マルディグラの朝

1.早朝のBSテレビ

澄み切った青空の下、黄色とピンクの風船をいっぱい積めこんで、オレンジ色のフラワーに彩られた大きな山車フロートが姿を見せると街頭の人々から歓声が上がる。ニューオーリンズに、マルディグラの季節がやってきたのだ。
あたしたちはテレビの画面いっぱいに映し出された山車フロートを注視した。今度は、キンキラキンに輝くはりぼてでできたお城だ。大きな白い羽根のついた青い鎧兜を身に纏った中世風の騎士団たちが、街頭の見物人たちになにやら投げつけている。
「あれー、イミテーションの宝石小ぐゎーっし作たるネックレスやさ」
松葉杖をテーブルの側に置きながら父が解説すると、母があくびをかみ殺して、ふうんと相槌を打った。
「はっさ。うさきーなー大盤振る舞いっし。名古屋のお嫁入りぬ如ぐとーいびーさや？」
「ま、似ちょーるーだな。二つたーちとも、春ぬ予祝儀礼んでぃる物やくとぅ」
調子に乗った父は母の横で解説を続けている。多恵子、これがカーニバル、謝肉祭ってやつだよ。嫁入りの場合は人生の春で、マルディグラは本当の春のお祝いさ。大騒ぎしながら冬の悪魔を追い払って、春の神様を迎え入れる、全世界共通のお祭りなんだ。

二人に構わず、あたしは息子と食い入るようにテレビの画面に見入っていた。もうすぐダニエルの出番だと思うけど……。あ、来た、来た！　真っ赤なイギリス衛兵風コスチュームに身を包んだダニエルが、金色のトランペットを吹きながらご機嫌なステップを刻んでいる。
ほら穣治じょうじ、お父さんだよ。ようやく念願だったマルディグラのパレードに出れたんだね。テレビに映ってたよ、カッコよかったよって、あとでメールしなくちゃね？　（２.へつづく）