しみになってきた」
「ふふ、おばあさまが作った国なんだ。小さいが本当に素晴らしい国なんだ」
「……そうか」
手放しで自慢するララを、ラウルが愛おしそうに見つめた。
「話がそれてしまったが、黒龍のお披露目の祭りはいつだ?」
「民も参加する国を挙げての祭りは、黒鋼祭だけだな。季節の変わり目に年に三回ある。でもそれも神龍のお披露目というより、採掘の安全祈願と鉱物のさらなる産出を願って、各地の鉱山でやるものだけだ」
「黒龍は出張しない?」
「あはは、俺の知る限りないな。昔はあったのかもしれないが……」
そうこう言っているうちに、二人は王宮の中央塔から地下に向かって伸びている狭いらせん階段の入り口までやってきた。二人の見張りがいたが、こちらがラウルだと知るとさして疑うこともなく通してくれた。コツコツと靴音をさせながら地下へと降りてゆく。かなり深い。
壁は複雑なレリーフが施された鋼鉄の板で覆われ、ところどころ明り取りのキャンドルスタンドが壁に取り付けられている。長い階段を下りると、神殿の入り口は大人の背丈の倍ほどもある分厚く巨大な鋼鉄製でできており、凝ったレリーフと複雑な模様の瑪瑙がふんだんに埋め込まれていた。
ララはふと、何かの呪術のまじないみたいだと思った。
滑車の取り付けられた巨大な扉は、手で押して開けることができず、幾重にも巻かれた鎖をジャラジャラと回しながらようやくゆっくりと開いた。
大人が百人ほど入れそうなゆったりと広い神殿で真っ先に目についたのは、広間の中央にそびえる太い鋼鉄製の柱だ。大人が二人がかりで手を繋いでやっと囲めるぐらいの太さだ。真っ黒に黒光りするその柱には、やはり何かのレリーフがびっしりと掘られている。昔の古代文字のようだ。
その柱を中心に、なんとなく祭壇のようなものはあるが、ここにはそれだけだった。
タリサ村の教会の祭壇すらもっとそれらしい。あそこには確か、柱に巻き付いている神龍の像があった。それなのに、本家本元の神殿の柱には肝心の龍がいないのだ。
「これだけ……? なんだここは……? ん、ラウル……?」
「ああ、ララ、俺はやっぱりここはダメだ。さっきからひどい頭痛と吐き気がして、何かの悲鳴のようなものが頭の中でガンガン響く―――」
ラウルが真っ青な顔で頭を抱えながら、今にも倒れてしまいそうだ。
「ど、どうした、大丈夫か?」
と、突然ララの白い影の中からシンがまろびでてきた。
〈ララ、ゴダールはこの柱の中にいる〉
「……えっ!?」
〈この柱の中に閉じ込められているんだ!〉
「えええ!?」
「ララ、ああ、頭が割れそうだ……」
「あ、ああ、わかった、今ここから……」
とりあえず黒龍のことは後回しにして、ラウルを支えながら、広間から出ようとすると、唐突にシンが部屋いっぱいに膨れ上がった。
「シン!?」
そして、柱に全身を巻き付かせると、壊そうとするように全身でギリギリとものすごい力で締め上げているのだ。
「シ、シン! 何をしている!?」
「うう……っ」
「ラウル!」
仕方なくラウルを優先し、ラウルを担ぐようにして必死に階段を上り始めた。
誰か人を呼んだ方がいいのかとも思ったが、どう考えてもあのシンを見られるのはマズイ。
ひとまず、ラウルを楽になるところまで連れて行き、もう一度神殿に戻ろうとしたとき、扉の向こうからバキバキミシミシと何かが割れる不吉な音がした。中からガラガラと何かが崩れる音がするが、幸いにも分厚い扉が全開ではないのでそれほど音は外に漏れていない。
だが、考えうる限り最悪の状況だ。あれを見られたら深刻な国際問題だ。
――ああ、どうしよう。
