サザン・ホスピタル 短編集

野球帽の少年

7.兄の三十三回忌と、その一年後

At Nishihara Town, Okinawa; August 10, 2004.
At Nishihara Town, Okinawa; July 30, 2005.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.

二〇〇四年八月十日。
今日は兄の三十三回忌です。朝からお重を備える準備をしています。
火曜日だから、リハビリ担当だった勉は早めに戻ってきてくれた。車の音に驚いて犬のゴンゾーがワオーンと吠えたので、寝ていた八ヶ月の壮宏たけひろが泣き出した。
「来ちゃーびらさい」
「ごめん勉、悪いけど壮宏見てくれない？　今、台所で手が離せないのよ」
勉が玄関先に松葉杖を置いて、右足を引きずりながら壮宏をあやしている。壮宏はあたしに似ているってよく言われるけど、お父もお母も、兄の生まれ変わりだと言い張って譲らない。そりゃそうだ。だって、勉とあたしの子供だもの。兄に似て当然だ。
仏壇にうーとーとー（手を合わせ拝むさま）し終えると、勉がそっとつぶやいた。
「いま、お兄さんにお願いした」
「何って？」
「もう一人下さいって」

……い？

「ちょっと、あたし、そろそろ職場復帰したいんですけど？」
「ごめん、多恵子の気持ちは良くわかるけど」
勉があたしの顔を見ながら続けた。
「俺も多恵子も一人っ子だし、壮宏たけひろにはいとこもいないんだよ？　せめて弟か妹くらいは」
側でお父とうが相槌を打った。
「多恵子、童わらびやただ作つぃくい欲ぶさっし、出来るものやあらん。天てぃんからぬ授かりものどぅやる。成ないる内なかい成いる事すしぇー、ましやあらに？」
あーあ。そんな風に言われたら、職場復帰の決心が揺らぐなー。

一年経ちました。
神様の思し召しかどうかよくわかりませんが。二〇〇五年の八月を迎えようとしているあたしはまたもや臨月です。西原の実家でごろごろしています。にしても、予定日が今度の十日って、あまりにも話ができすぎていると思わない？

ま、丈夫な子が生まれてくれれば、それで良しとするか。
（野球帽の少年：ＦＩＮ）