サザン・ホスピタル 短編集

くるみあるく

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西原っ子純情

7.沖国大米軍ヘリ墜落事件

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 At Naha City, Okinawa; from 1989 to 1993.
 At Ginowan City, Okinawa; 1993.
 At Ginowan City, Okinawa; August 13, 2004.
 The narrator of this story is Akinobu Yagami.

中学を卒業すると、俺は那覇市内の定時制高校へ通った。
昼は、国吉先生が紹介してくれたガソリンスタンドで働いた。店長は国吉先生の最初の教え子だそうだ。とてもいい人で、よく昼飯をご馳走になった。
夜間高校にはいろいろな年代の人が通っていた。非行から立ち直った俺みたいなのもいれば、四十代、五十代の同級生もいた。毎日、クラスメートといろいろなことを語り合った。あのときの仲間は今でも俺の宝だ。
遅すぎるスタートなんてない、人生、いつでもやり直しが利く。四年間の高校生活を通して、俺は肌でそのことを学んだ。
俺みたいに非行に走りかけた奴を少しでも救いたい、だから警察官になろうと思った。必死で大学の受験勉強に励んだ。
親同士の離婚が成立し、遅ればせながら父親から慰謝料の支払いがあった。学校推薦で私立大学へ進学できると聞きつけたクラスメートたちが、俺のために泣いて喜んでくれた。

沖縄の私立大学は、授業料が国立並みに安いことで有名で、俺の通っていた大学もそのひとつだ。就職指導に熱心で、その点ではむしろ琉海大よりよかった。ただ、米軍の飛行場が近くにあり、発着陸する軍用機の爆音でよく講義が中断した。

やはり、あの事件には触れておくべきだろう。

忘れもしない二〇〇四年の八月、米軍ヘリが落ちて沖縄中が大騒ぎになった。そう、俺の母校に。
そのときのことを思い出すと今でも俺は怒りに震える。俺は県警の一員として現場に急行したが、米軍に立ち入りを拒否され、丸一日、現場検証が出来なかったのだ。
俺は叫びたかった。ここは日本だ! 俺の母校だ! まして、アメリカの植民地なんかじゃない!
加えて、オリンピック熱に沸きあがっていた日本中の、反応のなんと冷たかったことか。北方領土や尖閣諸島、南鳥島や竹島の問題がどうこう叫ぶ前に、沖縄の、それも学術施設のど真ん中にヘリが落ちた事実について論じる知識人のなんと少ないことか。

あえてもう一度、ここで皆に問いたい。
沖縄はただの癒しの島か? 疲れきった日本人の、都合のいい楽園か?
戦争を乗り越え平和を望む人々の叫びを無視して、無責任なこと言うなよ。
領土問題を論じるなら、沖縄の事件も平等に土俵に上げるべきだよな?
沖縄に住む人間だって、平和に暮らす最低限の権利がある。そうだろ?

なぜだろう。多くの日本人が、この問題に目を覆い、耳を塞ぐ。
俺たちが生まれる前に沖縄は日本になったけど、現実はなんも変わっちゃいないぜ。
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