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Part3 The year of 2000
Chapter_08.子守唄(1)多恵子、ナンパされかける
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At Naha City, Okinawa; 1:30PM to JST, September 30, 2000.
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
多恵子さんのモノローグです。
九月末になったが、沖縄は相変わらず残暑が厳しい。
そんな中、里香は一週間まるまる年休を取った。何でも、東京にあるアロマテラピーの大手専門学校で五日間の初心者入学体験コースを受講して、ついでにイギリス留学の説明会にも出席したいんだって。でもさー、沖縄帰る前に妹の由希さん連れて東京ディズニーランドも回るってよ!
「みんなには内緒にしててねー、ちゃんと多恵子にはお土産買ってきてあげるから」
もう、ホント、調子いいんだから。……じゃあ、イーヨーのぬいぐるみ、お願いね。あたし準夜勤に週四日入るんですから。それくらい、いいでしょ?
久々に取れたオフの日、あたしは那覇へ出た。夜勤明けに受け取ったメールで、沖縄の写真が欲しいと勉に頼まれたのだ。住んでいるアパートの大家さんに小学生の女の子が二人いて、どうやら沖縄についていろいろ質問攻めにあっているらしい。
あたしはちょっと考えて、国際通りにある土産品店をいくつか回ることにした。写真集となると高いが、絵葉書なら手ごろな値段で数多く売られている。プロが撮った航空写真や水中写真をはじめ、八重山竹富島の赤瓦屋根に水牛を写した風景なども好評だし、最近では若いアーティストが沖縄の風物を描いて売り出すことも多い。
観光土産品店の店先で絵葉書をいろいろ物色していたら、口笛が聞こえた。
「そこのお姉ちゃん、観光ねー? 何探してるの?」
半ば呆れて振り返ると、声の主はどう見ても高校生風の男の子だ。あんた、こんな真昼間に勉強もしないでナンパしてるわけ?
こんなふざけた奴は沖縄語で追い払うに限る。あたしは軽く睨みを利かせながら口を開いた。
「いぇー、何考ーとーが? 我顔ぇー、大和人顔そーんなー?」
すると、男の子はあたしに近づき、しげしげとあたしの顔を眺めた。
「ひょっとして、サザン・ホスピタルの看護婦さん?」
あれ、こんな患者さん、いらしたっけな? 首を傾げながらあたしは答えた。
「はい、そうですが?」
「あー、やっぱり! メンタームさんだ! ね、そうでしょ?」
メンタームさん? ますます、わからない。確かにあたしは、塗り薬のメンタームのキャップに描かれたインディアンの少年に似ていると言われる。そういえば、勉はあたしを人に紹介するとき、よく「歩くメンターム」とか言ってたっけな。思い悩むあたしに少年は説明しはじめた。
「サザン・ホスピタルに金髪の上間先生っているでしょ? 俺、お世話になったから」
ははーん、勉の外来の患者さんか。なるほど。納得していると、少年があたしの全身を嘗め回すように見てつぶやいた。
「そうかー。お姉さんが上間先生の彼女かー。全ちメンタームやっさー」
へ? なんであんたがそれを知ってるの? 疑問に思うあたしに構わず、少年は話しかけてくる。
「上間先生、お元気ですか?」
「あ、今、研修でアメリカ行ってるよ」
「アメリカ? 遠いねー。あ、俺、カカズコウヘイって言います」
パソコンで印刷したのだろう。少年はポケットから名前と携帯の番号が書かれた手作りの名刺を取り出した。プリクラの写真がちょこんと貼られている。
「じゃ、俺、近くのCDショップでこれからバイトだから。上間先生によろしく伝えてね。遠距離恋愛頑張ってよー!」
そういってカカズ君は手を振って去っていった。
なんか、妙に馴れ馴れしかったなー。あんなやって沖縄に遊びに来る女の子、みんなナンパしているのかなー?
一応、よろしくと言われた手前、覚えているうちにと思い、手元の携帯で勉にメールを打った。
多恵子@沖縄です。
今さっき、カカズコウヘイって男の人に会ってナンパされそうになりました。
でも、あたしの顔見たら、メンタームって叫んで、上間先生の彼女かって聞かれたよ?
あんたがアメリカにいるって言ったら、驚いてました。
よろしくお伝え下さいだそうです。
絵葉書を十枚くらい選び、ついでにいろいろお菓子を買って店を出ると、今度は違う声がした。
「多恵子さーん!」
ER看護士のナカダさんだ。沖縄は狭い島だから、こうやって行く先々で同僚にはっちゃかる(出くわす)ことも多い。ナカダさんは、あたしの手元にある土産物品店の名前がでかでかとかかれたビニール袋を不思議そうに眺めている。
「おみやげ、ですか?」
「いや、アメリカの上間先生に沖縄のものを送ろうと思って」
「ああ、なるほど」
ナカダさんは頷いて、ポケットからハンカチを取り出し汗をぬぐった。
「今日も暑いですね。ちょっと、どこか、入りませんか?」
((2)へつづく)
The narrator of this story is Taeko Kochinda.