それでも必死に、よろよろと階段を上がっていると、ふとラウルが軽くなった。
「ララ、もう大丈夫だ」
「え?」
まだ顔色は悪いが、ひどい頭痛と吐き気は収まったようで、すっと背筋が伸びた。
そして、ゆっくりララを見ると「戻ろう」と言った。
「い、いやでも」
「大丈夫だ。なぜか頭の中の悲鳴が止んだ」
「悲鳴が……?」
「たぶん、シンのおかげだろう」
ララは訳がわからない。この場をどう収めるかばかりに気がいった。
もう一度神殿の中に戻ると、柱をバラバラに壊しただろう瓦礫の中心に、なにかを咥えたシンがこちらに気付いて近づいてきた。そして、咥えているものを迷わずラウルの手にポトンと渡した。
それは、真っ黒な細身の剣だった。
「これは?」
ラウルがシンに聞いた。
〈抜けばわかる。私にできることはここまでだ……〉
シンは疲れたようにそう言って、ララの影の中に再び戻った。
よくわからないまま、ラウルは剣の鞘をスラッと払った。
と―――
ドッ
という音がして、真っ黒な奔流が剣から流れ出してきたかと思ったら、それは渦を巻きながらラウルの腕に巻き付いた。
「う、わっ」
「ラウル!」
それはたちまちラウルにギリギリと巻き付きながら、左腕全体を締め上げている。
「うわああぁ――…」
「ラウル!」
「来るな!」
ラウルのその激しい一言に、ララは思わず足を止めた。
ラウルは身を折って左腕を右腕で抱え込むように苦しんでいる。
「ぐっうぅぅ……」
「ラウル!」
ラウルの忠告を無視して駆け寄ると、ラウルは激しく息を乱しながらなんとか顔を上げた。
「はぁはぁ……大丈夫だ。少し驚いただけだ」
ララがラウルの腕を取ると、そこには人の腕ほどの太さの黒龍が、不吉でいかついアクセサリーのようにきつく巻きついている。
「ま、まさかこれが黒龍? ラウル、痛みは? 剥がせないのか? ゴダールは何か言ってる?」
「い、いや、締め付けられる圧迫感はするが痛みはもうない。激しく混乱しているようで、なにを言っているのかよくわからない。傷つける気はないようだから、このまましばらく様子を見よう」
「わ、わかった」
〈おそらく、黒龍はラウルの龍脈に反応しているんだ〉
シンが影の中から言った。
「……シン、俺たちを連れてシンに帰れるか?」
〈ああ……〉
「では行こう」
ここはとりあえずこのままにして、誰かに見つかる前に再びシンを目指した。
「そういえば、先代ハロルド王が、一度神殿の場所を建て替えたと聞いたな。昔は中央塔の最上階に据えられていた神殿を、黒龍の命令だと言って城の地下深くに移したのだそうだ」
「へえ、それはなぜ?」
「さあ? 俺の生まれる前のことだからよくわからない」
「まあ、城の地下深くに神殿を据えるのは珍しくはないが……」
「そうなのか?」
「ああ。青龍の住まいは地底湖だそうだから、神殿はかなり深い地下なのだそうだ」
「へえ。でもまぁ、いずれにせよ俺は、あそこに行くとひどい頭痛と吐き気に襲われて気分が悪くなる。だからよほどのことがない限り近づかない。赤ん坊のころから泣きわめいていたというから、よほど神龍と相性が悪いんだろう」
「気分が悪く……?」
ララが難しい顔で考え込むのを見てラウルが眉を上げた。
「変か?」
「いや、よくわからない。神龍と相性が悪い王族も聞いたことがないが、他の国でも神龍は滅多に見かけない。姿も大きさも様々だし、うちのシンの方が変わっているのかもしれない。シンは色々と非常識だし、よく考えればうちも城に神殿はない。シンが王にくっついてふらふらしているのだから祀るも何もない。逆に、地方へ行くとシンが立ち寄れるようにと小さな神殿がいくつも建てられている」
