サザン・ホスピタル 短編集

エイプリル・フール

2.嘘つきではないです

　　At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; 5:45PM JST April 1, 2001.
　　At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; April 2, 2001.
　At Ginowan City, Okinawa; April 1, 2011.
　The narrator of this story is Taeko Kochinda.

で、夕食前に二人でサザン・ホスピタルに帰った。
「入籍してきた」
そう言っても、だーれも信じなかった。
「じゃあ、多恵子は上間さんなの？」
何名かのナースがそう問いかけてきたんだけど、
「いや、僕が東風平こちんだになりました」
という勉の返事を聞くと、爆笑して取り合わなかった。ただ一人、勉の主治医だった照喜名てるきな先生を除いて。
「それは、おめでとうございます」
そういったあと、照喜名先生はぼそっとつぶやいた。
「カルテのお名前と、ベッドサイドのネームプレートと、病室の表札、書き換えなくっちゃ」

翌日から、問い合わせの電話やＦＡＸが新居に殺到した。
あと、あたしは休みだったからよくわからないけど、勉の病室も大変だったとか。そりゃそうだ。勉はサザン・ホスピタルのスタッフなんだから。本当だと知った他のスタッフが、結婚の挨拶に入れ替わり立ち替わり訪れていたらしい。
「だから言ったでしょう。結婚して名前変えたって」
平然とそうつぶやく勉の横で、島ちゃんからもらった花束が風に揺れていた。

で、今日は十年目の結婚記念日なんですが。

勉は何も言わないで朝から出勤しました。
やっぱりあれは、今日のこと、忘れているはず。帰ってきたら、めーごーさー（げんこつ）しよう。

子供は今度、小学二年生と幼稚園生で、まだ春休みだから家の中で遊んでいる。
「今日はね、お父さんとお母さんの結婚記念日なんだよ」
そう言ったら、上の子に早速、言われました。
「お母さん、嘘ついてるでしょ？」

……嘘じゃないんだけどなー。
ま、いいか。いつか信じてくれるでしょう。

そういえば、さっき花束が届いてた。
島ちゃんってば、あんたは人の事ばっかり考えないで、早くみどりさんと結婚しなさいよ。
ま、必かんなじ、今日、入籍する必要はないと思うけどさ。
（ＦＩＮ）