辺境の賢者バルルーフ

【１章】

【第五話】師弟

バルルーフに許しを得て、魔法に関する書物を読み始めてから数日がたった。
ある日バルルーフのもとに一人の青年が訪ねてきた。
「先生！またご自宅に人を上げたのですか！？」
青年は私を見るなり大きな声でバルルーフに問いかけた。
カルティアは物陰に隠れた。
「自分が治める国の民衆に見捨てられた哀れな老人といい。得体のしれない者をこれ以上ご自宅に上げないでください。」
「得体のしれないとは失敬な。」
カルティアが小さな声で文句を言った。
「あの青年は？」
私もカルティアと共に物陰に隠れて尋ねた。
「先生を慕したうマルコという名の若造だ。」
「バルルーフは本当に先生だったんだな。」
「先生はただの先生ではありません！このエイスタット統一に貢献した英雄の一人であり、随一の魔法使いです。」
マルコは自分のことであるかのようにバルルーフの偉大さを自慢げに語り始めた。
「マルコ、私はそんな大層な人間ではない。国を追われている身だ。」
バルルーフが自虐じぎゃく的に言った。
「それは愚おろかな民衆の誤解です！先生に対する誤解を解消することこそ、弟子でしとしての願いでございます。」
バルルーフは困り顔になった。
「それにしても先生、今日こそこの仮住まいを出て、民衆を正しい道へと導く旅に出ましょう！」
バルルーフは黙だまって首を横に振った。
それでもマルコは粘り強くバルルーフを説得しはじめたが、バルルーフは最後まで頷うなづかなかった。
「また来ますからね！」
マルコは捨て台詞を言って帰っていった。
「相変わらず無礼な若造だな。」
カルティアが愚痴ぐちをこぼした。
「確かに若い。しかし熱心な勉強家で、自分の信念をもって行動する賢者の一人だ。」
バルルーフはマルコのことをそう表現した。