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Epilogue
4.結婚式~前段階から破天荒(汗)
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At Southern Garden in the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; April 14, 2001.
Now, the narrator returns to Tsutomu Kochinda(Uema).
このあと結婚式の記述が長くなります。よろしくお願いします。
二〇〇一年四月十四日の昼、僕らはサザン・ガーデンで簡単な結婚式を挙げた。
その日は、みごとに晴れた。身内は、師匠と東風平の母だけ。あとは整形外科スタッフと元気な野次馬の患者さんたちが、病棟から歩いてぞろぞろやってきた。リハビリルームのセラピストさんたちは、なぜかビデオカメラまで構えている。あの、それ、患者さんの動きを計測する備品のカメラだよね? 使っていいの?
「大丈夫ですよ。上間先生の歩行の様子を納めますから」
そ、そういう問題ではないと思うのですが……。
どこから聞きつけたのか、入院患者さんでもない松田房子さんと田本ユミさんまで仲良く椅子に腰掛けている。よせばいいのに、高校生になったばかりのカカズ君が、募金箱と称したカンを持ってみんなからお祝儀を集めている。
まだ四月というのに、教会の中は異様な熱気が立ち込めていた。
国吉先生からは大きな花束が、Ms. DiffendarferとDianaとAlexisからは電報が届いてた。土曜日なので、国吉先生は学校の公務を抜け出せなかったらしい。アメリカからの電報には、Dianaが9月に中学生になったら沖縄の中学校との交換留学に絶対応募するから、ホームステイの準備よろしくね、と書かれてあった。いつもながら気の早いこと。
「うわー、やっぱり、緊張するー。クラリネットで生演奏なんて」
教会に置いてある古びたオルガンの椅子に腰掛けながら、照喜名が青ざめた顔で叫んでいる。すぐ側でマギーが微笑んでこう話しかけた。
“Don't worry, Dr. Terukina ! Let's enjoy ourselves !”
(心配ないわよ照喜名先生。楽しみましょう!)
そうだよ。たかが一分間の演奏でしょうが。いいよ、ちょっとぐらい外れても。
「一応、練習してきたんですけどね。リード交換しとこうっと」
そういいつつ、照喜名はクラリネットを分解している。でもさ君、さっきも同じことしてなかったっけ?
“Taeko ! Wow ! How beautiful you are !”
(多恵子! わあ、とてもきれいよ!)
「多恵子ちゃん、ウェディングドレス着たんだ!」
マギーと美樹先生の叫び声で、座ってた皆が扉の外に目を向けた。僕も驚いて多恵子を見た。どうしたんだその格好? 借りたのか? いつの間に?
「このドレス、千秋の手作りってさ」
多恵子はウェディングドレスの裾を摘みながら言った。千秋さんが多恵子の後ろに回って入念にチェックしながら、満足そうに、にんまりしてます。
「うーん、我ながら、良い出来栄えだ!」
そうか、入籍してすぐ千秋さんから多恵子のサイズ聞かれたから寝床でこっそり計っておいたんだ。そういうことだったのか。
「千秋、ありがとうね。これ、高かったんじゃないの?」
多恵子が尋ねると、千秋さんはこう答えたのだ。
「ううん、それ、メイクマンの赤札市でカーテン大安売りしてたから、適当に買って縫っただけ。だから、丸洗いOKだよ」
「僕と一緒に買い出したんです。僕も、袖を少し縫いました」
千秋さんのそばで、ナカダさんがにこにこしている。周りから歓声が上がった。
「嘘、これ、カーテン?」
「すごい! 絶対わからない! 千秋ちゃん、いい腕してるわー」
それを聞いた多恵子は、目を輝かせて、喜んでこう言いましたとさ。
「丸洗いできるんだったら、これからもいっぱい着るさー、ありがとうね!」
僕は頭を抱えた。
あのね、お嬢さん。汝や此ぬ先、幾回ん結婚式すんでぃ言る肝ぇーどぅ、やんなー?
