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がーじゅーみやらび(我の強い美童)

5.粟国(あぐに)里香(りか)、気づく

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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; from summer to winter, 1999.
The narrator of this story is Rika Aguni.

あたしと多恵子、そして千秋の三名は、年が近いこともあって、一緒に行動することが多かった。共に笑い、共に励ましあい、時には愚痴を言い合ってストレスを発散した。
あたしも千秋も、上間先生に熱を上げていた。でも、ある日、気がついた。

多恵子が、病棟に訪ねてきた製薬会社の方を事務室へ案内していたときだ。一緒に案内しながら、あたしはただならぬ視線を感じて後ろを振り返り、ギョッっとした。
上間先生が、ものすごい形相でセールスマンの背中をキッと睨みつけていたのだ。

その後、あたしは何度も似たような場面に遭遇した。相手が患者さんだろうと、普通の来客だろうと、多恵子に近づく男性全員を、上間先生は睨みつけていた。
確かに多恵子は童顔で背が低く、しかも天然なキャラだから、患者さんたちからも人気は高かった。実際、多恵子に下心を持って接してくる患者さんも、何人かいた。
だけど、考えてもみてよ。175㎝もある、どうみても金髪の白人男性にしか見えない、しかも白衣を身に着けてる医者から、
“ちょっと、俺の女に手ぇ出すわけ? いい度胸してるなオイ?”
というオーラ全開で睨みつけられたら、もう何もできないよね?

なのに、多恵子は気がつかない。全然、わかっていない。
「なんで最近、みんなあたしを避けているのかな?」
そりゃ、避けるわよ。だって上間先生、すっごく怖い顔するんだもの。

スタッフ全員が、いや、常連の患者さんたちだって、知っていた。上間先生の本命が誰なのか。
当の上間先生はというと、
「いやー、師匠から多恵子に変な虫が付かないように、しっかり見張っとけって言い付けられてるんですよ」
とか何とかおっしゃってましたけど。
あのー、上間先生、両耳が真っ赤っ赤です。
耳は口ほどにモノを言うんですよ?

もちろん、上間先生は先生なりのアプローチを試みていたらしいが、相手があの多恵子だ。ちょっとやそっとじゃ気づくはずもない。千秋が、
「味噌汁を作って、と言ってみたらどうですか?」
と提案して、上間先生が多恵子にそれとなく言ったら、多恵子は
「夕食のリクエストはお母に言ったら?」
と難なくかわし、食い下がる上間先生に
「じゃあ、何の味噌汁作るね?」
と、メモ帳を取り出して何食わぬ顔で尋ねたらしい。もう、すっごい大ぼけ!
もっとも、それをしっかり食べて、かつ次回の味噌汁をリクエストした上間先生も、かなり大物ですけど。

「だから、あれには通じないって言ったでしょ?」
上間先生があきれた口調でつぶやく横で、
「やっぱり、ダメでしたかー」
千秋が慰めるように言った。
「上間先生、あたしたちから、それとなく、言いましょうか?」
あたしが心配して言うと、上間先生は首を振った。
「ありがとう。でも、自分でなんとかするよ」

そう。上間先生は、かなり難しいポジションにいた。
多恵子は上間先生のサンシンの師匠のお嬢さんで、しかも一人娘。伝統芸能の世界では、師匠との上下関係は絶対だ。あたしも妹が琉球舞踊を習っているから、よくわかる。本当に厳しい世界だ。
だから、あたしたちが下手にちょっかいを出すと、上間先生が破門されるかもしれないという事態もありえた。一度破門された人間は徹底的にマークされ、他の師匠に就けなくなるばかりか、他の芸能すら携われずに追い込まれるケースだってある。

方法はただ一つ。多恵子の方からその気にさせること。それだけだった。
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