サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

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Part4 Starting Over

Chapter_08.明日は明日の風が吹く(4)復職

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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, Okinawa; March 22, 2001.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.

コツコツコツ。
「おはようございます。上間先生、これからリハビリですよね」
照喜名てるきな先生がやってきて、ニコニコしている。
「どうです、今日は白衣着てみませんか?」
僕は耳を疑った。白衣だって? まだ四月じゃないのに?
彼は僕の前に真新しい白衣を持ってきた。
「まあ、いいじゃないですか。着てみるだけですよ。さあ!」

照喜名に言われるまま僕は久々に白衣に袖を通し、松葉杖をついて一階のリハビリルームに到着した。一歩足を踏み入れた、そのときだ。
パパーンとクラッカーの音とともに、拍手と指笛が鳴り響いた。
「上間先生!」
「復職おめでとうございまーす!」
「う待ちそーいびーたんどー!」
僕はあっと声を上げた。田本ユミさん、ER看護士のナカダさん、そして、セラピストの皆さんと入院患者さんたちが、ぐるっと僕を取り囲んで温かい拍手をしている。
「上間先生! 帰ってきたんだね?」
そう叫びながら、真っ先に僕の前に飛び出して抱きついたのは、なんとカカズコウヘイ君だ。
「良かったよー。先生が医者辞めるかもって聞いてさ、ずっと、ずっと気が気じゃなかったぜ?」
カカズ君はそう言って泣きながら、僕の手を強く握った。
「俺、今度の春から、高校通うから! 高校行きながら、週末はここでリハビリのボランティアするから! そして、卒業したら、看護学校行って、看護師になるから! だから、俺が一人前の看護師になるまで、絶対、辞めんでよ? ね、絶対だよ?」

縋りつき号泣する彼を抱え、頭を撫でながら、僕は心の中で舌打ちした。
まいったなー。これでまた、サザンに問題児が増えるやっさー?
でも、暴れん坊の患者さんには、これくらいやんちゃなスタッフのほうが、ちょうど釣りあっていいかもしれないな。

僕は研修医時代のように、リハビリルームの窓際に腰掛けると、病室から粟国さんが運んでくれたサンシンを手にとって「祝い節」と「ヒヤミカチ節」を弾いた。周りから温かい拍手が流れた。すると、今度は照喜名がクラリネットを手に僕の側へやって来て「クラリネットこわしちゃった」を吹いたものだから、患者さんたちが大笑いし始めた。
僕らは二人で、ABBAの“Thank you for the music”とBOOMの「島唄」を合奏し、最後に「唐船とうしんどーい」を奏でた。ユミおばぁを先頭に、患者さんとスタッフが一斉にカチャーシーを踊りだした。まさに研修医時代の再来、いや、それ以上の盛況ぶりだ。調子に乗った僕は思わず十分以上も延々と弾き続け、照喜名が息を切らしてふらふらしているのを尻目に、歌声を張り上げた。
やがて僕がサンシンを弦弾ちるびち(二つ以上の弦を一緒に弾く奏法)してフィナーレを告げると、大きな拍手が沸き起こった。ナカダさんの甲高い指笛を合図にどこからともなく三三七拍子が始まり、カカズ君が応援団みたいに仰々しく両手を振ってポーズを決めた。

こうして、僕の人生は再出発の途についた。その後、リハビリアドバイザーを経て整形外科医として本格的に復帰した後も、毎週火曜日にはリハビリの正担当者として、僕はここでサンシンを弾くようになる。セラピストをはじめ、大勢のスタッフの手助けとやってくる患者さんたちの笑顔が僕を支え続けてくれる。だから僕はこの仕事を誇りに思いながら、彼らへの感謝の念を胸に、サザン・ホスピタルで多忙な日々を送っている。
復職してからの僕は、今までより患者さんと向き合う時間が増えた。七月には手術現場にも完全復帰し、電子カルテの管理や研修医の指導も任されるようになった。その結果、宜野湾の新居に帰るのはたいてい午前様で、あの手紙に書いていることを守ってない、と、多恵子には毎日怒られている。
でも、僕は知っている。彼女も心の底では絶えず僕を応援し、支え続けているってことを。オぺの助手として、人生の伴侶として、彼女は僕のプライマリ・ナースで居続けてくれる。
彼女は僕を、無条件で受け入れてくれた。
だから僕も、できるだけ、彼女に対してはそうあり続けたい。

一人前の男としての僕、整形外科医としての僕は、まだ、はじまったばかりだ。

Part4 Starting Over:FIN
Epilogue へ To be continued.
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