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6.仮縫のドレスで
しおりを挟むあれから三ヶ月後。
あたしは、母と妹の由希と裕太のお母さんと4名で、那覇のおもろまちにある、とある仕立屋さんにいた。結婚式のドレスを2着注文したのだ。
レンタルでも良かったんだけど、裕太が
「ドレスくらい作っちゃえば?」
と言ったので作ることにしたんだ。ウェディングドレスと紅色のカクテルドレス。思ったより結構安いんですよ。セミオーダー(既存のドレスからサイズを補正するタイプ)とかだと2着で15万いかないの。ちょっとびっくりした。両方ともオプションでちょっと派手目な演出にして、普段はそれを取り外してシンプルな礼装服としても使えるようにしてもらった。これで15万は安いよ。っていうか、あたしより、妹の由希が興奮していましたよ。
「ねー、お姉ちゃん。あたしにも貸して!」
あのねー、あんたはまず彼氏を見つけるのが先でしょう?
で、本日が本番前の衣装合わせの日でございます。
「里香、よく似合ってるわー」
「お姉ちゃん、きれい!」
「うちのお祖母ちゃまにも見せたかったわー。里香さんは大のお気に入りだったから」
裕太のお母さんって、とってもいい方。優しくって、柔らかくって。上質の羽毛布団みたい。
宗家の嫁でもいいかなーと思えたのは、裕太も、もちろんいい人だけど、照喜名のお母さんの存在もすごく大きい。
車が停まる音がした。あれ、裕太かな。今日はできれば勤務を早めに切り上げて立ち会いたいと言ってたし。
自動ドアが開き、ちり-んちりーんと小さな鈴たちが来客を告げる。入ってきたのは裕太と、あれれ、親友で同僚の多恵子だ! 続けて男性が二人。お一人は裕太と同じ位の年頃で、もうお一人は五十過ぎくらい。誰だろう?
「里香、ごめんちょっと訳ありで多恵子さんたち連れてきた」
裕太に構わず多恵子は男性2人を手招きしながら、しげしげとあたしのカクテルドレス姿を眺めている。
「島ちゃん、お父さん、こっちだよ。里香。あんた、すごい服着てるねー?」
「多恵子、この人たちは?」
「失礼しました。ダチビン出版の島袋です」
若い方の男性が名刺を出した。ああ、島袋さん! サザン・ホスピタルで一度だけお会いしたことがある。
「あら、ダチビン出版の方ね」
「どうも3年前は取材にご協力ありがとうございました」
裕太のお母さんはカバンから小さな冊子を取り出してページをめくる。『大正時代の那覇・首里』。ああ、照喜名医院が見開きで特集された記事、島袋さんが担当だったんだ。
「今日は粟国さんにお尋ねしたいことがあって」
あたし? きょとんとすると、もう一人の男性が近づいてきた。
「里香さん、多恵子の父親やしが」
多恵子のお父さん! そうだ、そうだよ。多恵子の披露宴でサンシン弾いてた。
「お久しぶりです」
すると東風平さんは胸ポケットからなにやら取り出した。名刺より少し大きめの紙切れ。覗き込んであっと叫ぶ。
震える両手の中で、1978年5月28日の、父の、家族全員の笑顔があった。
「やっぱり、粟国さんだったんだ」
「島袋さん、ビンゴですよ!」
「やりー、さっすが島ちゃん!」
隣で裕太が感心したように呟き、多恵子が島袋さんの肩をバンと叩いた。島袋さんは頭を掻きながら微笑んだ。
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