「あぁ、なるほど」
「だから、病払いの季節ごとのシンの祭りは、そういう地方の神殿に出張なんだ」
「あはは、神龍の地方出張か」
「ふふ、そうなんだ。そして、神殿や王宮には、よく民がシンにと言って季節で最初に実ったものを持ってきてくれる。そう言う意味では王宮全体が神殿替わりと言ってもいいが、シンはそういうものは食わないし、腐らせるのも勿体無いので病棟の患者たちや、王宮で働くものたちみなで食べてしまう」
「病棟?」
「ああ、シンの王宮の半分は治療院なんだ。私もおばあさまもくすしだからな」
「あははは! 本当か!」
「む、なんで笑う? お前も子供の頃はそこで治療されていた」
「あぁ……そうか、あの庭は王宮の薬草園だったのか……」
ラウルが楽しそうに目を細めた。
心を閉ざしていたラウルに、シンの思い出はほとんどない。実際、ふと唐突に意識を取り戻し、シロツメグサの花冠を作ったあの短い時間だけが、ラウルのララとの思い出の全てなのだ。
「……シンは素晴らしい国だな。ますます結婚生活が楽しみになってきた」
「ふふ、おばあさまが作った国なんだ。小さいが本当に素晴らしい国なんだ」
「……そうか」
手放しで自慢するララを、ラウルが愛おしそうに見つめた。
「話がそれてしまったが、黒龍のお披露目の祭りはいつだ?」
「民も参加する国を挙げての祭りは、黒鋼祭だけだな。季節の変わり目に年に三回ある。でもそれも神龍のお披露目というより、採掘の安全祈願と鉱物のさらなる産出を願って、各地の鉱山でやるものだけだ」
「黒龍は出張しない?」
「あはは、俺の知る限りないな。昔はあったのかもしれないが……」
そうこう言っているうちに、二人は王宮の中央塔から地下に向かって伸びている狭いらせん階段の入り口までやってきた。二人の見張りがいたが、こちらがラウルだと知るとさして疑うこともなく通してくれた。コツコツと靴音をさせながら地下へと降りてゆく。かなり深い。
壁は複雑なレリーフが施された鋼鉄の板で覆われ、ところどころ明り取りのキャンドルスタンドが壁に取り付けられている。長い階段を下りると、神殿の入り口は大人の背丈の倍ほどもある分厚く巨大な鋼鉄製でできており、凝ったレリーフと複雑な模様の瑪瑙がふんだんに埋め込まれていた。
ララはふと、何かの呪術のまじないみたいだと思った。
滑車の取り付けられた巨大な扉は、手で押して開けることができず、幾重にも巻かれた鎖をジャラジャラと回しながらようやくゆっくりと開いた。
大人が百人ほど入れそうなゆったりと広い神殿で真っ先に目についたのは、広間の中央にそびえる太い鋼鉄製の柱だ。大人が二人がかりで手を繋いでやっと囲めるぐらいの太さだ。真っ黒に黒光りするその柱には、やはり何かのレリーフがびっしりと掘られている。昔の古代文字のようだ。
その柱を中心に、なんとなく祭壇のようなものはあるが、ここにはそれだけだった。
タリサ村の教会の祭壇すらもっとそれらしい。あそこには確か、柱に巻き付いている神龍の像があった。それなのに、本家本元の神殿の柱には肝心の龍がいないのだ。
「これだけ……? なんだここは……? ん、ラウル……?」
「ああ、ララ、俺はやっぱりここはダメだ。さっきからひどい頭痛と吐き気がして、何かの悲鳴のようなものが頭の中でガンガン響く―――」
ラウルが真っ青な顔で頭を抱えながら、今にも倒れてしまいそうだ。
「ど、どうした、大丈夫か?」
と、突然ララの白い影の中からシンがまろびでてきた。
〈ララ、ゴダールはこの柱の中にいる〉
「……えっ!?」
