サザン・ホスピタル 短編集

くるみあるく

文字の大きさ
上 下
80 / 102
麗(うるわ)しの黒髪

1.上間(うえま)勉(つとむ)、現行犯逮捕されかける

しおりを挟む
At Ginowan City, Nakagusuku Village,and Nishihara Town, Okinawa; September, 2010.
The narrator of this story is Tsutomu Kochinda(Uema).

ちょっと、皆さん。聞いて下さいよ。先日、僕、現行犯逮捕されるところだったんですよ。
何か悪いことしたのかって? 全然!
オフの日の夕方、宜野湾海浜公園を娘と散歩していただけですってば。
たまの休日、保育園を一日くらい休ませたって、いいじゃないですか。

公園の近くでアイスクリン屋さんが営業していらっしゃいまして。
理那りなは英語が好きなので、たまたま、こんな会話してたんです。

“Daddy, I want to eat an ice cream. Can you get me that ?”
(お父さん、アイスクリーム食べたいな。あたしにちょうだい)

“No, you can't eat more today.
(だめ。今日はもうこれ以上あげない)

“Why ? Does Mommy tell you so ?”
(どうして? ママがそう言ってたの?)

“Because you won't eat dinner if you eat now !”
(だって今食べたら君は夕ご飯食べないでしょ!)

すると、理那が泣いた。あのね、君。泣けばいいってものじゃないでしょう?
そしたら、警官が来たんですよ。すぐ職務質問。

“Excuse me, Sir. Could you come us together ?”
(失礼、一緒に来てもらえますか)

「あの、僕、日本語話せますが」
「では、宜野湾署までご同行願えますか? 念のため、確認したいことがありまして」
「何か不都合でも?」
「松葉杖持った金髪の外国人が女の子を誘拐している、と通報がありまして」
何だって?! ちょっと、僕は日本人で、理那は俺の娘だよ?

僕は免許証を見せた。障害者って明記されてるけど、ゴールドだ。これで納得してもらえるとおもったのに、そうはいかないらしい。
「いやー、最近、外国人による犯罪が多発しているんですよ」
だ、か、ら、俺は日本人だって言ってるだろ!
「髪も、目も、肌の色も全然違いますしねー」
それは神様に聞いてくれ。
確かに僕は金髪、理那りなは黒髪。僕の目はブラウンで、理那は黒い瞳。僕はアメリカ系クォーターだから色白だけど、夏中暴れていた理那の肌は真っ黒コゲ。
似ても似つかないけど、とにかく、俺の子に間違いないんだから。

「何があったんだ?」
半袖のYシャツを着た長身の男性が近寄ってきた。
「あ、矢上警部。今、この容疑者から事情聴取を」
なに、矢上だって? 僕がそう思う前に叫び声がした。
「あー、上間じゃねーか!」

そう。僕の目の前にいるのは、矢上明信あきのぶ。中学時代のクラスメートだ。そういえば、こいつ刑事だったな? いつから宜野湾署に配属されたんだろ。まあいい、とにかく、僕の濡れ衣を払拭してもらおう。
僕は素早く彼の手を取り、縋った。
「矢上、頼む! この子、俺の子なんだよ!」
「お前の子?」
矢上はしげしげと理那りなを見つめている。僕は必死だ。
「顔の輪郭見てみ? 俺に似ているだろ?」
「うーん、でも、どっちかというと多恵子に似てるかな?」
そうか、多恵子の写真を見せればいいのか。
僕は財布から、多恵子が大口を開けてハンバーガーにかじりついている写真を抜き出した。これが一番彼女らしい写真だからだ。

みなさん、呆気に取られて写真を眺めている。
「奥さん、口、大きいですねー」
普段は普通の大きさなんだけどなー。多恵子さん、ごめんなさい。もっと別の写真持っとけば良かったね。
「上間、これ、いつの写真か?」
「十年くらい前だはず。見ろよ、このゲジゲジ眉毛。この子にそっくりだろ?」
まったち、そのまんまやっさー」
良かった。これで、僕の誘拐容疑は晴れた。
「お前、男の子もいたよな?」
「ああ、今、小一だ」
「そうか。うちのが小二だからな」
あれ? 矢上、子供居たっけ?
「姉貴の子供を養子にしようと思っててさ。うちのカミサンは体が弱いし」
矢上が軽くウインクしながら言う。そうか、君の家庭もちょっと複雑だったっけな。
「じゃ、多恵子によろしくな」
そう言って矢上は部下の警官を引き連れ、笑顔で僕らを見送った。

