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3.入院風景 二日目昼

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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; from February 15, 2003.
The narrator of this story is Akane Sato.

どうやら、この部屋は二人部屋のようだ。隣のベッドは空らしい。それで先生が横になっていたわけね。ふーん。
やがて、看護助手のおばちゃんがお絞りを持ってきてくれた。ここへきて、初めて顔を拭く。ふう、さっぱりした。
紙コップにお茶をもらう。これは、ほうじ茶かな? あったかい。
「あとで、売店さんが回るから、茶碗買いなさいね」
おばちゃんの言葉に無言で頷いた。

看護師さんが来て点滴が外れる。体温と脈拍を測り、左腕は三角巾で固定。
「ちょっと微熱がありますね。一応、このフロアだけなら出歩けますよ」
要するに、まだ監視されてるってわけだ。

朝食が終わり、やることもなく窓を眺める。あー、歯磨きしたい。気持ち悪い。
そういえば、テレビがある。これ、カード式みたいだ。カード買えってか?

このフロアだけなら歩いていいそうなので、財布を片手に、早速、起きて出歩くことにする。
まず洗面所へ行き、置かれている石鹸で、右手で顔を洗い、簡単に口をすすぐ。
ちゃんとした洗顔料を使いたいのは山々だが、なにもしないよりはずっとましだ。けど、化粧水と乳液が欲しい。

廊下をふらふらと歩くと、ナースステーションに突き当たる。
ちょっとした交差点っぽくなっていて、左側がロビー。右側をちょっと歩くと公衆電話。その側に、テレビ用カードの自販機がある。
なになに、千円で十二時間? 財布の中を覗き込んで思案する。茶碗と、歯磨きセットと、化粧水と、乳液その他の購入費用を考え合わせると、……うーん、ちょっと、高いな。

「お姉ちゃん、カード要るね?」
歩行器を押しながら男性のお年寄りがやってきた。腰にコルセットを巻いている。
「うり。わん今日ちゅー、退院やくとぅ」
そういって、まっさらなカードをくれた。ラッキー!
「ありがとうございます」
お礼を述べると、お年寄りは肩から三角巾で吊り下げられたあたしの左腕をしげしげと眺めた。
「お姉ちゃん、怪我したのねー?」
「ええ、まあ」
まさか自殺しようとしたとは言えず、あいまいに頷いた。
「気をつけないといけないよー。頑張りなさいねー」
何を頑張るのかはよくわからなかったが、あたしはもう一度頷いて、病室へ帰り支度に戻るお年寄りを見送った。

部屋に戻り、カードを入れてテレビをつける。お、CSが入るんだ。
ミュージックチャンネルに合わせ、しばしチャート番組を楽しむ。

これが昨日、死のうとしてた人間のやることかよ? ま、いいか。

十一時前。売店のおばちゃんが巡ってくる。いろいろ買い込んで二千円近く飛んでしまった。
ああ、お金がなくなっちゃうよ。
そういえば、あいつに預金通帳、持っていかれたんだった。もう引き出されちゃっただろうな。
この先どうしよう。どうしたらいいだろう。

お昼ごはんがきた。カレーライスだ。とりあえず食べる。朝ごはん、食パン1枚に野菜ジュース1パックだったもんね。ようやくお腹が膨れた気がする。

コツコツコツ。病室のドアを叩く音がする。
「よう、調子はどう?」
あー、上間先生だよ。あたしのカレーライスを見て顔をしかめている。
「うわっ、カレーだ」
あまりにも渋い表情に思わず聞いてしまった。
「お嫌いなんですか?」
「嫌いというより、苦手」
本当に嫌そうだ。しきりに首を振っている。
「半分も食べたのか。それだけ食べれるんなら、すぐに退院できそうですね」
そうつぶやく先生に、思わず叫んだ。
「でも先生、あたし、お金ないよ?」
「お金?」

仕方がない。あたしは先生に話した。全部。
去年、ダイビングが好きだという男に出会ったこと。
一緒に沖縄でダイビングショップを持とうという話になったこと。
務めていた会社を辞め、両親の反対を押し切って、沖縄に来たこと。
だけどその男に昨日、有り金を全部奪われて去られたこと。

話していて、涙が溢れてきた。
悔しくて、悲しくて、自分がこの上なく哀れに思えてきた。
あたしは、右手でシーツをぐしゃぐしゃに丸めて、顔を押し付けて泣いた。

先生は最後まで黙って聞いてくれた。やがて、先生はあたしの肩を優しく叩いた。
「心配しなくていいよ。ソーシャルワーカーさん、呼んであげるから。相談してごらん?」
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