サザン・ホスピタル 短編集

華より饅頭(まんじゅう)

1.島袋(しまぶくろ)桂(けい)の現状報告+愚痴

At Nishihara Town, Okinawa; May, 2007.
The narrator of this story is Kei Shimabukuro.

最近、多くなったなー、妙な問い合わせが。
「島袋さん、まだ結婚しないの？」
……どこぞで多恵子のバカが変なことしゃべったみたいだな？

うるせーってば。人のプライバシーは放っておいてくれよ。多恵子も多恵子だ。自分どぅーが結婚する前は
「あたし、出会いがなくって、ナースは忙しいし」
とか言って逃げていただろ。上間の気持ちも知らないで。
それが、結婚して子供が二人できたとたん、今度は俺にその話題、振るか？
記憶力というか脳みそという奴がお前には無いのか？

え？　三十を超えた男が一人じゃなにかと不自由だろうって？　何が？
俺、一応、実家に住んでるしなー。アパートに住んでいたこともあったけど、親父の仕事手伝うときに、ちと不便でな。ネットワーク繋いでさえいればIT産業に仕事場の距離なんて関係ないといえばないんだけどさ。ところが、ここは夏場に台風ってものがありましてね。ほぼ年に一、二回、電気や電話線が切れるんですわ。アンテナ基地局が倒れたら携帯もアウトです。実家には発電機があるし、スタンドアロンのPCを使えば情報漏えいの心配もない。
メシは、家ではあまり食ってねーな。マスコミ関係だと出先で済ますことが多い。洗濯物は母親のお世話になってます。でも部屋の掃除とか庭の草刈りくらいはするぜ。そういや今年も、裏庭に月桃さんにんがうじゃうじゃ生えてジャングル作ってたな。田中一村の日本画かって勢いだった。ちなみにここは奄美じゃありません。沖縄本島です。

そういえば、昨日は姉貴が来てた……あ、俺には六つ上の姉貴がいまして。二十二で結婚して子供が三人いる。派手な服着て歩く中学の女の子と、生意気盛りな小学校高学年の男の子と、それから、いまはお腹の中だから性別不明だけど、生まれたら生まれたでまた大騒ぎになるんだろう。
この姉貴がなぁ、たまに実家に帰ってきたら旦那と子供の愚痴ばっかりなんだよ。やれ構ってくれないだの、出費が多いだの、学校の成績が悪いだの。そのくせ、俺にはいい人いないのかって、やたらうるさい。
じゃ、あんた、なんで結婚したの？　文句あるなら、なんで三人目作ったの？　しかも、そんなに大量のポークの缶詰を普通持って帰るか？　第一、あんた妊婦だろ？　結局、俺があんたの車まで担ぐ羽目になるんだろが！
もっとも、娘の愚痴を聞くだけ聞いて、缶詰まで１ケース丸々持って行かれて文句一つ言わないうちの両親も両親だよな。

世の中ってのは本当に、筋が通らないというか、訳がわからない。
結婚は人生の墓場って言葉が一方で語られ、自分の家庭や家族を卑下する風潮があるのに、どうしてヒトにはむやみに結婚や出産を勧めるんですかね？

何？　性欲の問題？　下世話なことを、よくもまあストレートに聞くねー。
はっきり言いましょうか。コンピュータいじくってる男は、そっち方面は淡白な奴が多いです。ですから心配ご無用です。十代の若者だったら時限爆弾抱えているみたいなものだから、いろいろ考える必要もあるでしょうが、三十超えたら自己処理なんて慣れっこです。それから「萌え」という感情を理解しないわけではないが、そっち系の趣味は俺は皆無です。

あのね、結婚っていうのは人と人との繋がりが基本なんだから、心から信頼できる相手が見つかって初めて考えるってものでしょうが。今は放っておいて。
……だ、か、ら、多恵子、みどりのことは、もうしばらく黙ってろ。いいな？