前途多難な白黒龍王婚【R 18】

天花粉

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二章

キスだけ ※

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 黒鋼くろがね城と呼ばれる大国ゴダールの城は堅牢だ。
 周囲を高い城壁に囲まれ、ところどころ堅い鋼鉄で補強されている。強度を増すため、真っ黒に焼き固められている広大な鋼鉄の城は、外からの侵略にもビクともしない。まさに黒龍の名に相応しい城だった。
 しかし、空を飛ぶ乗り物のないこの世界では、空からの侵入には恐ろしく無防備だ。どれほど堅く高い城壁を積み上げようと、空を飛ぶシンの前では無力だ。
 ラウルとララは、いともたやすくゴダール城の真ん中に降り立った。
 そして二人を背中から降ろしたシンは、まるでそこに深い泉でもあるかのように、ララの影の中にトプンと沈んだ。

「なんと……」

 ラウルがそれを見て驚いている。

「まぁ、神龍はこの星の精を集めて具現化しているようなものだからな。人の常識を超えている」
「影がなくなったぞ。おまえはなんともないのか?」
「うーん、特になにも」
「呼び掛ければ出てくる?」
「呼び掛けなくとも勝手に出てくることもある。シンが影の中にいないときは私にもごく当たり前の影ができる」
「なるほど……」

 この時間帯にはひと気のない中庭だが、誰かに見咎められる前に神殿にたどり着きたい。

「ラウル、早速だが、神殿まで案内してくれ」

 ラウルが「こっちだ」と先に立って、見事な薔薇が咲き誇る花壇の間を歩き始めた。
 と──
 
「何者だ!」

 薔薇のアーチを潜った時、槍を構えた警備の兵士にばったり出くわした。

「すまない、私だ」

 ラウルが明かりの中に一歩進み出て、兵士に顔を見せた。

「え、あ? ラウル殿下?」

 さっと構えていた槍を捧げて控えた兵士は、不思議そうにラウルの顔を見上げた。

「え……でも、殿下は今日お輿入れと聞きましたが?」
「うん、それでハネムーンだ」

 ララがフードをとって白銀の髪を見せた。その白く輝く髪とグレーの瞳を持つ龍王色は、黒龍色より目立つ。
 兵士が驚きに口をぽかんと開く。

「驚かせてしまいましたね。シンの女王のララです」
「は、ははっ……」

 兵士は慌てて膝を折って跪いた。

「殿下とお忍びで遊びに参りましたの。黙っていてくださるわよね? だってこれからは友好国ですものね?」

 いたずらっぽく唇に指を立てて、ララが兵士にとっておきの笑みを見せた。

「ハ、ハイッ!」

 兵士は顔を真っ赤にして、ララに見とれている。
 ぼうっとなった兵士を置き去りに、ラウルがすかさずララの腰を抱いてその場を後にした。
 あまり長く話していると、突っ込みどころ満載のこの状況のボロが色々出てきてしまう。

「では、行っていいぞ」
「は……」

 足早に王宮の中に入っていきながら、ラウルが顔をしかめている。

「おまえ、俺にもあんな顔しないじゃないか」
「は? どんな顔?」
「どんなって……もういい」
「何を怒っているのだ?」

 王宮の奥に向かって速足で歩いてゆくラウルにララが小走りについてゆく。
 長い回廊には、数々の美術品や絵画が飾られている。どれも大きくて豪華だ。

「なんだかこう、豪華な城だな」

 遠慮がちなララの感想に、ラウルがさもおかしそうに笑い声を上げた。

「あはは、ハッキリ言っていいぞ。ゴテゴテと大げさに飾り立てられた悪趣味で下品な最低の城だと」
「そ、そこまでは言ってない……」
「ここは虚勢を張って誰がその場で最も権威を誇っているかを競い合う場所だ」
「うーん、ラウルはとことん自分の国が嫌いなのだな」
「国というか、上流階級だな。でも、この城にもいいところがひとつだけある」