でも、確かに今日の多恵子は、抜群に、きれいだ。
たとえ衣装がカーテンだったとしても。
「多恵子、おめでとう! 今日はウェディングケーキの代わりに、病棟のみんなとマドレーヌいっぱい焼いてきたよー」
粟国さんがそう言いながら、ナース達と紙袋を抱えてやってきた。多恵子が紙袋を覗き込む。
「あい、すごい! マドレーヌてんこもりだ」
「これだったら、ティーパーティーで簡単につまめるでしょ? イースターエッグもあるし」
そういえば、教会の外に事務用のテーブルが出てたな。なるほど。そういうことか。
次に、多恵子はタキシード姿の伊東先生を手招きした。僕も松葉杖をついて彼女と並び、頭を下げた。
「先生、本日はエスコート役、よろしくお願いします」
「多恵子ちゃん、こんな大役、僕でよかったの? ご家族は?」
「そこに座ってます。うちの父親は絶対、歩かないそうです」
多恵子が座席の一角を指差した。そうなんですよ。師匠は表に立つのがとにかく大嫌いなんです。東風平の母が言ってた。自分たちの結婚式のとき、あがりまくった師匠はひな壇でひたすらビール飲んで途中で倒れたって。式の途中でおひらきになったらしい。僕は師匠からの紹介で結婚式の余興のバイトに結構携わっていたけど、そんな話初めて聞いたよ。
伊東先生が師匠の元へ歩み寄った。師匠と東風平の母が頭を下げている。
「どうも、伊東です。本日はおめでとうございます」
「どうも先生、先日は多恵子がいろいろ、お世話になりまして。すみませんねー、うちのお父さんは、こんなの苦手なものだから。今日は、よろしくお願いしますね」
僕も二人の側へ行った。事前に何度か話はしていたけど、きちんとお詫びをしなくては。
「今日や申し訳ねーやびらんたん。本当やれー、なーひん(もう少し)、大祝儀しーびちどぅやいびーしが」
この件に関しては、心から多恵子や師匠ご夫妻に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。殊に女性やその家族にとって、結婚式は人生の一大イベントのはず。まして、ここは沖縄だ。結婚式ともなればホテルの宴会場を貸し切って親戚中招いて(参列者が二百人以上なんてザラです)派手に祝うのが普通なのだ。
でも、僕には式に参列する家族や親戚がいない。その上、僕は障害者だ。今後の生活を考えるととてもじゃないが、盛大な披露宴をしてやることができない。
「勉、心配すな。汝達が良たされー、我達や済むんどー」
師匠は優しい声でそう答え、僕の肩を抱いた。側で、東風平の母の声が響く。
「なんで、いいさー。こんなのはアットホームなのが一番よー。ね、多恵子?」
「勉、あたしも心からそう思ってるよ。やたらお金かけてさ、変な人達がやって来て空騒ぎするよりずっとずっーとマシだよ」
母娘二人の会話に、思わず僕は眼鏡を外し、目頭を押さえた。多恵子は東風平家の大事な一人娘なのに。本当に、申し訳ない。(5.へつづく)
Now, the narrator returns to Tsutomu Kochinda(Uema).
このあと結婚式の記述が長くなります。よろしくお願いします。
二〇〇一年四月十四日の昼、僕らはサザン・ガーデンで簡単な結婚式を挙げた。
その日は、みごとに晴れた。身内は、師匠と東風平の母だけ。あとは整形外科スタッフと元気な野次馬の患者さんたちが、病棟から歩いてぞろぞろやってきた。リハビリルームのセラピストさんたちは、なぜかビデオカメラまで構えている。あの、それ、患者さんの動きを計測する備品のカメラだよね? 使っていいの?
「大丈夫ですよ。上間先生の歩行の様子を納めますから」
そ、そういう問題ではないと思うのですが……。
どこから聞きつけたのか、入院患者さんでもない松田房子さんと田本ユミさんまで仲良く椅子に腰掛けている。よせばいいのに、高校生になったばかりのカカズ君が、募金箱と称したカンを持ってみんなからお祝儀を集めている。
まだ四月というのに、教会の中は異様な熱気が立ち込めていた。
国吉先生からは大きな花束が、Ms. DiffendarferとDianaとAlexisからは電報が届いてた。土曜日なので、国吉先生は学校の公務を抜け出せなかったらしい。アメリカからの電報には、Dianaが9月に中学生になったら沖縄の中学校との交換留学に絶対応募するから、ホームステイの準備よろしくね、と書かれてあった。いつもながら気の早いこと。
「うわー、やっぱり、緊張するー。クラリネットで生演奏なんて」
教会に置いてある古びたオルガンの椅子に腰掛けながら、照喜名が青ざめた顔で叫んでいる。すぐ側でマギーが微笑んでこう話しかけた。
“Don't worry, Dr. Terukina ! Let's enjoy ourselves !”
(心配ないわよ照喜名先生。楽しみましょう!)
そうだよ。たかが一分間の演奏でしょうが。いいよ、ちょっとぐらい外れても。
「一応、練習してきたんですけどね。リード交換しとこうっと」
そういいつつ、照喜名はクラリネットを分解している。でもさ君、さっきも同じことしてなかったっけ?
