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悪魔が連れてきた天使

9.天使、沖縄へ帰還する

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At Naha City, Okinawa; July, 2001.
At Dundee, Scotland; 2003.
The narrator of this story is Yuta Terukina.

十日ほど経って、僕が久々に自宅へ帰宅したときのことだ。自宅の電話が鳴った。母が出てすぐに僕を呼び出した。
「裕太、イギリスのあきらからよ」
眠かったけど、電話口に出た。メールのやり取りはしていたけど、輝の声を聞くのは二年ぶりくらいだろうか。
「Congratulation!  兄貴、結婚するんだろ?」
はい? 何だって?
「お前、何、寝ぼけてるんだ?」
「里香さんから聞いたよ。結婚するって」

……え? 里香さん?

訳がわからず茫然とする僕に、あきらがたたみ掛ける。
「いい人だよなー。うちの彼女とも気が合って、もう仲いいのなんのって! もう俺、大賛成だよ。式にはちゃんと参加するからね。日取りが決まったらすぐ知らせてよー! じゃあな!」
「あ、輝、あの、それ、どういうこと?」
すると、突然、耳元で懐かしい声が響いた。
「裕太、聞こえる?」

り、里香さん?

「ということだから。明日、沖縄に帰るからね。迎えに来てよ? じゃあねー」
ガチャンと、電話が切れた。ツーツーという音が響く。

あのね、里香さん。とってもとってもうれしいけど、僕、便名がわからないよ?

もっとも、それは取り越し苦労だった。彼女からはきちんとメールが届いてた。イングランドでアロマテラピーの講習を受けながらも、僕のことばかり考えていたと。このまま留学を続けても無意味だから、一度切り上げて沖縄に帰ります。そう書かれていた。
急いで上間先生と連絡を取った。彼女は明日、帰ってくるのだ。迎えに行くためには僕の患者さんをすべて先生にお願いする必要があった。
「心配するな。行っておいで。粟国あぐにさんによろしくね?」
現職に復帰した上間先生の、とても元気そうな声が返ってきた。僕は感謝した。

翌日の午後。僕は那覇空港のロビーで里香さんを待ち構えた。到着ロビーに現れた彼女に飛びつき、何度も何度もキスをした。
「ち、ちょっと、裕太?」
彼女は焦っていたけど、人目なんて全然気にならない。なんたって僕はスコットランド育ちですから。人前だろうとどこだろうと、好きな人と愛を語ることに、何のためらいもありません。
あ、でも、そういえば、言わなくちゃいけないことがあった。
僕は車の中で真っ赤になりながら、里香さんに、手短に割礼のことを話した。
「ふーん、そうなんだ?」
里香さんは何でもないことのように受け止めていた。サザン・ホスピタルの看護師として多くの外国人患者さんの尿道カテーテルを扱った経験を持つ彼女には、どうでもいいことだったみたいです。

一週間後、僕は里香さんを連れて、父と朝紀とものりと祖母に引き会わせた。父は渋い顔をしたが、朝紀と祖母は大賛成だった。母が根回ししてくれていたのだろう。
後に、照喜名てるきな家の親族会議の席上で僕の結婚が取り沙汰されたそうだ。誰もが、沖縄の経済界の重鎮の令嬢との見合い話を進めたがっていた。が、
「裕太んかいや、なー(もう)、さだまとーるっちゅをぅくとぅ、終わり!」
祖母がこう一喝して、打ち切ってしまった。宗家の最長老の発言は絶対で誰も逆らえない。祖母が僕をかわいがってくれてて、よかった。

半年後、僕は父の紹介でダンディ大学の医学部にある研究室に籍を置くことになった。
そして今、スコットランドのダンディの街を、里香さんと歩いている。いや、正確には里香さんは臨月だから、合計三人だ。男の子でも、女の子でも、元気に生まれてくれるならどちらでもいい。将来、日本人になってもイギリス国籍を選択しても構わない。とにかく、僕みたいにうじうじ悩まないでのびのびと育って欲しい。
スコットランドの街並みは本当に素晴らしいけど、最近、沖縄もいいかなーと思うようになってきた。なにせ沖縄の海は、世界有数の美しさだもの。

今度は親子三人で、中城なかぐすく湾を眺めようね。
おっと、乗り物は絶対、BMWだよ。バイクのリアシートは、もうこりごり。
(悪魔が連れてきた天使  FIN)
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