で、考えたわけですよ。
白髪も増えてきたことだし、また誘拐犯に間違われるのもシャクだから、ちょっと染めてみようかな、と。

理那りなを空手道場に送り届けたあと、帰りにショッピングセンターへ寄ってヘヤカラー買ってきた。僕はちょっと肌が弱いので、興味はそそられつつ、かぶれるかなーっと思って今まで敬遠していたのです。が、最近は随分、良くなったみたいだね。安いし、匂いもそんなにきつくないし。それに、結構、簡単に染まるものですな。
眉だけ金色の毛のままだと変なので、多恵子の化粧品ボックスから眉毛用のマスカラを借りた。うん。悪くないや。
借りるついでだ。ビューラーで睫毛まつげもキュッと上げとくか。そういえば、ホストやってた頃はよく使ってたっけなー。よし、我ながら、いい感じに仕上げたぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく
恋愛
1980年代〜2000年あたりの現代沖縄、後半部はロサンゼルスを交えた舞台に展開する青春ドラマです。最初の作品発表は2005年(当時アルファポリスに外部URL登録していました)。現在、ノベルアップ+に連載している内容をこちらへ再収録します。 糸満市生まれの上間(うえま・つとむ)はアメリカ白人系クォーター。西原町へ引っ越した後も、金髪で色白な容姿を理由に同級生らからイジメの対象になってます。 ある日、勉はいじめっ子たちから万引きするよう脅迫され、近所の商店からチョコレートを盗み出そうとして店主にとがめられ、警察へ突き出されそうになります。窮地を救ったのは同級生である東風平多恵子(こちんだ・たえこ)の父親、長助でした。長助はチョコレート代金を払って勉を連れ出すと、近くの公園でサンシンを演奏しはじめます。サンシンの音色に心を動かされた勉は以後、多恵子に内緒で長助からサンシンを習い始めます。 演奏の上達とともに自分に自信をつけ始めた勉はもともと頭が良かったこともあり、席次はつねにトップ。中学では級長に選ばれるまでになりましたが、多恵子にはサンシンの件をずっと内緒にしつづけます。 人命救助に当たったことをきっかけに、勉は医者になりたいと願うように。ちょうどその頃、第二アメリカ海軍病院であるサザン・ホスピタルが優秀な人材を確保するため奨学生の募集を始めた、という情報を耳にします。母親が夜逃げするという事態が起きた後も、長助夫婦らは彼をサポートしつづけるのでした。 やがて勉は国立大学医学科に合格し、サザン・ホスピタルの奨学生として奨学金をうけながら医師国家試験の合格を目指します。一方、東風平夫妻の一人娘である多恵子は看護師として働き始めました。勉が研修医としてサザン・ホスピタルに勤め始めたのをきっかけに、多恵子もまた自らのステップアップのためサザン・ホスピタルへ転職します。 多恵子のことを今までウーマクー(わんぱく、おてんば)な幼馴染としか思っていなかった勉でしたが、同僚としての彼女は想像以上に優秀な看護師でした。やがて勉は多恵子を意識するようになりますが、天然な多恵子は全然気にする様子がありません。はてしてこの二人、どうなっていくのやら……?  沖縄那覇方言/日本語/英語を使用し、爽やかさ全開トリリンガルにお届け。

ももたろう~the Peach Boy

くるみあるく
児童書・童話
「サザン・ホスピタル短編集」の登場人物8名による昔話・桃太郎の戯曲(?)です。沖縄方言と英語のナレーションで進行します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

浦島子(うらしまこ)

wawabubu
青春
大阪の淀川べりで、女の人が暴漢に襲われそうになっていることを助けたことから、いい関係に。

処理中です...