上 下
31 / 102
西原っ子純情

5.不良少年

しおりを挟む
 At Nishihara Town, Okinawa; February,1988 and July 6, 1988.
 The narrator of this story is Akinobu Yagami.

二月の強い風に吹かれながら俺たちは校庭を突っ切り、ひなびた天ぷら屋へと向かった。
沖縄の天ぷら屋は、そのほとんどが魚屋の隣にある。沖縄は冬場でも、日中の気温が二十度を超える日が多い。食べ物がすぐダメになるから、新鮮でなくなり始めた魚やイカを、天ぷらに仕立てるのだ。イモ(沖縄でイモといえば例外なくサツマイモを指す)の天ぷらも人気が高い。それぞれ、一本三十円くらいで手に入る。
育ち盛りの男子(女子も?)中学生にとって、夕飯までのこの時間帯は天ぷらタイムなのだ。あちこーこー(熱々)の天ぷらにはソースが相場と決まっている。俺たちは黙々と天ぷらを食っていた。

この天ぷら屋の店内にはマンガ本も多く、加えて、店の隅っこに古いゲーム機をいくつか置いていた。時代遅れのインベーダーゲームやブロック崩しなどだ。だから、不良の溜まり場になっていた。
これくらい古い機種だと、実は隠れた裏ワザが使える。不正硬貨を受け付けるのだ。たとえば、百円でワンゲームという機種だと、すこし潰して大きくした五十円玉でもOK。さらに、コインの返却ボタンが壊れている場合は、一枚の硬貨で何回でもプレイできることがある。
この天ぷら屋の機械が、まさにそれだった。俺たちは何度か、不正硬貨を使ってゲームを楽しんだ。今日もそのつもりだった。特に、上間の件で俺はイライラしていた。
壊れかけたゲーム機の椅子に腰掛け、潰した五十円玉を入れたときだ。
「おい、そこの兄ちゃん」
軽めのトーンだが鋭さのある声が耳に刺さった。振り向いた俺は血の気が引いた。男は派手なデザインのメットを抱えていた。そういえば最近、このあたりでも暴走族が増えている。
「困るんだよねぇ、俺たちのシマでそんなもの使われちゃ」
楽しげに鳴り響くゲーム機の側で、俺はただ固まった。動けなかった。

三年生に上がった俺は、暴走族の下っ端として夜中にバイクを飛ばすようになった。
父親は浮気相手と出て行ったまま、何の連絡も寄越さない。母親はパートに出かけ、姉は中学を出た後インスタント食品をケースに詰める仕事についていたが、どっちにせよ、たいした収入は見込めなかった。

高校へなんか進学できそうもない。それならば、勉強しても意味が無い。

新しいクラスの雰囲気には全然なじめず、担任とは全く相容れなかった。次第に俺は荒れた。やがて不登校気味になり、町廻りと称して例の男と行動を共にするようになった。酒を飲み、煙草を吸い、意味もなく外泊を繰り返し、帰宅すれば家具や窓ガラスを叩いて壊した。母や姉は大声で泣き喚くだけだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ももたろう~the Peach Boy

くるみあるく
児童書・童話
「サザン・ホスピタル短編集」の登場人物8名による昔話・桃太郎の戯曲(?)です。沖縄方言と英語のナレーションで進行します。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

マルディグラの朝

くるみあるく
恋愛
この小説は第2回おきなわ文学賞小説部門佳作作品です。すでに作品集『はなうる2006』(財団法人沖縄県文化振興会)に収録して出版済みのものを改定し、今回再収録しました。『サザン・ホスピタル短編集』の番外編であり最終章となります。 沖縄から外科医を目指そうとアメリカ・UCLAに留学した東風平理那(こちんだ・りな)はある日、大学構内で黒人の青年ダニエルと出会います。大柄な身体のわりに人なつっこいダニエルはトランペット奏者としてあちこちのバンドで活躍していました。何度か彼の出演する舞台を観たり一緒に美術館へ行ったりと二人は急速に接近しますが友人のままでいました。 ある日、絵画展へ招待された理那はダニエルと出かけ、そこで繰り広げられる南京大虐殺の絵の前で衝撃を受け倒れてしまいます。ダニエルは家へ連れ帰り理那を介抱しますが、そこへ理那のルームメイトであるトモエが理那を連れ戻しに来ます。人種差別発言を繰り返すトモエに理那は激怒、そのままダニエルと暮らすことに。 やがて理那は妊娠。両親に内緒で兄から送金してもらおうと実家に電話をすると、出たのは母親でした。「帰っておいで」との優しい言葉に涙しつつ理那は沖縄へ一時帰郷します。つわりが落ち着いた頃、ダニエルが理那に会いに沖縄へやってきました……。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく
恋愛
1980年代〜2000年あたりの現代沖縄、後半部はロサンゼルスを交えた舞台に展開する青春ドラマです。最初の作品発表は2005年(当時アルファポリスに外部URL登録していました)。現在、ノベルアップ+に連載している内容をこちらへ再収録します。 糸満市生まれの上間(うえま・つとむ)はアメリカ白人系クォーター。西原町へ引っ越した後も、金髪で色白な容姿を理由に同級生らからイジメの対象になってます。 ある日、勉はいじめっ子たちから万引きするよう脅迫され、近所の商店からチョコレートを盗み出そうとして店主にとがめられ、警察へ突き出されそうになります。窮地を救ったのは同級生である東風平多恵子(こちんだ・たえこ)の父親、長助でした。長助はチョコレート代金を払って勉を連れ出すと、近くの公園でサンシンを演奏しはじめます。サンシンの音色に心を動かされた勉は以後、多恵子に内緒で長助からサンシンを習い始めます。 演奏の上達とともに自分に自信をつけ始めた勉はもともと頭が良かったこともあり、席次はつねにトップ。中学では級長に選ばれるまでになりましたが、多恵子にはサンシンの件をずっと内緒にしつづけます。 人命救助に当たったことをきっかけに、勉は医者になりたいと願うように。ちょうどその頃、第二アメリカ海軍病院であるサザン・ホスピタルが優秀な人材を確保するため奨学生の募集を始めた、という情報を耳にします。母親が夜逃げするという事態が起きた後も、長助夫婦らは彼をサポートしつづけるのでした。 やがて勉は国立大学医学科に合格し、サザン・ホスピタルの奨学生として奨学金をうけながら医師国家試験の合格を目指します。一方、東風平夫妻の一人娘である多恵子は看護師として働き始めました。勉が研修医としてサザン・ホスピタルに勤め始めたのをきっかけに、多恵子もまた自らのステップアップのためサザン・ホスピタルへ転職します。 多恵子のことを今までウーマクー(わんぱく、おてんば)な幼馴染としか思っていなかった勉でしたが、同僚としての彼女は想像以上に優秀な看護師でした。やがて勉は多恵子を意識するようになりますが、天然な多恵子は全然気にする様子がありません。はてしてこの二人、どうなっていくのやら……?  沖縄那覇方言/日本語/英語を使用し、爽やかさ全開トリリンガルにお届け。

処理中です...