〈この柱の中に閉じ込められているんだ!〉
「えええ!?」
「ララ、ああ、頭が割れそうだ……」
「あ、ああ、わかった、今ここから……」
とりあえず黒龍のことは後回しにして、ラウルを支えながら、広間から出ようとすると、唐突にシンが部屋いっぱいに膨れ上がった。
「シン!?」
そして、柱に全身を巻き付かせると、壊そうとするように全身でギリギリとものすごい力で締め上げているのだ。
「シ、シン! 何をしている!?」
「うう……っ」
「ラウル!」
仕方なくラウルを優先し、ラウルを担ぐようにして必死に階段を上り始めた。
誰か人を呼んだ方がいいのかとも思ったが、どう考えてもあのシンを見られるのはマズイ。
ひとまず、ラウルを楽になるところまで連れて行き、もう一度神殿に戻ろうとしたとき、扉の向こうからバキバキミシミシと何かが割れる不吉な音がした。中からガラガラと何かが崩れる音がするが、幸いにも分厚い扉が全開ではないのでそれほど音は外に漏れていない。
だが、考えうる限り最悪の状況だ。あれを見られたら深刻な国際問題だ。
――ああ、どうしよう。
それでも必死に、よろよろと階段を上がっていると、ふとラウルが軽くなった。
「ララ、もう大丈夫だ」
「え?」
まだ顔色は悪いが、ひどい頭痛と吐き気は収まったようで、すっと背筋が伸びた。
そして、ゆっくりララを見ると「戻ろう」と言った。
「い、いやでも」
「大丈夫だ。なぜか頭の中の悲鳴が止んだ」
「悲鳴が……?」
「たぶん、シンのおかげだろう」
ララは訳がわからない。この場をどう収めるかばかりに気がいった。
もう一度神殿の中に戻ると、柱をバラバラに壊しただろう瓦礫の中心に、なにかを咥えたシンがこちらに気付いて近づいてきた。そして、咥えているものを迷わずラウルの手にポトンと渡した。
それは、真っ黒な細身の剣だった。
「これは?」
ラウルがシンに聞いた。
〈抜けばわかる。私にできることはここまでだ……〉
シンは疲れたようにそう言って、ララの影の中に再び戻った。
よくわからないまま、ラウルは剣の鞘をスラッと払った。
と―――
ドッ
という音がして、真っ黒な奔流が剣から流れ出してきたかと思ったら、それは渦を巻きながらラウルの腕に巻き付いた。
「う、わっ」
「ラウル!」
それはたちまちラウルにギリギリと巻き付きながら、左腕全体を締め上げている。
「うわああぁ――…」
「ラウル!」
「来るな!」
ラウルのその激しい一言に、ララは思わず足を止めた。
ラウルは身を折って左腕を右腕で抱え込むように苦しんでいる。
「ぐっうぅぅ……」
「ラウル!」
ラウルの忠告を無視して駆け寄ると、ラウルは激しく息を乱しながらなんとか顔を上げた。
「はぁはぁ……大丈夫だ。少し驚いただけだ」
ララがラウルの腕を取ると、そこには人の腕ほどの太さの黒龍が、不吉でいかついアクセサリーのようにきつく巻きついている。
「ま、まさかこれが黒龍? ラウル、痛みは? 剥がせないのか? ゴダールは何か言ってる?」
「い、いや、締め付けられる圧迫感はするが痛みはもうない。激しく混乱しているようで、なにを言っているのかよくわからない。傷つける気はないようだから、このまましばらく様子を見よう」
「わ、わかった」
〈おそらく、黒龍はラウルの龍脈に反応しているんだ〉
シンが影の中から言った。
「……シン、俺たちを連れてシンに帰れるか?」
〈ああ……〉
「では行こう」
ここはとりあえずこのままにして、誰かに見つかる前に再びシンを目指した。
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