 そう言って、廊下を何度か曲がった後に、ラウルが不意にララを通りがかりの小さな部屋に連れ込んだ。
 豪華だが、やはりゴテゴテとやたらと飾りの多い長椅子が置かれた部屋だった。

「ん? ここがしん…で…」

 ララが言い終わる前にラウルに唇を塞がれた。

「んっ……」

 長椅子に転がされ、ラウルが覆いかぶさって来る。

「ちょ……」
「爛れたこの城は……」
「ぷはっ、ラ、ラウル、こんなことしてる場合じゃ……」
秘事ひめごとを行うには恰好の場所があちこちにあるんだ……」
「ラ、ウ、ルっ……」

 ララに口づけながら、ラウルが「キスだけ」と言った。

「んっ」

 すでにラウルの舌がララの舌を絡めとり、逞しい腕に抱き竦められ、超至近距離でラウルの黒い瞳に見つめられると、ララは身動きが取れない。
 ちゅっちゅと唇が鳴るたびにララから抵抗する気力も思考も奪われていく。

「は、は、キ、キス、だけ……?」
「ああ、キスだけ」
「でも……」
「おまえがさっきの警備兵にあんな顔を見せるからだ……」
「顔……?」
「愛くるしい顔で笑った」
 ちゅっ
「んっ」
「俺以外の男に……」
 ちゅっ、ちゅ
「そ……」
 ぱちゅ
「だから罰を」
 ちゅちゅっ
「は…」

 行きつく島もないラウルの唇は、頬を滑って耳たぶを咥えた。

「ひゃ」
「ああ、そんな顔されると抑えるのが難しいじゃないか」
「そ、そんなこと……」

 言われてもという言葉が続けられない。
 頬を撫でていた指が脇腹を撫で、腰を撫でている。
 舌は耳をなぞっている。

「はーはー、キスだけって……」
「キスだけだ」

 ラウルの唇が首筋を通って鎖骨を這う。

「う…ラウル……」
「キスだけだろ?」

 指がララのシャツを簡単にはだけてゆく。肌着をめくり上げて丸い乳房を持ち上げると、乳首を口に含んで吸った。

「あぅっ」
「キスだけだ」

 キスだけだと言い張るラウルの行為に抗えない。全身が燃え上るような快感の炎に焙られてゆく。
 でも一方的なのは癪に障る。

「はぁはぁ、ら、ラウル、私もキスしたい」
「え……」

 一瞬戸惑って動きを止めたラウルの肩に掴まって唇にキスした。
 何度も啄むようにキスすると、ラウルがわずかに逃げるので、面白くなって顎に両手を添えて追いかけると、急にぎゅうっ抱きすくめられて形成が再び逆転した。

「ふ…ぁ…」
「ああ、ララ、おまえはたまらない」

 どうやらラウルは、ララに追いかけさせるためにわざと逃げていたらしく、思い切りララを抱きすくめた後はさらに大胆になった。
 気づくとララはほぼ全裸になっていて、長椅子の床に跪いたラウルに両足を大きく広げられ、艶やかな黒髪が足の間に埋もれていた。

「ひゃっ、わ、あ、あぁ、ラウルッ……!」
「キスだけじゃないか……」

 ラウルの淫らな黒い眼が、上目遣いでいたずらっぽく煌めいている。
 足を閉じて抵抗しようとしたが、ラウルは許してくれない。ララの身体の中で、最も敏感な蕾にラウルのキスの雨が降る。ねっとりと濡れた舌が押し付けられ、そこを転がし、何度もこすり、唇が吸って啄んで熱い息をかけてくる。

「あっ、ああ──っ」

 ララが脳天を突き抜ける鋭い快感に、硬直したようになってびくびくと全身を震わせていると、ラウルが手の甲で濡れた口元を拭いながら言った。

「はぁはぁ、ダメだ。これ以上すると我慢できない。本番は初夜に取っておきたい」
「はぁはぁはぁ……」

 ララは息の上がった顔で、これでリハーサルだというなら、本番はいったいどうなてしまうのだろうと、ぐったりとラウルを見つめながら思った。
 大体、こんなことをしている場合じゃないのに―――。




 

 
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