サザン・ホスピタル byうるかみるく

くるみあるく

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Part4 Starting Over

Chapter_01.Air Mail(2)勉、一般病棟へ戻る

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At UCLA, Westwood, Los Angeles, California; from December 24, 2000 to January 15, 2001.
The narrator of this story is Tsutomu Uema.

多恵子に電話した夜。Dr. Caldwellを見送った後、僕はベッドに横たわりながら、今までの人生を振り返っていた。
僕は今、たしかに被害者だが、もし運命の歯車がひとつ違えば、僕は加害者だったかもしれない。小学生の頃、僕は新垣あらかき商店で盗みを働こうとしていた。あの時、東風平こちんだ長助師匠に会わなかったら、僕はアウトローの世界へまっしぐらだっただろう。どんな悪いことをしでかしたかもわからない。そして医者になることも当然、なかったはずだ。
僕は、今日までに出会い、今日の僕へ導いてくれた人々に感謝した。師匠をはじめ、東風平のおばさん、国吉先生、Dr. Caldwell、島ちゃん、フィッシュ、サザン・ホスピタルのスタッフに、僕を頼りにしてくれた患者さんたち、そして、UCLAメディカルセンターのスタッフのみんな。
あの事故に巻き込まれてもなお生きていること、そして変わらずにみんなが僕を支えてくれることに、僕は感謝した。

同時に僕は、今まで甘ちゃんだった自分にも気づいていた。
沖縄に居た時、僕は天狗だった。僕は日本とアメリカ、両方の医師免許を得たことに有頂天になり、自分が本当になすべきことを忘れかけていた。患者さんたちの気持ちに立って治療に当たること。そう、医者として一番忘れてはならない大事なことを、僕はようやく思い出したのだ。
僕は生きている。右足以外になんの障害も負うこともなく、ここにいる。神様が持って行ったのは僕のなかのほんの一部で、その見返りに、あまりに多くのことを僕に気づかせてくれた。
だから、僕はあえて言いたい。
アメリカン・ジョークでもなんでもない。あの事故は、神様が僕に下さった、偉大なクリスマス・プレゼントだったのだ、と。

翌日から少しずつ、リハビリが始まった。
まず、立つことから。これはかなり、しんどかった。右足はテニスコートでよく見かけるコンダラを引きずるように重く感じられ、車椅子に体を移しても、すぐに体がだるさを訴える。僕は何度も発熱し、自分の健康に自信を失った。それでもすこしずつ足を動かせるようになり、なんとか自力でトイレに行けるようになったときの喜びは、今でも忘れられない。
自分でできることを少しずつ増やす過程で、僕はMs. Diffendarferに頼んで、アパートの部屋からMDウォークマンと師匠の演奏が録音されたいくつかのMD、そしてサンシンを持ってきてもらった。サンシンを弾くと痛みを忘れることができたし、右手のしびれも改善されるようだった。そして何より、友人が増えた。患者さんや見舞い客がみな僕の部屋を覗くからだ。
やがて僕は、リハビリルームでサンシンを弾くようになった。僕の周りで若い患者さんたちが、毎日、僕のサンシンにあわせてカチャーシーならぬHipHopを踊った。かなりこっけいだったけど、僕はここの名物患者として社会的地位を築きつつあった。

だが、リハビリが順調に軌道に乗り出すと、逆に僕は不安に駆られるようになった。僕はこれからどうなるのか? 医者としてやっていけるのか? 障害を抱えたことで、確かに僕は自分に足りなかったものを見出した。だけど、人並みに働けなくなった僕を、一体誰が雇ってくれるだろう?

僕は、僕自身の今の心境を、偽らざる気持ちを、僕の一番大切な人へ伝えなくてはならないと思った。だが僕には通信手段がなかった。あの事故で、僕のノートパソコンは見事にクラッシュしていたのだ。メールができない以上、ナースとして勤務している多恵子に電話することを僕はためらった。なにより、言いたいことがいっぱいあって、口頭でうまく伝える自信が僕にはなかった。
Royに頼んでUCLAで廃棄処分されたタイプライターを取り寄せ、必死でキーボードを打ち、長い手紙を綴った。僕は祈った。多恵子がありのままの僕を受け入れてくれるように、と。 ((3)へつづく)
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