サザン・ホスピタル 短編集

麗(うるわ)しの黒髪

2.周囲の反応

At Ginowan City, Nakagusuku Village,and Nishihara Town, Okinawa; September, 2010.
The narrator of this story is Tsutomu Kochinda(Uema).

やがて、壮宏たけひろが学校から帰って来た。
「ただいまー。……お、お父さん？」
びっくりして目を見開いた後、一言。
「カッコわるーい！」

最初の第一声がそれかい？
そういう君は、今ちょうど上の前歯が生え変わったばかりで、はーもー（歯が無い状態）じゃないか。カッコ悪いの、どっちだよ？
続いて、理那りなが空手道場から帰って来た。
「ただいまー　……あ？」
そして僕を見るなり、目玉が飛び出るような表情になり、
「知らないおじさんがいるー！　うわーん！」
と、大声で泣き出した。

髪からじ染すみらんねー、人盗人ひとぬすびと（誘拐犯人）んでぃ言らってぃ、染すみてぃ後からやまた今度くんどー、汝いゃーが泣ちゅるばすい？

夕方、多恵子が昼勤から帰って来た。
「ただいま。あれ？　きゃははは！」
僕の顔を見て、お腹を抱えて爆笑している。
「つ、勉の髪が黒い！　うっそー、おっかしー！　きゃははは！」

僕は天を仰ぎ、一人でつぶやいた。
なんでかねー、だっからよー、であるわけさー。

翌日。サザン・ホスピタルに出勤したら、スタッフ全員から爆笑された。
「うっそー！　上間先生の髪が黒ーい！　あははは！」
そ、そんなに、おかしいですか？
「頼むから、しばらくオペに入らないでねー。上間先生の顔見たらメス握れそうもないわー」
美樹先生、普通、そこまで言います？

照喜名てるきなはうつ伏せになったまま肩を震わせているし、千秋さんは朝からずっと笑い転げてるし。
回診してたら、今度は患者さんの一人が感慨深げにこう漏らしましたとさ。
「上間先生、やっと反抗期終わったんですね？」
あの、俺、三十七歳で子供も二人いるんですけど。患者さんからずーっと反抗期って思われてたわけ？　どんな医者だよ？

でもさ、さすが、師匠と東風平こちんだの母は違うね。
確かに、ちょっとだけ笑ってたよ。
「今日ちゅーや稽古、ないがやー？」
そう言ってサンシン構えてニコニコしていたけど、いつも通り二時間みっちり稽古した。厳しさも普段と全然変わらなかった。人間として生まれた以上、ああなりたいものだ。

そうこうして瞬く間に二週間経過し、新たな問題が持ち上がった。
髪が生えてきた。金髪だ。当たり前だ。でも黒い髪の後だから白髪に見える。げげっ！

あまりにもカッコ悪いので、オフの日に断髪屋だんぱちやーに行って丸刈りにしてもらった。丸刈りなんて、シラミの生活指導を受けた小学校二年生の時以来だ。
家へ帰ると、多恵子がニヤニヤしている
「そっかー、そういえば勉はタッペー（後頭部が絶壁状態）だったよねー？」
うるさい。多恵子、俺とお前は幼馴染だ。しっかり覚えているぞ。
「多恵子、汝いゃーぬ頭つぃぶるや、ガッパイ（後頭部が突き出ている状態）やたんや？」
すると多恵子が僕を睨んで、言い放った。
「あげ、そんなこと言うわけ？　夕飯あげんよ？」

ごめんなさい。降参です。夕飯なかったら困ります。僕は多恵子に謝りながら心の中で誓った。
くっそー、もう、二度と、絶対、染めん！
（麗(うるわ)しの黒髪　ＦＩＮ）