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2.入院風景 初日から翌朝

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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; from February 14 to 15, 2003.
The narrator of this story is Akane Sato.

あたしは看護師さんに、おとなしく血圧や脈拍を測られた。
「安定してきましたね」

安定ねー。死のうと思ってたんだけどね。

看護師さんはあたしの左腕を持ち上げて、肘に枕を置いた。上げたままにしておかないといけないらしい。
「三日間は入院ですよ。ご家族にご連絡取りたいんですけど」
「イヤです」
即答した。冗談じゃないよ。
ここは沖縄、県外から呼び出したりしたら、飛行機を手配するしか方法がない。むしろ、県外だから、黙っていればわかりっこないのだ。それに、勘当した両親の顔なんて見たくもなかった。

「でも、保険証を持ってきてもらわないと。それに、入り用なものも、おありでしょう?」
「親は県外で、私は一人暮らしですから。ここ出たら、持ってきます」
「……そうですか」
看護師さんは血圧計のマンシェット(帯)を外した。
「お名前、伺ってもいいですか」
「佐藤あかね」
「お年は?」
「二十五歳」
「何かアレルギーはお持ちですか?」
「いいえ」
質問にポンポンと答えた。気分はほとんど、捨て鉢だった。
「何かお飲みになりますか?」
あたしは首を振った。一人にして欲しかった。

白衣を着た上間先生が戻ってきた。おや、ヒゲ剃ったんだね?
「調子はどう?」
松葉杖を置き、看護師さんからカルテを受け取って尋ねた。
「一人にしてください」
「そうはいかないですよ、佐藤さん」
静かだが強い口調だ。
「今晩は付き添いますから」

え? まじで?

「隣のベッドで待機してますからね」
上間先生はそう言うと、松葉杖をついて隣のベッドへ移動した。枕を右膝の下に突っ込み、寝転がって、こっちをじっと見てる。

何か、嫌な気分。
目を合わせることに耐えられず、あたしはそっぽを向いた。

気がつくと、朝だった。そのまま眠ってたみたいだ。
あたしは寝返りを打とうとして、右腕を引っ張られる感覚に気づいた。そっか、点滴してましたっけ。ここは病院だった。
左隣を見ると、ベッドに寝転がっている白衣の男が一人。
……寝てるじゃん。
あたしはそっと起き上がり、気づかれないように動こうとした。しかし、
「おっ、起きたね?」

げっ、もう起き上がってる。反応が素早い。

「トイレ行きたいだけです」
「わかった。ちょっと待ってて」
言った先から、またナースコール押してる。
「一人で行けますってば」
「そうはいかないんですよ。患部を汚されたら困るし」

そんな。腕組みして、こっち睨まないでよ。

「どうされました?」
昨夜とは違う看護師さんだ。
「お手洗いに付き添ってあげてください」
「一人で行きますって」
「ダメです。当分、単独行動は禁止です」

上間先生はずっとあたしを睨んでいた。何なのよ、本当にもう。うざったい。

トイレを済ませて病室に戻ると、窓のカーテンが開いていた。夜明けが近いのだろう。うっすらと雲がピンク色に染まっている。
「換気しますね。寒いけどちょっと我慢して」
先生が窓ガラスを開けた。二月の海風が肌に冷たい。
「気分はどう? 八時には朝ごはんだけど?」
「食べたくない」

突っぱねようとしたら、お腹がグーッと鳴ってしまった。最悪。
くすくすという笑い声が聞こえる。何さ、もう。

「黒砂糖の飴玉なら、あるよ?」
そう言って先生は、目の前に飴玉の小袋をちらつかせた。
こいつ、意地悪だ。なんで、こんな奴が主治医なんだ?

「そんなに睨まないで。かわいい顔が台無しだよ?」

初めて、気がついた。満面の人懐っこい笑顔に。
突っぱねる気力が失せた。

先生は小袋を開け、飴玉を摘み、
「はい。あーん」
と、あたしの目の前に持ってきた。
自然に口が開いてしまった。
口中に転がる飴玉は、甘くて懐かしい味がした。
「おいしいでしょ?」
釣られて顔の表情が緩む自分がいまいましくって、あたしはプイと顔を背けた。

「じゃ、朝の回診があるから。またね」
そう言い残して、先生は松葉杖をついて病室を出て行った。

足の悪い変な医者。でも、ちょっと、憎めないな。
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