サザン・ホスピタル 短編集

がーじゅーみやらび(我の強い美童)

1.粟国(あぐに)里香（りか)、東風平(こちんだ)多恵子（たえこ)と出会う

　At Naha City, Okinawa; 1992.
　The narrator of this story is Rika Aguni.

あたしが東風平多恵子に最初に会ったのは、看護学校だった。
小柄で童顔。肩まで伸びた栗色のまっすぐな髪の毛。大きくて黒い瞳に、太い眉。そして、鼻ぺちゃ。全然お化粧をしないから、小さな耳にピアスしてなかったら、絶対中学生にしか見えない。そうそう、大きな声でよく笑う人だなーと思った。

授業が始まってすぐにあたしたちは意気投合し、一番の仲良しになった。よく那覇の街でショッピングやカラオケに興じた。多恵子とは趣味も嗜好も全然ちぐはぐだったけど、付き合っていてとても面白くて飽きることがなかった。
あたしはよく、リニューアルオープンして間もないリウボウ（沖縄の有名百貨店）へ彼女を引っ張って、化粧品売り場に連れて行ったり、ミッシェルクランの買い物に付き合わせたものだ。だから、多恵子が大人の女性らしい服装をするようになったのは、あたしの教育のたまものなのです。

彼女は生真面目なところがあるにもかかわらず、すごく抜けていた。おまけに、
「あんた、何ボケてるの」
と、こちらがツッコミで合わせてあげているつもりが
「あたしが、こんなに真面目に言ってるのに！」
と本気で怒った。これは本物の天然だ。たぶん、一生治らない。
それから、信じられないくらい、非常にお人よしなところがあった。
与儀交差点のバス停で多恵子が西原行きのバスを待っていると、いつも見知らぬ高校生くらいの男の子がいて、
「すみません、お金忘れたんでバス賃貸してください」
と頼んできたのだそうだ。あろうことか彼女は、その男の子にバス賃を貸してあげたのだそうだ。しかも、毎日！
「えー、あんたよ！　それ、絶対、おかしいよ？」
「そうかな？　悪い人には見えなかったよ？」
見える、見えないの問題じゃないと思うんだけど……。
だから多恵子を見ていると、変な男に引っかかったりしないか、心配だった。

看護学校の授業は、結構ハードだ。
看護学や公衆衛生といった机上の学問に加えて、ストレッチャーや車椅子への移動や移送、あと部分清拭や食事介助などの学内実習をする。スタッフ役と患者役に分かれて立ち回るのだ。面白いけど、しんどい。患者さん（というかクラスメート）、お、重い……。
あとベッドメーキングの実習がある。毎回タイムを計るのだけど、これが難しいのよ。きちんとやったつもりでも、うまくいかないし。本当にナースって体力勝負です。

夏休みから一年生の終わりまで、あたしは多恵子と一緒に、首里にあるホテルのラウンジでウェイトレスのバイトをした。
あたしはちょうど普通自動二輪の免許を取ったばかりで、実家のある浦添からホンダのＸＥＬＶＩＳで通ってた。実は、当時好きだった高校の先輩がバイク乗ってたの。一緒にツーリングするのが夢だった。
でも免許とる直前にフラれちゃった。知らなかったんだけど、先輩には彼女がいたんだ。すっごくすっごく悲しかったけど、こうなったらバイトでもして、いい男でも見つけようかなーっと思って、多恵子と一緒のバイトを申し込んだのだ。