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がーじゅーみやらび(我の強い美童)

3.新米ナース達の日常

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 At Naha City, Okinawa; September 2,1995.
 At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; from spring to summer, 1999.
 The narrator of this story is Rika Aguni.

学生同士の実習では口腔ケア、洗髪、清拭、足浴……などを飽きるほどする。看護食(糖尿病とか腎臓病とか)を食べたり、離乳食も食べるよ。
一番しんどいのは、終末期介護の授業かな。あれは、泣きました。本当に、うるうる来た。ナースだから、人生の最初の瞬間にも最後の瞬間にも立ち会うのが仕事なんだけど、改めて現実を突きつけられると、やっぱり辛いものがある。

戴帽式では、暗闇の中ローソクを持ち寄り、 ナイチンゲール誓詞を口ずさんだ。あの感動は今も忘れられない。終わったあと、みんなでミスドに行ってドーナッツ片手に乾杯したっけな。
レポートも試験も多くって、試験前は徹夜は当たり前。看護実習も数回あったけど、患者さんと接するたびに「壁」を感じた。あたし、本当は看護師に向いてないんじゃないかなって何度も落ち込んだ。
鬼餅ムーチーの季節だったかな、本土から嫁いでいらした患者さんで、月桃サンニンの香りが大嫌いという方がいた。あたしたちにとっては身近ないい香りでも、苦痛に思う方がいるんだ。ショックだったよ。
でも、あたしだけじゃないんだよね。みんな、同じ経験して一人前のナースになっていくんだよね。ナース目指してる読者のみなさん、とにかく、乗り越えることですよ。頑張れ!

なんとか看護師免許を取り、浦添のとある総合病院に勤務して半年ほど経ったある土曜日の午後。
親友の多恵子から携帯に電話があった。
「ねえ里香、今、牧志にいるんだけど、出て来れない?」
「いいよ。二十分もあれば着くよ。待ってて」
あたしはバイクですぐに飛んで行った。待ち合わせの喫茶店に着くと、多恵子がコーヒーの中をぐちゃぐちゃにかき回しながら座っていた。
「多恵子、急にどうしたの?」
「今さっきまで、勉と映画見てた」
え? それって前にバイトしてたとき見かけた、あの白人っぽい男の人だよね?
「あの金髪のカッコイイ人と? いいなー! デートだったんだ?」
そう話しかけると、多恵子はほっぺたをぷーっと膨らませた。
「里香、あんたは勉のこと何も知らないから、そんな能天気なこと言ってられるのよ。今さっき、自由解散って一方的に宣言されて、置いてかれたんだから!」
そう言うが早いか、多恵子は一気にコーヒーを飲み干した。ありゃりゃ、これは本当にお怒りだわ。あたしは多恵子をなだめることにした。
「それは、裏返せば思いやりってものでしょう? せっかく那覇に来たんだし、多恵子は女の子だから、一人でゆっくりショッピングしたいんじゃないかって考えたんじゃないの?」
彼女は納得していないようだったが、あたしがバーゲンセールに誘うと、とたんににっこりした。
よかった。機嫌直してくれて。

そんなこんなで、あたしたちはよく情報交換を兼ねてちょくちょく会っていた。
三年後、多恵子がサザン・ホスピタルに転職したと聞いたときは、本当に驚いた。中城なかぐすくにある多国籍病院で何をするんだろうと思ったからだ。
「里香もおいでよ。待遇は悪くないし、カッコイイ男の人いっぱいいるよ!」
「だって、英語しゃべらなくっちゃいけないんでしょ?」
「確かにしゃべることも多いけど、そんなに難しい会話しなくても大丈夫だよ。バースデー休暇も生理休暇もあるんだよ!」
それは確かに魅力的だ。カッコイイ人が多いとなれば、なおさらだ。あたしは、多恵子の提案に乗ることにした。

すこし遠く感じたが、西原に出て高速を飛ばせばすぐだし、丘の上から中城湾が一望でき、建物全体がとてもきれいだった。さすが、元高級リゾートホテルだっただけはある。
オリエンテーションでは英語のレベルチェックがあり、まず、あたしは日本人専用外来に回された。で、二ヵ月後には内科の日本人専用病棟ナースになった。
さすがに、夜勤明けは辛かった。よく「夜勤明けの看護師は絵画を買わされる」と言われる。つまり、それだけ仕事が大変で思考能力が落ちてるってこと。バイク乗るのちょっと怖いな。でも、コーヒー飲んで、がんばるぞ!

サザン・ホスピタルには提携の英会話スクールもあって、安く通うことも出来、スキルアップするにはまさに至れり尽くせりという環境だった。負けん気の強いあたしには、ぴったりだった。
やがてあたしは、アロマテラピーに興味を持ち始めた。あの月桃サンニンの香りの嫌いな患者さんの記憶が、あたしにはまだ生々しかったのだ。香りを通して患者さんを安心させたい。英語の力が付くにしたがって、イギリスへの留学を真剣に考えるようになった。
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