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Part3 The year of 2000
Chapter_05.告白(3)勉、UCLAへの派遣が内定する
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At the Southern Hospital, Nakagusuku Village, June 3, 2000.
This time, the narrator changes from Taeko Kochinda into Tsutomu Uema.
一度、勉君のモノローグに切り替わります。
あれは忘れもしない、六月三日、土曜日の午前のことだ。
当直明けの僕はなぜか、内科部長であるDr. Caldwellの部屋に呼び出された。Dr. Caldwellのお宅のホームパーティーに伺うことは年に数回あったが、サザン・ホスピタル内部では内科と外科という全然違う部署に分かれている。外科医の、それも新米の僕が内科部長から呼び出しを受けるなんて、本当に珍しい。
僕は内科部長室のドアを三回ノックした。えー、二回だけだと、トイレです。ノックは必ず三回しましょう。
“Excuse me. May I come in?”
(失礼します、よろしいでしょうか?)
“Please do.”
(どうぞ)
僕はドアを開け、Dr. Caldwellと握手を交わした。
“Dr. Uema, it’s been a long time! I'm glad to see you. Please have a seat.”
(上間先生、久しぶりですね! お越しくださり感謝です。どうぞお掛けください)
椅子を勧められ、僕は腰掛けた。
“Thank you. So, why did you request for me to come?”
(ありがとうございます。ところで、なぜ私は呼ばれたのでしょう?)
“Dr. Uema, you know that our hospital has partnerships with universities and research institutes all over the world, right?”
(上間先生、我々が世界中の大学や専門機関と協力体制にあるのはご存知ですよね)
“Yes.”
(ええ)
“I would like to send you to UCLA Medical Center for a period of two years.”
(上間先生を2年間、UCLAのメディカルセンターへ研修医として推薦したい)
“UCLA? Really? This is unbelievable!”
(UCLA? 本当に?)
急な話に、僕は絶句した。海外研修だって? それも、UCLAへ?
そんな、とても信じられない。第一、僕はまだ整形外科医としては二年目なのだ。海外研修ともなれば、普通は専門医として四年目の人間が対象のはずだ。Dr. Caldwellはにこやかに頷き、続けた。
“You're promising orthopedist. I’m sure it will be good experience for you. May I finalize the decision?”
(あなたは将来有望な整形外科医です。よい経験になるでしょう。本決定にしてもよろしいですね?)
もう本決まりみたいな聞き方をされた。ということは、今回は特例なのかもしれない。裏の事情はよくわからないが、もちろん願ってもないチャンスだ。僕は即答した。
“Yes, of course ! How can ever I thank you?”
(はい、もちろんです! 本当にどう申し上げて良いやら。ありがとうございます!)
握手を交わし、部屋を出た。何度も左の頬をつねったり、叩いたりした。痛い!
にわかには信じがたい。まるで夢みたいだ。でも、現実なんだ!
本当に、本当にうれしかった。今まで、厚い雲が覆いかぶさっていた自分の人生が急に開けて、光が差し込んできたような、そんな気がした。
でも、内科部長室からの帰り道。リハビリルームで患者さんと冗談をいいあい笑っている多恵子を見かけたとき、言いようのない不安に襲われた。
もしも、自分がアメリカから戻ってきたとき、彼女がもうここにいなかったら?
今、彼女は二十六歳だ。自分が居ない間に、どこかの誰かと結婚するかもしれないことは、十分予想できた。彼女のことを考え始めると胸が張り裂けそうだった。耐えられなかった。 ((4)へつづく)
This time, the narrator changes from Taeko Kochinda into Tsutomu Uema.
一度、勉君のモノローグに切り替わります。
あれは忘れもしない、六月三日、土曜日の午前のことだ。
当直明けの僕はなぜか、内科部長であるDr. Caldwellの部屋に呼び出された。Dr. Caldwellのお宅のホームパーティーに伺うことは年に数回あったが、サザン・ホスピタル内部では内科と外科という全然違う部署に分かれている。外科医の、それも新米の僕が内科部長から呼び出しを受けるなんて、本当に珍しい。
僕は内科部長室のドアを三回ノックした。えー、二回だけだと、トイレです。ノックは必ず三回しましょう。
“Excuse me. May I come in?”
(失礼します、よろしいでしょうか?)
“Please do.”
(どうぞ)
僕はドアを開け、Dr. Caldwellと握手を交わした。
“Dr. Uema, it’s been a long time! I'm glad to see you. Please have a seat.”
(上間先生、久しぶりですね! お越しくださり感謝です。どうぞお掛けください)
椅子を勧められ、僕は腰掛けた。
“Thank you. So, why did you request for me to come?”
(ありがとうございます。ところで、なぜ私は呼ばれたのでしょう?)
“Dr. Uema, you know that our hospital has partnerships with universities and research institutes all over the world, right?”
(上間先生、我々が世界中の大学や専門機関と協力体制にあるのはご存知ですよね)
“Yes.”
(ええ)
“I would like to send you to UCLA Medical Center for a period of two years.”
(上間先生を2年間、UCLAのメディカルセンターへ研修医として推薦したい)
“UCLA? Really? This is unbelievable!”
(UCLA? 本当に?)
急な話に、僕は絶句した。海外研修だって? それも、UCLAへ?
そんな、とても信じられない。第一、僕はまだ整形外科医としては二年目なのだ。海外研修ともなれば、普通は専門医として四年目の人間が対象のはずだ。Dr. Caldwellはにこやかに頷き、続けた。
“You're promising orthopedist. I’m sure it will be good experience for you. May I finalize the decision?”
(あなたは将来有望な整形外科医です。よい経験になるでしょう。本決定にしてもよろしいですね?)
もう本決まりみたいな聞き方をされた。ということは、今回は特例なのかもしれない。裏の事情はよくわからないが、もちろん願ってもないチャンスだ。僕は即答した。
“Yes, of course ! How can ever I thank you?”
(はい、もちろんです! 本当にどう申し上げて良いやら。ありがとうございます!)
握手を交わし、部屋を出た。何度も左の頬をつねったり、叩いたりした。痛い!
にわかには信じがたい。まるで夢みたいだ。でも、現実なんだ!
本当に、本当にうれしかった。今まで、厚い雲が覆いかぶさっていた自分の人生が急に開けて、光が差し込んできたような、そんな気がした。
でも、内科部長室からの帰り道。リハビリルームで患者さんと冗談をいいあい笑っている多恵子を見かけたとき、言いようのない不安に襲われた。
もしも、自分がアメリカから戻ってきたとき、彼女がもうここにいなかったら?
今、彼女は二十六歳だ。自分が居ない間に、どこかの誰かと結婚するかもしれないことは、十分予想できた。彼女のことを考え始めると胸が張り裂けそうだった。耐えられなかった。 ((4)へつづく)
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