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西原っ子純情
1.のぞき見の代償(1)
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At Nishihara Town, Okinawa; May,1987.
At Nishihara Town, Okinawa; December,1983.
The narrator of this story is Akinobu Yagami.
忘れもしない、中学二年の五月。
その日は体育の授業があった。2クラス合同で行われるため、女子は三組、男子は四組でそれぞれ分かれて着替える。しかし、所詮は隣同士だ。ベランダづたいに行こうと思えば、簡単に行ける。
「おい、ちょっと覗きに行かねーか?」
言いだしっぺのオオシロの言葉に、俺を含めたクラスの男子三、四名が飛びついた。同じ年齢の異性の体に興味が無い、といえば嘘になるだろう。俺たちは手早く着替えを済ませ、そっとベランダづたいに自分のクラスを目指した。
すぐにたどり着いたものの、女子の方も心得たもので、窓は鍵が掛かっているし、カーテンもしっかり閉ざされている。
が、俺は知っていた。一ヶ所だけ、クレセントがまわらない場所があることを。
窓際にある俺の机の下側だ。たまたま授業中、落とした消しゴムを拾おうとして、その存在に気がついたのだ。そこだけ、クレセントそのものが凍りついたように、まったく動かなくなっている。
俺は仲間を手招きして、窓枠をそっと動かした。垂れ下がってきた窓際のカーテンをそっと上へめくると、薄暗い教室の風景が目の前に広がった。ブルマに着替えたのだろう。机の脚の間から、何名かの同級生のふくらはぎの部分が見える。その時だ。
「あんたたち、何やってるの?」
俺たちの頭の上から声がした。ぎくりとして顔をあげた。
あろうことか、声の主は東風平多恵子だ。俺にとってこれはかなり致命傷だった。多恵子が学校一のウーマクー女だからとか、背が低く胸のない奴だから、ではない。俺はひそかに多恵子を心憎からず思っていた、いや、はっきり言おう。俺は多恵子に惚れていた。
俺が東風平多恵子を知ったのは小学校三年生の時だっただろうか。俺たちはクラスメートだった。
俺には、二つ年上のケイコという名の姉がいる。小さな頃から知的障害があり、いわゆる「みどり学級」に籍を置いていた。姉は俺を「アキ、アキ」と可愛がってくれていたが、俺は周囲から馬鹿にされるのが嫌で、学校では姉とほとんど口を利かなかった。
身内の俺でさえそうなのだ。みどり学級の児童と進んで仲良くなろうとする子供は、本当に少ない。そんな中で多恵子はいつも笑顔で姉と接していた。姉だけでなく、誰とでも公平に付き合った。彼女がナースという職業を選んだのは、当然の成り行きだと今でも思う。
姉は当時から体が大きかった。まだ五年生にもかかわらず、女性らしいふっくらした体つきをしていて、毎日、通学の途中、道を行く男たちが、姉に意味深な視線を送っていた。
ある日、姉が見知らぬ男に引っ張って行かれそうになったことがあった。でも、近くを通りかかった多恵子が、機転を利かせて姉に声を掛けてくれたのだ。
「ケイコさーん、アキが探してるよ? 一緒に帰ろう!」
多恵子の大声にびくついた男は、慌ててその場を立ち去ったという。そして、多恵子がその男の容姿を近くの交番へ通報してくれたお陰で、姉は救われたのだ。
At Nishihara Town, Okinawa; December,1983.
The narrator of this story is Akinobu Yagami.
忘れもしない、中学二年の五月。
その日は体育の授業があった。2クラス合同で行われるため、女子は三組、男子は四組でそれぞれ分かれて着替える。しかし、所詮は隣同士だ。ベランダづたいに行こうと思えば、簡単に行ける。
「おい、ちょっと覗きに行かねーか?」
言いだしっぺのオオシロの言葉に、俺を含めたクラスの男子三、四名が飛びついた。同じ年齢の異性の体に興味が無い、といえば嘘になるだろう。俺たちは手早く着替えを済ませ、そっとベランダづたいに自分のクラスを目指した。
すぐにたどり着いたものの、女子の方も心得たもので、窓は鍵が掛かっているし、カーテンもしっかり閉ざされている。
が、俺は知っていた。一ヶ所だけ、クレセントがまわらない場所があることを。
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俺は仲間を手招きして、窓枠をそっと動かした。垂れ下がってきた窓際のカーテンをそっと上へめくると、薄暗い教室の風景が目の前に広がった。ブルマに着替えたのだろう。机の脚の間から、何名かの同級生のふくらはぎの部分が見える。その時だ。
「あんたたち、何やってるの?」
俺たちの頭の上から声がした。ぎくりとして顔をあげた。
あろうことか、声の主は東風平多恵子だ。俺にとってこれはかなり致命傷だった。多恵子が学校一のウーマクー女だからとか、背が低く胸のない奴だから、ではない。俺はひそかに多恵子を心憎からず思っていた、いや、はっきり言おう。俺は多恵子に惚れていた。
俺が東風平多恵子を知ったのは小学校三年生の時だっただろうか。俺たちはクラスメートだった。
俺には、二つ年上のケイコという名の姉がいる。小さな頃から知的障害があり、いわゆる「みどり学級」に籍を置いていた。姉は俺を「アキ、アキ」と可愛がってくれていたが、俺は周囲から馬鹿にされるのが嫌で、学校では姉とほとんど口を利かなかった。
身内の俺でさえそうなのだ。みどり学級の児童と進んで仲良くなろうとする子供は、本当に少ない。そんな中で多恵子はいつも笑顔で姉と接していた。姉だけでなく、誰とでも公平に付き合った。彼女がナースという職業を選んだのは、当然の成り行きだと今でも思う。
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ある日、姉が見知らぬ男に引っ張って行かれそうになったことがあった。でも、近くを通りかかった多恵子が、機転を利かせて姉に声を掛けてくれたのだ。
「ケイコさーん、アキが探してるよ? 一緒に帰ろう!」
多恵子の大声にびくついた男は、慌ててその場を立ち去ったという。そして、多恵子がその男の容姿を近くの交番へ通報してくれたお陰で、姉は救われたのだ。
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