“Taeko ! Wow ! How beautiful you are !”
(多恵子! わあ、とてもきれいよ!)
「多恵子ちゃん、ウェディングドレス着たんだ!」
マギーと美樹先生の叫び声で、座ってた皆が扉の外に目を向けた。僕も驚いて多恵子を見た。どうしたんだその格好? 借りたのか? いつの間に?
「このドレス、千秋の手作りってさ」
多恵子はウェディングドレスの裾を摘みながら言った。千秋さんが多恵子の後ろに回って入念にチェックしながら、満足そうに、にんまりしてます。
「うーん、我ながら、良い出来栄えだ!」
そうか、入籍してすぐ千秋さんから多恵子のサイズ聞かれたから寝床でこっそり計っておいたんだ。そういうことだったのか。
「千秋、ありがとうね。これ、高かったんじゃないの?」
多恵子が尋ねると、千秋さんはこう答えたのだ。
「ううん、それ、メイクマンの赤札市でカーテン大安売りしてたから、適当に買って縫っただけ。だから、丸洗いOKだよ」
「僕と一緒に買い出したんです。僕も、袖を少し縫いました」
千秋さんのそばで、ナカダさんがにこにこしている。周りから歓声が上がった。
「嘘、これ、カーテン?」
「すごい! 絶対わからない! 千秋ちゃん、いい腕してるわー」
それを聞いた多恵子は、目を輝かせて、喜んでこう言いましたとさ。
「丸洗いできるんだったら、これからもいっぱい着るさー、ありがとうね!」
僕は頭を抱えた。
あのね、お嬢さん。汝や此ぬ先、幾回ん結婚式すんでぃ言る肝ぇーどぅ、やんなー?
でも、確かに今日の多恵子は、抜群に、きれいだ。
たとえ衣装がカーテンだったとしても。
「多恵子、おめでとう! 今日はウェディングケーキの代わりに、病棟のみんなとマドレーヌいっぱい焼いてきたよー」
粟国さんがそう言いながら、ナース達と紙袋を抱えてやってきた。多恵子が紙袋を覗き込む。
「あい、すごい! マドレーヌてんこもりだ」
「これだったら、ティーパーティーで簡単につまめるでしょ? イースターエッグもあるし」
そういえば、教会の外に事務用のテーブルが出てたな。なるほど。そういうことか。
次に、多恵子はタキシード姿の伊東先生を手招きした。僕も松葉杖をついて彼女と並び、頭を下げた。
「先生、本日はエスコート役、よろしくお願いします」
「多恵子ちゃん、こんな大役、僕でよかったの? ご家族は?」
「そこに座ってます。うちの父親は絶対、歩かないそうです」
多恵子が座席の一角を指差した。そうなんですよ。師匠は表に立つのがとにかく大嫌いなんです。東風平の母が言ってた。自分たちの結婚式のとき、あがりまくった師匠はひな壇でひたすらビール飲んで途中で倒れたって。式の途中でおひらきになったらしい。僕は師匠からの紹介で結婚式の余興のバイトに結構携わっていたけど、そんな話初めて聞いたよ。
伊東先生が師匠の元へ歩み寄った。師匠と東風平の母が頭を下げている。
「どうも、伊東です。本日はおめでとうございます」
「どうも先生、先日は多恵子がいろいろ、お世話になりまして。すみませんねー、うちのお父さんは、こんなの苦手なものだから。今日は、よろしくお願いしますね」
僕も二人の側へ行った。事前に何度か話はしていたけど、きちんとお詫びをしなくては。
「今日や申し訳ねーやびらんたん。本当やれー、なーひん(もう少し)、大祝儀しーびちどぅやいびーしが」
この件に関しては、心から多恵子や師匠ご夫妻に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。殊に女性やその家族にとって、結婚式は人生の一大イベントのはず。まして、ここは沖縄だ。結婚式ともなればホテルの宴会場を貸し切って親戚中招いて(参列者が二百人以上なんてザラです)派手に祝うのが普通なのだ。
でも、僕には式に参列する家族や親戚がいない。その上、僕は障害者だ。今後の生活を考えるととてもじゃないが、盛大な披露宴をしてやることができない。
「勉、心配すな。汝達が良たされー、我達や済むんどー」
師匠は優しい声でそう答え、僕の肩を抱いた。側で、東風平の母の声が響く。
「なんで、いいさー。こんなのはアットホームなのが一番よー。ね、多恵子?」
「勉、あたしも心からそう思ってるよ。やたらお金かけてさ、変な人達がやって来て空騒ぎするよりずっとずっーとマシだよ」
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