多恵子さんのモノローグです。
九月末になったが、沖縄は相変わらず残暑が厳しい。
そんな中、里香は一週間まるまる年休を取った。何でも、東京にあるアロマテラピーの大手専門学校で五日間の初心者入学体験コースを受講して、ついでにイギリス留学の説明会にも出席したいんだって。でもさー、沖縄帰る前に妹の由希さん連れて東京ディズニーランドも回るってよ!
「みんなには内緒にしててねー、ちゃんと多恵子にはお土産買ってきてあげるから」
もう、ホント、調子いいんだから。……じゃあ、イーヨーのぬいぐるみ、お願いね。あたし準夜勤に週四日入るんですから。それくらい、いいでしょ?
久々に取れたオフの日、あたしは那覇へ出た。夜勤明けに受け取ったメールで、沖縄の写真が欲しいと勉に頼まれたのだ。住んでいるアパートの大家さんに小学生の女の子が二人いて、どうやら沖縄についていろいろ質問攻めにあっているらしい。
あたしはちょっと考えて、国際通りにある土産品店をいくつか回ることにした。写真集となると高いが、絵葉書なら手ごろな値段で数多く売られている。プロが撮った航空写真や水中写真をはじめ、八重山竹富島の赤瓦屋根に水牛を写した風景なども好評だし、最近では若いアーティストが沖縄の風物を描いて売り出すことも多い。
観光土産品店の店先で絵葉書をいろいろ物色していたら、口笛が聞こえた。
「そこのお姉ちゃん、観光ねー? 何探してるの?」
半ば呆れて振り返ると、声の主はどう見ても高校生風の男の子だ。あんた、こんな真昼間に勉強もしないでナンパしてるわけ?
こんなふざけた奴は沖縄語で追い払うに限る。あたしは軽く睨みを利かせながら口を開いた。
「いぇー、何考ーとーが? 我顔ぇー、大和人顔そーんなー?」
すると、男の子はあたしに近づき、しげしげとあたしの顔を眺めた。
「ひょっとして、サザン・ホスピタルの看護婦さん?」
あれ、こんな患者さん、いらしたっけな? 首を傾げながらあたしは答えた。
「はい、そうですが?」
「あー、やっぱり! メンタームさんだ! ね、そうでしょ?」
メンタームさん? ますます、わからない。確かにあたしは、塗り薬のメンタームのキャップに描かれたインディアンの少年に似ていると言われる。そういえば、勉はあたしを人に紹介するとき、よく「歩くメンターム」とか言ってたっけな。思い悩むあたしに少年は説明しはじめた。
「サザン・ホスピタルに金髪の上間先生っているでしょ? 俺、お世話になったから」
ははーん、勉の外来の患者さんか。なるほど。納得していると、少年があたしの全身を嘗め回すように見てつぶやいた。
「そうかー。お姉さんが上間先生の彼女かー。全ちメンタームやっさー」
へ? なんであんたがそれを知ってるの? 疑問に思うあたしに構わず、少年は話しかけてくる。
「上間先生、お元気ですか?」
「あ、今、研修でアメリカ行ってるよ」
「アメリカ? 遠いねー。あ、俺、カカズコウヘイって言います」
パソコンで印刷したのだろう。少年はポケットから名前と携帯の番号が書かれた手作りの名刺を取り出した。プリクラの写真がちょこんと貼られている。
「じゃ、俺、近くのCDショップでこれからバイトだから。上間先生によろしく伝えてね。遠距離恋愛頑張ってよー!」
そういってカカズ君は手を振って去っていった。
なんか、妙に馴れ馴れしかったなー。あんなやって沖縄に遊びに来る女の子、みんなナンパしているのかなー?
一応、よろしくと言われた手前、覚えているうちにと思い、手元の携帯で勉にメールを打った。
多恵子@沖縄です。
今さっき、カカズコウヘイって男の人に会ってナンパされそうになりました。
でも、あたしの顔見たら、メンタームって叫んで、上間先生の彼女かって聞かれたよ?
あんたがアメリカにいるって言ったら、驚いてました。
よろしくお伝え下さいだそうです。
絵葉書を十枚くらい選び、ついでにいろいろお菓子を買って店を出ると、今度は違う声がした。
「多恵子さーん!」
ER看護士のナカダさんだ。沖縄は狭い島だから、こうやって行く先々で同僚にはっちゃかる(出くわす)ことも多い。ナカダさんは、あたしの手元にある土産物品店の名前がでかでかとかかれたビニール袋を不思議そうに眺めている。
「おみやげ、ですか?」
「いや、アメリカの上間先生に沖縄のものを送ろうと思って」
「ああ、なるほど」
ナカダさんは頷いて、ポケットからハンカチを取り出し汗をぬぐった。
「今日も暑いですね。ちょっと、どこか、入りませんか?」
((2)へつづく)
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